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ノーマライゼーションとは、障害者や高齢者が一般の人々と同じように生活できることを目指すこと。日本では、国連総会が1981年に宣言した「国際障害者年」をきっかけにこの考え方が意識され始め、法整備や障害者の自立と社会参加の促進を図っている。意味や理念、歴史や事例から見える課題を探る。
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ノーマライゼーションとは、「障害者はあたりまえの、普通の、生活を送る権利があり、その生活を支える社会を構築する」という社会理念。障害者や高齢者などが、ほかの人と平等に生きるために、社会基盤や福祉の充実などを整備するための考え方を指す。
英語で「正常化」「標準化」という意味を持っており、特別に行われていたものを均一して当たり前にするという発想を含んだ言葉だ。
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ノーマライゼーションの歴史は、1950年代にデンマークで始まる。障害児・者は巨大施設に収容し、終生一般社会と隔離して保護するという政策を変えようとした人物がいた。
ニルス・エリク・バンク=ミケルセンは、デンマークの社会省にいた担当官。第2次大戦中のナチスドイツ収容所で見たユダヤ人や障害者の大量虐殺、優生思想に基づく戦後の知的障害者の施設収容の悲惨な実態を知った経験から、「すべての障害者が普通の生活ができるように」と考え、「ノーマライゼーション」という考え方を打ち出した。
1959年にデンマークで知的障害者福祉法が成立。この法律では、知的障害者に対して一般人と同じ権利が保障され、ノーマライゼーションという言葉が用いられている。
スウェーデンでノーマライゼーションの運動に携わったベンクト・ニィリエは、知的障害者が社会の主流となっている規範や形態にできるだけ近い日常生活の条件を得られるようにするための指針「ノーマライゼーション8つの原理」を集約して世界に発信した。
普通の生活を測るものさしとしてノーマライゼーションの基本原理を明らかにし、ニィリエは、以下のような原理が満たされたときにノーマライゼーションが実現できるとした。
起床、食事、就寝など、ごく普通の日常生活のリズムを健常者と同じようにすること。
平日と休日、仕事と余暇、家庭と社会などの週間生活のリズムを健常者と同じようにすること。
季節や行事、祝日などの年間生活のリズムを健常者と同じようにすること。
障がいの有無に関係なく、幼児期、学童期、青年期、成人期、老年期など、人生の各段階で当たりまえの経験を重ねていくということ。
自己決定や自己表現、自己責任などの権利や義務を認めること。
恋愛や結婚、家族づくりなど、異性とのいい関係を築くこと。
経済的に安定した生活を送ること。児童手当、老齢年金、最低賃金基準法などの保障を受けることができ、また自由に使えるお金を持つこと。
健常者と同じように快適で安全な住環境や社会環境を送ること。たとえば、施設で社会から隔離されて暮らすのではなく、ごく普通の家で地域の人達と交流しながら生活すること。
ノーマライゼーションの理念は、やがて北欧や北米など先進諸国に広がり、具体的には脱施設化と施設解体、地域生活の実現という障害者福祉政策の転換への影響力となった。
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障害の有無に関わらず、みんなが暮らしやすい世の中を目指すという方向性が似た言葉に「バリアフリー」「ユニバーサルデザイン」「インクルージョン」がある。それぞれの意味やノーマライゼーションとの違いをおさえておこう。
バリアフリーは、もとは建築用語 (たとえば、段差にスロープやエレベーターを設置する、点字や点字ブロックの整備など) で、障害のある人が生活上障壁となるものを除去する意味で使用されていた。
その後、バリアフリーの意味は広くなり、すべての人にとって社会参加する上での物理的、社会的、制度的、心理的な障害を取り除くために設備やシステム、制度を整備することの指すようになった。
ユニバーサルデザインとは、すべての人が利用しやすいようにつくられたデザインのこと。年齢・性別・国籍・障害などにかかわらず、誰もが利用できるデザインを指す。
十分な広さが確保された多機能トイレや、国籍・言語を問わず情報を伝えられるピクトグラムなど、身近なところでユニバーサルデザインが採用されている。
インクルージョンは、「包括」「包含」「包摂」などを意味する言葉。ビジネスにおいてインクルージョンは、企業内すべての従業員が尊重され、個々が能力を発揮して活躍できている状態を示す。
人種や性別といった多様な属性を持つ人材の集まりを意味する「ダイバーシティ」とは異なり、多様な人材を活かすことに加え、すべての従業員が仕事に参画する機会を持ち、それぞれの経験や能力、考え方が認められ活かされている状態をいう。
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ノーマライゼーションとSDGsは、異なる概念だが、共通点がある。
ノーマライゼーションは、障害のある人も障害のない人も互いに支え合い、地域で生き生きと明るく豊かに暮らすことのできる社会を目指している。
一方SDGsは、貧困や格差などの社会問題を解決し、持続可能な社会を実現することを目指す国際目標。
ノーマライゼーションは、SDGsの「誰一人取り残さない」という理念に通じるものであり、目標10「人や国の不平等をなくそう」の達成においても、欠かせない考え方だ。
社会福祉の分野においてのノーマライゼーションの考え方は、障害の有無や性別、年齢の違いなどによって区別をされることなく、主体的に、当たり前に、生活や権利の保障されたバリアフリーな環境を整えていくというもの。
日本では厚生労働省が、障害の有無にかかわらずに多くの人が地域社会において活躍できる社会の構築を政策として掲げており、ノーマライゼーションの理念に沿って障害者の自立と社会参加の促進に取り組む。
一例として、2006年4月、障害者の地域生活と就労を進め、自立を支援する観点から障害者基本法の基本的理念に沿って、障害者自立支援法(※1)が施行された。ちなみに、平成21年度9月9日の連立政権合意において、「障害者自立支援法」は廃止され、現在は新しい制度が検討されている。
介護分野においても、ノーマライゼーションの理念に基づき、利用者が自分らしい生活を送ることができるよう支援する動きがある。自宅で過ごしているような環境を整えた10名以下の介護施設や、介護を受ける高齢者本人の意思を尊重できる在宅介護も増えている。
また、看護師国家試験の必修問題としてノーマライゼーションに関する項目が登場するなど、医療の現場でも重要な概念となっている。
障害のある子どもたちも、普通学級に通うことができるよう、特別支援学校や支援級(個々のニーズに合う教育のため8人を基準にした小さなクラス)の設置など、インクルーシブ教育(※2)の構築に力を入れている。
文部科学省では、共生社会の形成に向けて、障害者の権利に関する条約に基づくインクルーシブ教育システムの理念が重要であり、その構築のため、特別支援教育を着実に進めていく必要があると考えている。
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日本のノーマライゼーション政策は、欧米諸国と比べて進んでいない。ノーマライゼーションを進めていくうえで、以下のような課題や問題点が生じている。
人権教育が進んでおらず、ノーマライゼーションの理念や意味を理解していない人が多い。社会的な認知度も低く、一般的に浸透しづらい点も大きな課題。
財政的な制約やコスト面の問題から、障害者を地域で受け入れる仕組みや体制が十分に整っていない。
障害者の自己決定権や個性を尊重する姿勢が、法律や制度だけでなく、一般市民や関係者にも浸透していない。
企業側は、障害者のニーズや業務の適性を理解しサポートを提供することが必須だが、ノウハウの不足により、離職をまねくケースが珍しくない。
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日本のノーマライゼーション政策に関する取り組み事例として、以下のようなものがある。
障害者の雇用の促進を目的とした法律により、企業に対して、雇用する労働者の2.3%に相当する障害者を雇用すること=障害者雇用率制度を義務付けている(※3)。
これを満たさない企業からは納付金を徴収=障害者雇用納付金制度しており、この納付金をもとに雇用義務数より多く障害者を雇用する企業に対して調整金を支払ったり、障害者を雇用するために必要な施設設備費を助成している(※4)。
厚生労働省では、ノーマライゼーションの理念の下、障害者の自己決定を尊重し、サービス事業者との対等な関係を確立するため、行政が福祉施設やホームヘルパーなどのサービスを決定する従来の仕組み(措置制度)を改め、利用者自らがサービスを選択し、事業者と直接に契約する新しい利用制度(支援費制度)に平成15年度から移行した(※5)。
国だけでなく、各自治体でもノーマライゼーションの理念に基づいた取り組みが行われている。たとえば、神奈川県川崎市で実施されている「第5次かわさきノーマライゼーションプラン」では、障害福祉支援の発展を図ることを目的として、誰もが生活しやすい町づくりや障害者による社会参加の推進、地域リハビリテーションの構築など、ノーマライゼーションを実現するための計画が実施されている(※6)。
企業におけるノーマライゼーションの具体的な取り組みについては、視覚障害者対応ATMの設置や、障害のある方が使いやすい店舗づくり、コミュニケーションボード(ボードにある文字や絵などを指差して、自分の気持ちを相手に伝える)の設置、AEDの設置などがある。
ノーマライゼーションの理念は、障害者や高齢者が普通の生活を送る権利も持ち、その生活を支える社会を構築することである。すべての人が、平等な権利を持っていきいきと生きられる社会を実現するためには、まず弱者の自立を阻害している要因や問題点について、理解を深める必要がある。
社会に適合するために障害そのものをトレーニングしたり、差別や不自由なく普通の生活を送れるようにする手段として、障害者支援の制度や援助、さまざまな取り組みが行われている。こうした動きに関心を寄せることこそ、共生社会に近づく一歩であろう。
※1 厚生労働省|障害者福祉:障害者自立支援法のあらまし
※2 文部科学省| 初等中等教育分科会 資料1「特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告」
※3 厚生労働省|障害者雇用率制度
※4 厚生労働省|障害者雇用納付金制度
※5 厚生労働省|障害者の自立と社会参加を目指して
※6 川崎市|かわさきノーマライゼーションプラン
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