世界中のあらゆる海で、海の砂漠化現象が起こっていることをご存知だろうか?砂漠化が進めば、魚が卵を生んだり、稚魚が育ったりする場が失われてしまう。砂漠化の原因のひとつに、実は「ウニ」の食害も大きな原因だとも言われている。そんなウニの管理において、日本には独自の手法を用いた珍しい漁場がある。磯焼け解決のために取り組む再生養殖と藻場再生について紹介する。
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Photo by 三陸ボランティアダイバーズ
世界中のあらゆる海で、今「海藻が生えない」という海の砂漠化現象が起こっていることをご存知だろうか?これは「磯焼け」と呼ばれている現象だが、とりわけ日本でも状況が深刻化しており、30年前と比べて藻場(もば:海中で海藻が生えている場所)が急激に減少して、国によってはなんと80%も減少してしまっている。
藻場がなくなれば魚が卵を生んだり、稚魚が育ったりする場が失われてしまう。また、ウニやアワビは海藻を食べて豊かに育つため、当然実入りや育ち具合、ひいては漁獲量にも影響が出るのだ。
また、海藻は海中でCO2を吸収する役目があり、藻場がなくなることは、地球にとっても非常に大きな打撃となる。
磯焼けを引き起こす原因はいくつかあるが、実は「ウニ」の食害も大きな原因だとも言われている。ウニは英語でSea Urchin(シーアーチン)というが、“海の悪ガキ、ギャング、いたずらっ子”という意味を持つ。その由来は、放っておくと海の中の海藻を食べ尽くしてしまうなど、悪さをする生き物だからだ。そのため、ウニはしっかり管理をしてあげる必要がある。
ウニの管理において、日本には独自の手法を用いた珍しい漁場がある。ウニの産地といえば北海道が真っ先に頭に浮かぶと思うが、それに次ぎ本州で最大の漁獲量を長年誇ってきたのは岩手県の洋野町(ひろのちょう)という町なのだ。SDGsが掲げられ環境配慮への意識が高まりつつあるのはここ数年だが、同町では50年程前から持続可能な漁業を意識的に行ってきた歴史がある。
もともと洋野町の浜は遠浅で、干潮になると岩盤に張り付いた海藻類たちが干上がってしまうため、漁業にとっては不利な環境下だった。これを解消するために当時の漁業者たちが広大な岩盤地帯を削り、溝を掘削。そのおかげで、干潮時に水が引いても溝には海水が残り、天然の昆布が豊富に生える漁場を作り出した。このお陰でウニが安心して暮らせるようになったのだ。
また、満潮時には海水が流れ込み、昆布やわかめの種を溝に残し、豊富な海藻が生える場所となり良い循環が生み出された。これは世界で類を見ない漁場の在り方として、近年世界中からも注目されている。まさに先人の知恵の賜物と言える漁場であり、地域ではそれを「うに牧場®︎」と呼ぶ。
しかし、この「うに牧場」でさえ地球温暖化などの環境変化に伴い海藻が減少するとともに、高密度生息するウニたちが海藻を食べ尽くしてしまうことから磯焼け問題が深刻化している。もちろんそれは他の地域も同様で日本各地の海で今大きな問題となっている。
餌を失ってしまったウニたちは自らを肥やすことができないため、実入りがほとんどない状態となっていて商品価値がないのだ。このため、ウニを一定数間引くことで改善しようとウニの駆除が必要という声もあるが、それでは産業という観点から見ると生産性が低く持続性に欠ける。
農林水産省の統計データによると、1970年には25,000トン以上あったウニの漁獲量が2010年には10,000トンを割り込み、2021年には6,700トンを切っている※1。つまりこの50年間で漁獲量は右肩下がりに落ち込み、1/4を切るのは時間の問題かもしれない。
このままでは「ウニ」の存在が日本の食のシーンから姿を消してしまうかもしれない、まさに待ったなしの状況なのだ。
こうした課題に立ち向かうため、取り組まれていることの一つにウニ再生養殖がある。磯焼けを防ぐために駆除・廃棄された実入りの悪いウニを採捕し、ウニ用の生簀に収容する。10週間の給餌を行うことによって、実入り・色・品質を大幅に改善することができ、天然と遜色ない美味しさを実現することに成功している。この技術により、本来ウニが流通しない冬にも出荷が可能になり、需要に対する安定的な供給を叶え、商売という側面でもメリットをもたらすのだ。
株式会社北三陸ファクトリーでは、北海道大学らとともに6年以上の歳月をかけてこの技術を開発した。ウニ用飼料とウニ用の生簀は、同大学らとの協働により特許を取得。知的財産権を基に、磯焼けに悩む全国の地域、水産事業者に向け「ウニ再生養殖」の取り組みをさらに広げて行くことにも尽力している。
そしてもう一つ、ウニ再生養殖とともに近年取り組まれているのが「藻場再生」活動だ。これは文字通り、藻場を再生させ海藻が潤沢にある海を取り戻そうという活動だ。こちらは元々北海道の積丹町役場が北海道大学との連携で進めているものだが、具体的にはこうだ。廃棄されているウニ殻を自然乾燥させ、スコップなどで粉砕し粉状にする。そこに、天然ゴム水をかけて凝固しやすい状態を作る。それをバケツなどの容器に詰めて整形し、自然乾燥させブロック状に固化させる。このブロック状のものを複数個まとめて網に入れ海中に沈めることで、ここに海藻が生えやがて藻場となる。この一連の取り組みが藻場再生なのだ。洋野町としても、積丹町や北海道大学の事例に習い、この藻場再生の実証実験に着手しようとしている。
こうして藻場が再生され海が豊かさを取り戻すことは、ウニにとってだけでなく地球環境そのものにも良い影響を与える。地球上で排出された二酸化炭素は、陸と海洋でそれぞれ循環する。この二酸化炭素のうち、海藻や海洋生物によって吸収され堆積した炭素のことを「ブルーカーボン」という。これに対し、陸上生物によって吸収され堆積した炭素は「グリーンカーボン」と呼ばれる。このブルーカーボンやグリーンカーボンは、地球温暖化を防ぐ、新たな二酸化炭素吸収方法として昨今注目されている。
しかし、陸上より海洋生物の二酸化炭素吸収率の方が2倍以上高いため、ブルーカーボンが重要視されているのだ。もともとウニ牧場という特殊な漁場を守り続けてきた洋野町は、他の地域に比べて吸収量が特に多いとして専門機関から認証を受けており、2022年11月には、3106.5tものCO2が認証されている。
この数値は国内トップであるが、藻場再生などによって今後さらに数値が上昇し二酸化炭素除去の有効手段になるであろうことを期待されている。
執筆/北三陸ファクトリー
お問い合わせ先/北三陸ファクトリー
https://kitasanrikufactory.co.jp/
参考
※1 農林水産省 海面漁業生産統計調査
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