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現代アートと同義で語られる「コンセプチュアルアート」。わかりづらい芸術との声もあるが、世界で人気の村上隆や草間彌生もコンセプチュアルアーティストだ。その価値は、いまや世界的に有効な分散投資の手段としても話題。賛否両論あるコンセプチュアルアートの歴史や作家の作品から、意義を考える。
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コンセプチュアルアートとは、1960年代にアメリカで始まり、1970年代にかけて世界的に行われた前衛芸術運動。別名「概念芸術」とも呼ばれ、芸術作品の形式や美的価値よりも、アイデアや思想を重視し発展。1961年にヘンリー・フリント(※1)が初めて「コンセプトアート」という名称を使用した。
制作するうえでの技術的なテクニックよりも、作品に込められた発想や観念を重んじるコンセプチュアルアートの代表的な芸術家には、マルセル・デュシャン、ジョセフ・コスース、ヨーゼフ・ボイス、ピエロ・マンゾーニ、マルセル・ブロータースなどがいる。日本には概念芸術や観念芸術と紹介され、高松次郎、松澤宥、柏原えつとむらが「日本概念派」(※2)といわれた。
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伝統的な芸術とコンセプチュアルアートの共通点は、芸術作品が人々に何らかの感情や思考を引き起こすものであるということだ。ただし、コンセプチュアルアートは、素材を使って作品をつくるという技術的な面よりも、作品製作の背景にある主題に重きを置き、芸術を極限まで概念化する手法。
60年代後半から70年代を中心に展開したコンセプチュアルアートは、ファックスや電話などの流通メディア、写真や文字、記号や映像などが頻繁に用いられている。社会的なテーマやメッセージを持つ作品が多いのも特徴だ。
コンセプチュアルアートは、それまでの美術に対する新しい形式の提示ではなく、美術そのものの機能を問い直していくための思考であったとされている。アートの捉え方を根底からひっくりかえしたのだ。
ジャンルを超越した芸術として、作家たちの共感を得たコンセプチュアルアートの支持派からは、アートの定義に答えがないことこそが、現代アートに「多様性」を生み出したと絶賛された。
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アートは19世紀ごろまで、機能性や写実の技術といったわかりやすい評価基準があった。芸術家たちは新たな表現方法を模索し、やがて印象派やキュビスム、シュルレアリスムなどが続々誕生する。
そうした潮流のなかで、フランスのマルセル・デュシャンも既存の概念をあえて覆す作品で、見る側が疑問や違和感を起こすコンセプチュアルアートを発表。
テクノロジーが発達した現代、アーティストは自分なりの美を定義したり、より表現の幅や自由度の高い作品を生み出している。
アートの定義そのものが問われたデュシャンを発端としたコンセプチュアルアートの衝撃は、いまに継承されているのだ。
1960年代から1970年代にかけて、多くの芸術家たちに信奉されたコンセプチュアルアート。代表的なアーティストとその作品について紹介しよう。
既製品を作品へと昇華する「レディ・メイド」に取り組み、ニューヨーク・ダダ(ダダイスムは、1910年代半ばに起こった芸術思想・芸術運動。既成の秩序や常識に対する否定、攻撃、破壊といった思想を大きな特徴とする運動)や、コンセプチュアルアートを発展させた先駆者。1887年、フランス生まれ。
知的な刺激を与えるものとして作品を制作。1917年に発表した代表作『泉(男子用小便器にR. Muttという署名をした作品)』は、あまりにも有名。
1945年、アメリカ生まれ。彼の作品には、言葉やテキストが重要な役割を果たすことが多い。哲学や芸術論に造詣が深く、コンセプチュアルアートについての論文も残した。
代表作に『壁に立てかけた透明で正方形のガラス』『一つでありまた三つでもある椅子』など、物体と言葉のコンビネーション作品がある。
1970年代以降、アートにおける社会の役割に興味を移し、屋外や公共の空間でも作品を数多く残した。
日本におけるコンセプチュアルアートの第一人者で、欧米でも高い評価を受けている。1933年、愛知県刈谷市生まれ。
代表作に、鉛筆の素描で人体をグロテスクに表現した『浴室』シリーズ、『物置小屋の出来事』シリーズなどがある。
1965年に拠点をニューヨークへ移し、日記風の絵ハガキや、キャンバスに日付だけを書く『日付絵画』によって、独自のコンセプチュアルアートを確立。日本人らしいユニークさが特徴。
ドイツのコンセプチュアルアートのカリスマで、社会活動家。
1921年にドイツのクレーフェルトに生まれたボイスは、デュッセルドルフ芸術アカデミーで学んだのちに同校の教授も務めた。代表作に『コンサートピアノのためのホモゲン』『20世紀の終わり』などがある。
第2次世界大戦中、空軍に所属し、救助と治療を受ける際に使用された銅やフェルト、動物の脂肪を象徴的に用いて作品を制作。
哲学者ルドルフ・シュタイナーの人智学に影響を受け、自由国際大学を設立するなど教育にも力を注いだ。
世界でもっとも知名度が高い日本人女性アーティストのひとりであり、音楽家、平和活動家。前衛芸術のパフォーマンスを中心に、ジェンダーや文化の多様性といったテーマを扱った。ジョン・レノンと結婚したことでも知られる。
1933年に東京に生まれたオノ・ヨーコ(本名は小野洋子)は、コンセプチュアルアートという概念が生まれる前から、彫刻やビデオなどを駆使して先鋭的な表現を行う。1969年にはジョンとともにポスターや飛行機の煙文字で反戦を訴えるという行動を起こし、話題に。
1980年以降も、強いパブリックメッセージを活用する平和運動家であり、数々の賞を受賞している。
ベルギーの詩人で、デュシャンとも比較されることが多いマルセル・ブロータスの『考える獣』、イタリアのコンセプチュアルアートの代表格ピエロ・マンゾーニが自身の排せつ物を90個の缶に詰め、4つの言語によるラベルを貼った作品『芸術家の糞』など、批判や嫌悪をともなう稀有な作品を残した芸術家がいる。
デュシャンの作品が発端となったコンセプチュアルアートは、社会的なテーマや強烈なメッセージで、現代アートの主流に発展してきた。
アート界は現在、新しいテクノロジーの登場で、NFTアーティストとコレクターという新しい市場とプレーヤーを創出している。(※3)
作品の背後にある思想や概念を読み解くのが困難な場合もあり、また正解もない。あふれる情報のなかで正解を求めてしまう現在に生きるわたしたちが、多彩な芸術家たちが追い求める美への本質な問いかけにふれる機会を持つことは、多様性を知るうえで多くの示唆が得られるだろう。
※1 現代美術用語辞典ver.2.0|コンセプチュアル・アート
※2 美術手帖|日本概念派・松澤宥の軌跡をたどる 国内外からのメールアートも公開
※3 日経ビジネス電子版|現代アート、知ってるつもり?資産価値やNFTによる市場創出
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