PFCフリーとは 意味や現状、各メーカーの取り組みをわかりやすく紹介

雪山でジャケットを着ている人

Photo by Kaze 0421 on Unsplash

アウトドアウェアに欠かせない撥水加工。近年は、環境に配慮した「PFCフリー」の技術が浸透しつつある。一方で、安全性への懸念から、過酷な環境下で使用する製品への採用に関しては慎重な姿勢も見られるのが現状だ。本記事では、PFCフリーの意味や課題、各ブランドの取り組みについて解説する。

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2024.01.17
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PFCフリーとは

ジャケットを着込んで雪道を歩く人

Photo by Thom Holmes on Unsplash

PFCフリーとは、環境負荷の低い物質を用いた撥水加工を指す。環境負荷への懸念があるPFCの代わりに、シリコンやパラフィンなどの物質が使われる。いま、素材メーカーやアウトドア業界を中心に、PFCフリーの開発が進められている。

「PFC」とは撥水加工に使われてきたフッ素化合物

PFCとは、英語で「Perfluorocarbon(パーフルオロカーボン)」。撥水加工に使われてきたフッ素化合物のことである。物質同士を結合させにくい性質があるため、水や油、汚れを弾く機能を持たせるのに重宝する。アウトドアウェアやレインウェアに長年採用され、耐久撥水加工において高い効果を発揮してきた。

PFCは加熱や油分に強く、メンテナンスがしやすいのも特徴。洗濯やクリーニングへの耐性があり、汚れやすいアウトドアウェアの性能を維持しやすい点もポイントだ。

「PFC」に含まれる「PFOA」が規制物質に

2000年代以降、PFCによる、環境や人体への悪影響が指摘されるようになった。なかでもPFCに含まれる「PFOA(ペルフルオロオクタン酸)」は、残留性が高く、生物蓄積性を有するとして環境規制を受けている。(※1)

ストックホルム条約(POPs条約)では、2019年5月にPFOAを廃絶物質に追加。国際的な取り組みを強化しているのが現状だ。(※2)

PFCフリーが求められる背景

大自然のなかを歩く人

Photo by Toomas Tartes on Unsplash

PFCフリーが求められる背景としては、上述した通り、PFCに含まれる物質が環境や人体に悪影響を与えることが明らかになったからだ。着用する分には危険性はないものの、製造工程での汚染や廃棄後の残留などが懸念される。残留性の高さから「永遠の化学物質」とも呼ばれている。

米国環境保護庁が「PFOA自主削減プログラム」を発表したのは2006年のこと。世界の大手フッ素化学品メーカーに対し、2015年までにPFOAの全廃を求めた。自主規制の動きが広がるなかで、2019年には、ストックホルム条約でPFOAが廃絶物質に指定された。以降、撥水加工においては、PFOAを含む「C8」タイプの撥水剤から、環境への直接的な害が明らかにされていなかった「C6」タイプのものへと移行した経緯がある。(※3)

C6と呼ばれるPFC撥水加工には、PFOAは含まれない。しかし、C8同様フッ素化合物を使用する点で、懸念が残されていた。各メーカーがC6への移行を進めていた2017年には、C6の有害性を指摘する研究結果が発表された事実がある。(※4)

そこで求められたのが、そもそもPFCに頼らない撥水加工技術の開発だ。性能が高く、使い勝手がよいPFCを、妥協のない形でPFCフリーに切り替えるのは困難を極める。しかし、近年は、各ブランドの継続的な努力により、PFCフリーの開発や採用が進んできている現状がある。

PFCフリーの課題

水飛沫が上がる様子

Photo by Amritanshu Sikdar on Unsplash

PFCフリーへの移行は、単に加工技術を変更すれば済むという話ではない。PFCフリーの大きな課題は、撥水性・撥油性が低いこと。撥水性に関しては、PFCを用いた撥水剤と同等レベルに性能が上がってきているが、撥油性は著しく低いとされている。

撥油性が低いと撥水性の低下につながる。皮脂や汚れが付着したままだと、ウェアが劣化し、撥水性や透湿性の低下を招くのだ。アウトドアフィールドでは、ウェアの機能性が安全面に直結する。撥水機能が維持できないと、ウェアが濡れて体温を奪ってしまう。過酷な環境下では命のリスクにつながる問題であり、それゆえに、PFCフリーの採用はライフスタイル製品を中心に慎重に行われてきた。

一方で、PFCフリーのウェアの機能性は、こまめなメンテナンスによって維持できる。洗濯や乾燥などのセルフケアでウェアをきれいに保つことが重要。(※5)これまで以上に手間をかける必要があるかもしれないが、ひと手間しだいで、機能性維持と環境負荷軽減の両立は可能なのだ。製品を長く大事に使うこと自体も、自然への配慮になるだろう。

アウトドアブランドのPFCフリーへの取り組み

大きな荷物を持って登山をする人

Photo by Patrick Hendry on Unsplash

環境配慮の視点からPFCの全廃が重要とされる一方で、アウトドアウェアにおいては機能性の高さが必須とされる。機能面での課題が残されるPFCフリーへの移行は、各アウトドアブランドともに前向きではあるが、慎重に時間をかけて行っているのが現状だ。以下では、具体的なPFCフリーへの取り組みを見てみよう。

パタゴニア|2025年までにすべてをPFCフリーへ

パタゴニアは、2025年までにすべての耐久性撥水メンブレン・加工をPFCフリーの代替品に切り替えるとしている。2013年から2016年にはC8加工の段階的廃止を達成。C6加工がC8同様に有害であるという結果を受けてからは、機能性に妥協のないPFCフリーの開発を進めてきた。

2019年秋には、パタゴニア初のPFCフリー製品をリリース。2023年秋には、撥水加工を採用した素材の総体積の92%がPFCフリーとなっている。パタゴニアは、ほかの衣料品ブランドにも解決策を共有し、業界全体が変化するよう働きかける。(※6)

モンベル|ウェアの性能と環境負荷の軽減は両立可能

モンベルでは、2015年に製品の撥水成分をC8からC6へ変更。2020年からはPFCフリーへの切り替えを進めている。2023年時点で、トレッキングパンツやスリーピングバッグをはじめ、全商品の約6割がPFCフリー素材となっている。

モンベルは、自然環境を次世代へ引き継ぐために、PFCフリー素材への理解を求めるとともに、メンテナンスの重要性を訴えている。素材の性能を長持ちさせるための専用洗剤や撥水剤なども幅広く展開。製品を長く愛用するためのポイントを発信している。(※7)

マムート|自然環境にやさしく信頼性の高い物質を追求

マムートでは、よりよい方法を見つけるために模索を続けている。2016年にC6系の使用も排除する方針に舵を切って以来、PFCフリーへの取り組みを進めてきた。結果として、アパレル製品のPFCフリー率は、2022年夏に85%を達成。2025年までに100%を目指している。

PFCフリーの製品には、自然に配慮した撥水剤を使用した証としてタグを付けている。適切なケアが必要なことを意味しているタグは、購入者の製品選びの目安にもなる。手間をかけることを価値ととらえ、環境問題と向き合う姿勢を見せている。(※8)

豊かな自然を守るためにPFCフリーの選択を

ウェアの機能性を維持するために、欠かせなかったPFC。安全面に直結する撥水性・撥油性の機能を長らく支えてきた物質だからこそ、すぐにすべてを覆し、PFCフリーに切り替えるのは困難だ。しかし、環境や人体に負荷があるとわかった以上、見直しは急務とされる。

アウトドアブランドやメーカーは、安全面のリスクを考慮しながら、諦めずにPFCフリーへの取り組みを進めている。数年後には、完全にPFCフリーへの移行を達成するブランドも出てくるだろう。今後の動きにも期待したい。そして、私たちは、PFCフリーの製品を選ぶことを通して環境保全に少しでも貢献したい。

※掲載している情報は、2024年1月17日時点のものです。

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