Photo by Abbe Sublett
近年注目度が高まっている、「ソーシャルビジネス」。教育や貧困、環境などさまざまな社会問題の解決を目的としたビジネスのことを指すこの言葉だが、いま求められている理由や背景は何なのだろうか。日本や海外企業の事例を紹介しながら、詳しく見ていこう。
ELEMINIST Editor
エレミニスト編集部
日本をはじめ、世界中から厳選された最新のサステナブルな情報をエレミニスト独自の目線からお届けします。エシカル&ミニマルな暮らしと消費、サステナブルな生き方をガイドします。
ソーシャルビジネスとは、環境保護や貧困、高齢者・障がい者の介護・福祉、子育て支援やまちづくりなどの社会問題解決を目的としたビジネスのことである(※1)。
ソーシャルビジネスの提唱者であるムハマド・ユヌス博士は、「ユヌス・ソーシャル・ビジネスの7原則」として、以下をあげている(※2)。
1. ユヌス・ソーシャル・ビジネスの目的は、利益の最大化ではなく、貧困、教育、環境等の社会問題を解決すること。
2. 経済的な持続可能性を実現すること。
3. 投資家は投資額までは回収し、それを上回る配当は受けないこと。
4. 投資の元本回収以降に生じた利益は、社員の福利厚生の充実やさらなるソーシャル・ビジネス、自社に再投資されること。
5. ジェンダーと環境へ配慮すること。
6. 雇用する社員にとってよい労働環境を保つこと。
7. 楽しみながら。
この原則では「投資家には元本以上の配当を還元しない」ことを掲げている。一般企業で重要視されている、「株主の利益最大」「利益追求」とは異なる内容になっているのが特徴のひとつだ。
ボランディアや寄付ではなく、事業収益をあげることにより経済的な持続性も担保しつつも、社会問題解決という目的に専念するソーシャルビジネスは、世界を変える新しいタイプのビジネスとして注目を集めている。
ソーシャルビジネスのコンセプトが誕生したのは、1980年代といわれている。その後、グローバル化が進み、貧困問題や教育問題、地球温暖化やごみ問題といった環境汚染など、国際社会が抱えるさまざまな課題がより認識されるように。そして1990年〜2000年代には、ソーシャルビジネス支援の財団や組織が多く立ち上がった。
2007年には経済産業省の下にソーシャルビジネス研究会が立ち上げられ、日本でも広く知られるようになっていった。また、2015年にSDGsが策定されたことも追い風となり、より社会問題への注目度や、ソーシャルビジネスの必要性が高まっている。
ソーシャルビジネスの定義や求められる背景を理解したところで、ここからは、日本におけるソーシャルビジネスの事例を見ていこう。
「マザーハウス」は、株式会社マザーハウスが2006年に バングラデシュでスタートさせたブランドである。「途上国から世界に 通用するブランドをつくる。」を理念を掲げ、ネパールやインドネシアなど、計6ヶ国の生産国でそれぞれにあった素材、生産方法を最大限尊重したモノづくりを行い、バッグやジュエリー、アパレルなどを販売している。
働く環境を整えることを大切にし、給与水準の高さや整備された年金・医療保険などを設け、地域における雇用機会の創出や経済活動の活性化にも取り組んでいる。
株式会社クラダシが運営するショッピングサイト「KURADASHI」では、食品ロス削減への賛同メーカーから、協賛価格で提供を受けた商品を販売。消費者は従来品よりもお得に商品が購入でき、生産者は食品ロスやコスト削減につながる。
さらに、売り上げの一部は社会貢献活動へと寄付される仕組みになっており、環境保護や動物保護の団体などのさまざまな団体を通じて、社会的課題の解決に取り組んでいる。
株式会社おてつたびが運営する「おてつたび」は、アルバイトをしながら地方を旅できるマッチングサービス。人手不足で困っている地域と、地域で働きたい旅人をつなぐことを目的としている。
旅人は旅をしながら報酬を得られるので、旅費の削減になるというメリットがあり、仕事を提供する地方側にとっては、人材不足解消になる仕組みだ。
さらに、おてつたびを通じて、参加した若者が日本各地の魅力溢れる地域を知り、広めることで、地域活性化を図る目的もあるそうだ。
「ハチドリ電力」は、株式会社ボーダレス・ジャパンが取り組む、地球温暖化の解決に向けて開始された電力サービス。「CO2排出ゼロの再生可能エネルギーで持続可能な社会をつくる」をビジョンに掲げている。
ハチドリ電力で取り扱う電気は、すべてCO2ゼロの自然エネルギー。さらに使えば使うほど自然エネルギーの発電所が増えたり、電気代の1%を社会貢献活動に寄付できたりと、従来の電気会社からハチドリ電力に切り替えることで社会貢献へとつながる仕組みになっている。
株式会社へラルボニーが運営する「へラルボニー」は、「異彩を、放て。」をミッションに掲げる福祉実験ユニット。知的障害のある作家や福祉施設とアートのライセンス契約を結び、さまざまな商品を展開している。
障がいのある方を支援するのではなく、あくまで個人が持つ素晴らしい才能を、ネクタイやエコバック、スカーフ、傘、洋服などの商品に落とし込み、世の中に羽ばたかせる。支援の枠から飛び出し、ビジネスとして成立させることで、多くのアーティストの活躍の場をつくっているのだ。
ボーダレスハウス株式会社が運営する「ボーダレスハウス」は、“住人の半数が外国籍”という特徴を持ったシェアハウス。「人種や国籍関係なく、お互いを認め合える真の多文化共生社会へ」をビジョンに掲げ、国際交流の機会を提供し、世界中に国を超えた人の関わりや、未来の平和の種を育むことを目的としている。
ボーダレスハウスに住めば、日本国内にいながら多国籍の多様性や、自国との文化の違いを感じることができる。それによって、人種差別や偏見などをなくし、国や人種関係なくお互いを認め合える社会の実現を目指しているのだ。
株式会社ユーグレナでは、栄養問題を抱えるバングラデシュの子ども達に、ユーグレナクッキーを無償で届ける「ユーグレナGENKIプログラム」を実施。豊富な栄養素を持つユーグレナを含んだクッキーを1食6枚摂取することで、子どもたちにとくに不足している栄養素1日分を提供できる仕組みだ。
さらに同社では、ハマド・ユヌス博士率いるグラミングループと合併企業を設立。貧困解消と食料供給の安定化を目指し、「緑豆プロジェクト」に取り組んでいる。
バングラデシュの貧困問題・児童労働問題を改善したいという想いから生まれた、Sunday Morning Factory株式会社のオーガニックベビー服ブランド「Haruulala(ハルウララ)」。
バングラデシュの子どもたちだけでなく、すべての子どもたちに明るい未来を、と考え環境問題にも取り組んでいる。人にも地球にもやさしいとされるオーガニックコットンを使用して服をつくるほか、バングラデシュの自社工房やオフィスで使用している電力はすべて自然エネルギーから発電された電力を使用。そのほかマングローブの植林活動を行うなど、地球温暖化の問題にも取り組んでいる。
株式会社ウェルモでは、「持続可能な少子高齢社会の実現」というミッションにおいて、「情報」を介護現場での大きな課題ととらえ、さまざまな事業を展開している。
埋もれている介護サービスをはじめとした地域資源を一つの場所に集約し、必要なときに必要な情報を利用者(地域住民)へ届けるウェブサイト「ミルモネット」のほか、AIがケアプラン作成をサポートすることでケアマネジャーの負担を削減し、もっと利用者と向き合えるようにする「ミルモプラン」などを運営。
介護を受ける人、介護を受けさせたい人、介護業界で働く人、介護に関わるすべての人が快適に過ごせることを目指し、デジタルの力で「情報」を届けている(※11)。
オイシックス・ラ・大地株式会社は、下ごしらえが終わった状態で食材が届くミールキット「Kit Oisix」や、産地直送のお取り寄せサービス「産直おとりよせ市場」などを手がける企業。時短でありながら料理をして、身体にいいものを食べることができる。
同社では、全国4000軒の農家と契約をしており、生産の過程で廃棄されてしまうキノコを買い取って料理に活かすなど、フードロス削減にも積極的に取り組んでいるのも特徴のひとつだ。そのほか、食のアップサイクルブランドも手がけており、梅酒で使い終わった梅の種をアップサイクルしたドライフルーツや、ブロッコリーの茎をアップサイクルしたブロッコリーの茎チップスなどを販売している(※12)。
海外ではどのようなソーシャルビジネスがあるのだろうか。ここからは海外のソーシャルビジネスの事例を紹介する。
1983年ムハマド・ユヌス氏によって創設された、グラミン銀行。数ドル程度の小口事業資金を貸し出し、起業や就労によって貧困や生活困窮から脱却・自立することを支援する「マイクロファイナンス」(小口融資)の仕組みを考案した。
これにより貧困削減だけではなく、女性の社会的地位向上や経済的自立の効果も、もたらしたといわれている。この小口融資は多くの人が利用したうえに返済率も高く、事業としての継続性をしっかり担保していたのも特徴といえる。
アメリカに本社を置き、登山やアウトドア用品を手がけるパタゴニア。「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」を理念に掲げ、化石燃料をつかわず、自然を保護するためのコミュニティ主導の取り組みを支援するなど、環境に与える悪影響を最小限に抑えながら、最高の商品をつくることを目指している。
パタゴニアで販売されている衣服の69%はリサイクル素材を使用。さらに2025年までにすべての製品に使用される素材をリサイクル素材にすることを目指し、企業努力を続けている。
Javara Indonesiaは、「食の生物多様性(food diversity)」を目指す企業だ。インドネシアにおいて固有の農作物を守り、それに携わる農家の収入向上や生活向上などを目指して、農作物の加工やブランディングを行っている。
市場に健康で栄養素が高く、おいしい商品を届けるというだけでなく、農業従事者にも同様に健康で栄養素の高い食事を届けることや、小規模農家と取引を行い力をつけるサポートをするなど、サプライチェーン全体に影響を与えている。
「Community Shop」は、イギリス国内の社会的問題に取り組む社会起業家集団が設立・運営している、低所得者向けのスーパー・マーケットだ。ただ安さを求める人々が利用できないように、「生活保護や失業保険などの援助を受けている」といった条件を設けた会員制となっている。
利用者は通常の3割程度の価格で商品を購入することが可能。販売される食料品は、期限が近いものや、ラベルミスなどパッケージに問題があるもので、フードロスの削減にもつながっている。
オールバーズは、元プロサッカー選手のティム・ブラウン氏が設立した、サステナブルな靴を製作・販売する企業だ。スニーカーのアッパーなどには、メリノウールを採用。このメリノ・ウールには、動物福祉、勤務者の待遇、環境保全、周辺コミュニティーへの貢献を実践する牧場で生育された羊の毛であることを示す認証を受けたものだけを使用している。
さらに、人工素材を使う多くのスニーカーに比べて、カーボンフットプリントを60%削減することに成功。中敷きには、生物分解が可能なバイオ素材「オーソライト」が用いられているなど、環境に配慮された商品を製造・販売している。
貧困や教育など社会問題解決に向けての取り組み、と聞くとボランティアや寄付によるものが多いイメージだが、ビジネスとして成立させて利益を出し、経済的な持続可能性を実現している企業も多い。ソーシャルビジネスを行なっている企業を知り、そこから生まれたサービスや商品を利用することも、私たちができるエシカル消費のひとつである。
ELEMINIST Recommends