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ミレニアム開発目標(MDGs)は、2015年までに途上国の貧困削減を目指すために採択された、SDGsの前身となる開発目標。一定の成果と課題を残し、SDGsにバトンが渡された。SDGsをより理解するために必要な2つの相違点や特筆すべきポイントについて解説する。
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MDGs(Millennium Development Goals/ミレニアム開発目標)とは、2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択された国際的な目標。(※1)
貧困削減、教育、保健、平和・安全保障などの分野での途上国の持続可能な開発を目指すもので、2015年までに達成すべき8個の目標が掲げられた。
SDGsを中核に置く「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の前身であり、その内容はSDGsに引き継がれている。
国際社会共通の目標であるMDGsの「8つの目標」には、より具体的な21のターゲットと60の指標が設定されている。ちなみに、ターゲットと指標は、目標の達成度合いを評価するための基準となるものだ。
2015年の最終報告書「The Millennium Development Goals Report 2015」(※2)による、各項目の成果と課題をおさらいしてみよう。
1日1.25ドル未満で生活する人口の割合を半減させ、飢餓人口の割合を1990年と比べて半分に減らす。
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1990年には世界人口の約36%(約19億人)、開発途上国の半数に近い人口が1日1.25ドル以下で生活していたが、2015年には約12%(約8.4億人)まで減少した。10億人以上の人々が極度の貧困から脱却したことになる。
飢餓についても、開発途上地域における栄養不足の人口の割合は1990〜92年期で23.3%だったのに対し、2014〜16年期には12.9%まで減少した。その数はほぼ半数となっている。
現在でも、サブサハラ・アフリカ地域を見ると、人口の41%が依然として極度の貧困状態にあり、世界の人口の約10%が極度の貧困に苦しんでいる。
2015年までに、すべての子どもたちが、男女の区別なく、初等教育の全課程を修了できるようにする。
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開発地域における初等教育の就学率は、2000年の83%から2015年には91%まで向上した。とくにサハラ以南アフリカ地域で最大の増加が見られた。
初等教育の学校に通っていない子どもの数は、2000年の1億人から2015年には5,700万人に減少した。
また、15〜24歳の若者の識字率は、1990年の83%から2015年には91%に向上している。
5,700万人の子どもが未だ学校に通えていない。うち、3,300万人がサハラ以南のアフリカで暮らしており、最貧困層家庭の子どもは最富裕層家庭の子どもに比べ、4倍の確率で学校に通えていない。
2005年までに初等・中等教育において、2015年までにすべての教育レベルで、男女格差を解消する。
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開発途上国の3分の2以上で、男女の初等教育の就学率の格差が解消された。
南アジアでは、1990年には100人の男子に比べ、74人の女子が小学校に通学していたが、2015年では100人の男子と比較して103人の女子が通学している。
過去20年のデータを有する174カ国のうち、約90%の国が女性の政治参加が進み、同期間で国会議員に占める女性の割合はほぼ倍増した。
いまだ女性は、就業機会や資産、公私の意思決定において差別に直面している。また、男性に比べ貧困状態に置かれている傾向がある。
国会議員に占める女性の割合が倍増したといっても、いまだ5人に1人にとどまっている。
1990年から2015年までに、5歳未満の幼児の死亡率を3分の2に減少させる。
1990年から2015年にかけて、5歳未満児年間死亡数は1,270万人から590万人と、53%減少した。割合でいうと1,000人あたり90人から43人へと、半分以下に減少している。
はしかの予防接種により、2000年から2013年の間に1,560万人の死亡を防いだ。
2015年の年間の5歳未満児死亡数を地域別に見ると、サハラ以南アフリカ地域が最多の300万人、次いで南アジアが180万人だった。毎日1万6,000人の5歳未満児が命を落としており、その大半は予防可能な病気が原因だ。
格差も課題で、最貧困層家庭の5歳未満の幼児死亡率は、最富裕層家庭の子どもに比べ2倍高い。
1990年から2015年までに、妊産婦の死亡率を4分の3に引き下げる。2015年までに、リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)の完全普及を達成する。
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途上国における妊産婦の死亡率は、1990年から2015年にかけて、10万人あたり380人から210人に減少した。
医療従事者の立会いのもとでの出産は、1990年の59%から2014年には71%に増加した。
妊産婦死亡率は目標の4分の3には届かず、結果的に45%の減少ににとどまった。妊産婦死亡はサハラ以南アフリカと南アジアに集中しており、2013年では世界全体の86%を占める。
医療従事者の立会いによる出産も地域格差が大きく、東アジアの100%に比べ、サハラ以南アフリカと南アジアは52%だ。医療体制が整っていない地域での取り組みが今後も必要とされている。
HIV/エイズの蔓延を阻止、減少させ、必要とするすべての人々がHIV/エイズの治療を受けられるようにする。さらにマラリアおよびその他の主要な疾病の発生率を下げる。
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HIVの新たな感染は、2000年の推定350万人から2013年には210万人と、約40%減少した。
さらに治療等の対策の進展によって、マラリアについては2000年から2015年までに全世界で約620万人以上の命が、結核については2000年から2013年までに約3,700万人の命が救われたと推定される。
新規にHIVに感染した若者(15〜19歳)のうち、3分の2が女性であり、経済状況や地域によってHIVに関する正しい知識の普及には格差がみられる。
マラリアや結核など、治療へのアクセスや効果的な薬の普及に遅れのある地域がある。とくにサハラ以南アフリカでは、治療を受けることができない患者が多くいる。
2015年までに、安全な飲料水と基礎的な衛生施設を持続可能な形で利用できない人々の割合を半減させる。また、2020年までに、最低1億人のスラム居住者の生活を大幅に改善する。
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途上国における飲料水の供給率は、1990年の76%から2015年には91%に向上した。1990年以降、26億人が改善された水源から安全な飲料水を入手できるようになった。
また、2015年時点で世界の人口の68%が改善された衛生設備を利用しており、1990年以降に21億人が新たに利用できるようになった。
改良された衛生施設を利用できない人の割合を半減するとの目標が掲げられていたが、1990年の46%から2015年には32%に減少するにとどまり、3人に1人、約24億人が改善されていない衛生施設を使用している。9億4,600万人はいまだに屋外排泄を行っている。
2015年時点で8億8,000万人がスラムの様な環境下で生活していると推定される。
民間部門と協力し、とくに情報・通信分野の新技術による利益が得られるようにする。
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インターネットの普及率は、2000年から2015年のあいだに世界の人口のわずか6%から43%まで増加した。新たに32億人がインターネットの情報網につながることができたことになる。
2000年からの15年間で携帯電話の契約数は7億3,800万から70億とほぼ10倍まで増加し、2015年時点で世界の人口の95%が、携帯電話の通話可能域で暮らしている。
途上国に対する政府開発援助 (ODA)は、2000年から2014年にかけて66%増加し、1,352億ドルに達した。
インターネットの普及率は先進国の82%に対し、途上国では人口の3分の1にとどまるなど格差問題が浮き彫りになった。
一定の成果がありながらも、残された課題が浮き彫りになったMDGs。以下4つがMDGsの問題点として挙げられる。
MDGsは、1つの国を単位として達成状況をマクロな視点で測定してきた。しかし、アジア諸国のように経済成長を遂げる一方で国内の地域間や所得階層間での格差が拡大している国も多い。国単位で数字を見ていると、女性や子ども、障害者、高齢者、難民など、立場の弱い人々が国内で取り残されてしまうというリスクも浮き彫りになった。
SDGsでは、国内における不平等の是正が目標10に掲げられている。この目標では、国内および国家間の不平等を是正することが目的とされており、貧困や社会的排除、地域格差などに対する取り組みが盛り込まれている。
MDGsでは採択までに国連や専門家が中心となり、採択後は政府主導で取り組みが行われてきた。しかし、近年は開発にかかわる団体の多様化が進んでいるため、各国の政府や国際機関が開発協力に取り組むに当たって、民間企業やNGOなどの市民社会、さらには自治体や個人との連携が不可欠となっている。
開発途上国に流入する民間企業による資金がODAの額を遥かに凌ぐようになっていること、開発途上国の現場や先進国での意識啓発などにNGOの活動が影響を及ぼしていることなどが挙げられる。さらには、世界的な規模の課題を解決するには、ひとりひとりの意識改革や日々の取り組みが必要になってくる。
その点を踏まえて、SDGsでは、国連や政府だけでなく、民間企業や市民社会、個人も取り組み主体として位置づけられている。
MDGsは主に開発途上国の課題解決に焦点を当てたものだったのに対して、SDGsでは先進国も含めてすべての国や地域、人々が対象になっている。
MDGsの達成状況から、国・地域・性別・年齢・経済状況などによる格差が"取り残された人々”を生み出していることが課題として浮き彫りになったからだ。SDGsでは「誰一人取り残さない(leave no one behind)」が誓いとなっている。
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そもそもMDGsでは環境に関する分野に重きが置かれていなかった。8つの目標を見てわかる通り、開発途上国の貧困や教育、健康・保健分野が厚く盛り込まれた内容で構成されている。
環境汚染や気候変動の問題が近年ますます深刻化しており、地球規模での対策が急務であること、そして、開発途上国の生活や経済発展は環境に拠るところが大きいことから、SDGsでは、再生可能エネルギーの普及、省エネルギー技術の開発、森林保護、海洋資源の持続可能な利用など、気候変動に対する具体的な対策が盛り込まれている。
MDGsはある一定の成果を残した。一方で浮き彫りになった枠組み状の問題点や残された課題がある。そこで後継として2015年に採択されたのがSDGsを中核に置く「持続可能な開発のための2030アジェンダ」だ。
MDGsの後継者としてバトンを渡されたSDGs。開発目標の関連性や、特筆すべき違いについて解説することで、SDGsのより深い理解につながる。
SDGsとは、Sustainable Development Goalsの頭文字をとったもので、地球上のさまざまな問題を解決するために、世界中の国々が力を合わせて2030年までに達成しようと決めた17の目標のこと。(※3)
17のゴール・169のターゲットから構成され、貧困や不平等、気候変動や環境劣化、平和と公正など、私たちが直面するグローバルな諸課題の解決を目指すもの。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。
MDGsとSDGsの違いについて、おさえておきたい枠組みの相違点は以下のとおり。
MDGs | SDGs | |
---|---|---|
目標数 | 8つ | 17つ |
ターゲット数 | 21個 | 169個 |
指標数 | 60個 | 232個 |
対象 | 途上国 | 途上国と先進国も含めた全世界 |
策定プロセスの関与者 | 国連が中心に策定 | 国連、各国政府、市民社会、民間企業など |
取り組みの主体 | 政府主導 | 政府・自治体・企業・個人など |
開発目標 | 途上国の貧困削減 | 貧困を撲滅し、持続可能な社会の実現 |
目標数やターゲットが増えたことに加え、対象がMDGsでは途上国のみであったものが、SDGsでは先進国も含めた世界中の国々となっている。
また、MDGsでは政府主導で進められていたが、SDGsでは企業や個人も含む地球上のすべての人々が主体となり取り組むことが目指されている。
MDGsとSDGsにはそれぞれどのような開発目標があるのか。早見表がこちら。SDGsの開発目標に相当するMDGsの開発目標を並べて記載している。それぞれ細かなターゲットや指標を有することから一概には言えないが、MDGsから引き続き設定されているものとSDGsから新たに加わったものを可視化した。
SDGsの17の目標 | MDGsの目標 |
---|---|
1. 貧困をなくそう | 1.極度の貧困と飢餓の撲滅 |
2. 飢餓をゼロに | 1.極度の貧困と飢餓の撲滅 |
3. すべての人に健康と福祉を | 4.乳幼児死亡率の削減 5.妊産婦の健康の改善 6.HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 |
4. 質の高い教育をみんなに | 2.普遍的初等教育の達成 |
5. ジェンダー平等を実現しよう | 3.ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 |
6. 安全な水とトイレを世界中に | 7.環境の持続可能性の確保 |
7. エネルギーをみんなに、そしてクリーンに | |
8. 働きがいも経済成長も | |
9. 産業、技術革新と基盤をつくろう | |
10. 人や国の不平等をなくそう | |
11. 住み続けられるまちづくりを | |
12. つくる責任、つかう責任 | |
13. 気候変動に具体的な対策を | |
14. 海の豊かさを守ろう | |
15. 陸の豊かさも守ろう | |
16. 平和と公正をすべての人に | |
17. パートナーシップで目標を達成しよう | 8.開発のためのグローバル・パートナーシップの推進 |
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MDGsの後継として策定されたSDGs。特筆すべき変更点をみていこう。
地球を持続可能な状態で次世代へと受け継ぐために、そして「誰一人取り残さない」社会を実現するために、世界中の国々と人々が残された課題に取り組むことが目指される。SDGsでは、開発途上国に限らず先進国を含むすべての国に開発目標が適用されるという「ユニバーサリティ(普遍性)」が大きな特徴のひとつ(※3)。
SDGsの"ウェディングケーキモデル"でも示されているように、「経済」の開発には生活や教育などの"社会"条件の安定が欠かせず、人々が生活を営む「社会」の開発には自然環境(生物圏)の安定が欠かせない。全17の開発目標の達成には、土台となる「環境」の安定が不可欠であり、SDGsでは環境汚染や気候変動などの課題に関する開発目標に重点が置かれている。
MDGsには含まれていなかった「経済」についても開発目標が加わっている。貧困と飢餓の撲滅には、正しい労働や適正な労働対価、インフレの整備や生活環境の改善・発展が欠かせない。そのためには経済の成長も必要であり、そこで求められるのは、"持続可能な"消費と生産だ。SDGsでは、経済・社会・環境のバランスの取れた発展が目指される。
先述のとおり、近年は開発にかかわる団体の多様化が進んでいるため、各国の政府や国際機関が開発協力に取り組むに当たって、民間企業やNGOなどの市民社会、さらには自治体や個人との連携が不可欠となっている。
このことは「2030アジェンダ」にも明記されており、先進国も開発途上国も含む各国政府や市民社会、民間部門も含むさまざまな主体が連携し、ODAや民間の資金も含むさまざまなリソースを相互に補完させながら活用していく「グローバル・パートナーシップ」を構築していくことが必要となる(※3)と言及している。
SDGsはMDGsには含まれていなかった経済のほか、環境や平和に関するものなど、多様な課題に向き合う包括的な目標だ。それぞれの目標は密接に関連しており、社会、経済、環境の3つの側面のバランスが取れた持続可能な開発が目指されている。(※4)
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MDGsはグローバルなレベルでの協調努力によって、2015年までにすべての目標において大きな進歩をみせ、多くの人々の生活を改善へと導いた(※5)。しかし一方で、貧困や飢餓、経済的な格差やジェンダー格差、環境問題など未達に終わった目標や新たに浮き彫りになった課題もあった。
その後継者として、より包括的に、グローバルに、多様な人々を巻き込んで、2030年までに持続可能なよりよい未来を実現するためにバトンを渡されたSDGs。
SDGsが掲げる「ユニバーサリティ(普遍性)」や「分野横断的なアプローチの必要性」「グローバル・パートナーシップの重視」、そして社会、経済、環境の3つの側面のバランスの重要性などは、MDGsの成果と課題を知ることでより深く理解できる(※3)。
私たちひとりひとりの理解と行動が必要とされるSDGsの開発目標達成に向けて、MDGsを知ることは意味のあることではないだろうか。
※1 外務省|(ODA) ミレニアム開発目標(MDGs)
※2 The Millennium Development Goals Report 2015
参考
・国連広報センター|「ミレニアム開発目標(MDGs)報告2015」
・日本ユニセフ協会|ミレニアム開発目標(MDGs)
・外務省|2015年版 開発協力白書
※3 外務省|持続可能な開発のための2030アジェンダ
※4 日本ユニセフ協会|SDGsの考え方
※5 国際連合広報センター|2030アジェンダ
参考
・SDGsとは? | JAPAN SDGs Action Platform | 外務省
・ODA(政府開発援助)トップページ | 外務省
・労働政策全般|厚生労働省
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