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グルーミングとは、身だしなみを整えるほか、動物の毛づくろいの意味があるが、性的な行為を目的に大人が子どもに近づく意味もある。ジャニー喜多川氏にいよる性加害でも注目されている言葉だ。オンラインで増加中のグルーミングには、どんな種類の手口やタイプがあり、何が問題点だろう。
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グルーミングには、おもに以下の3つの意味がある。
(1)髪、ひげ、からだなどを清潔に整えること。
(2)動物が皮膚や毛をつくろいきれいにすること。
(3)性的行為を目的として、大人が子どもと親密な関係を結ぼうとすること。
もともとは(1)の身だしなみを整える意味や、(2)の動物の毛づくろいの意味がある。だが、(3)のように性犯罪の文脈で、大人が子どもに近づき親しくなって性的虐待を行おうとする意味ももつ。
大人が子どもと親密な関係になり信頼を得ておいて、性的な行為を行おうとするのだ。子どもがもつ「信頼している人が自分に悪いことをするはずがない」と思うこころや、罪悪感、羞恥心を利用して、大人が関係性をコントロールする行為だ。
グルーミングはまだ幼い子どもが被害者となる。そのような子どもは、自分が被害にあっていることすら気づきにくい。だが、成長してからそのときの行為や意味に気づき、深く傷ついたり精神的な苦痛を味わったりすることが考えられる。
また子どもが被害にあったことを認識できないため、親や教師など周囲の大人に相談しにくく、問題が顕在化しにくいこともある。
芸能プロダクション「ジャニーズ事務所」を創設した故ジャニー喜多川氏による性加害について昨今報道されている。被害者はタレント数百人にものぼると言われ、ついには国連の専門家が聞き取りを行うまで騒動が広がっている。
ジャニー喜多川氏による性加害は、アイドルとして活躍したいと希望する若いタレントやデビュー前の幼い少年にとって、まさにグルーミング以外の何ものでもない。被害者の少年たちは、ジャニーズ事務所のトップの人物に対し全幅の信頼をよせているはずだ。しかし、そんな人物から受けた性被害は、何十年経っても、被害者を苦しめ、多くの人の心に暗い影を落とし続けている。
このジャニー喜多川氏の性暴力・性加害の問題は、「グルーミング」や「性的グルーミング」という言葉を広く世間に知らしめるひとつのきっかけとなっている。
グルーミングにはいくつかの種類があるが、法務省がまとめた「性犯罪に関する刑事法検討会 取りまとめ報告書」によると、次のような種類がある。(※1)
1 SNS等を通じて徐々に子どもの信頼を得たうえで、性的行為におよぶ
SNSなどで、趣味や好きなものをきっかけに仲良くなり、少しずつ子どもの信頼を得ていく。そのような信頼関係を築いておいて、会う約束をとり性的な行為におよぶ。オンラインでのやりとりは、匿名性が高く相手の素性がわかりにくい。
2 子どもと近い関係にある人物が徐々に体に触れる
教師、塾の講師、部活動のコーチ、親戚、親の恋人など、子どもと近い関係にある人物が、最初は肩をもむといった行為からはじめ、子どもからは断りにくくさせたうえで、徐々に体に触れていく。
3 面識のない人物が声をかけて徐々に親しくなる
子どもとは面識のない人物が、公園などで子どもに声をかけ、徐々に親しくなっていき、やがて性的な行為におよぶ。
また、子どもとの関係に着目すると、以下の3つのパターンに分類できる。
1 近い関係にある人物によるグルーミング
2 面識のない人物によるグルーミング
3 オンラインを通したグルーミング
SNSが発達し、幼い子どももSNSを利用するようになったことから、グルーミングの被害が増加傾向にある。警察庁「令和4年における少年非行及び子どもの性被害の状況」によると、児童買春、児童ポルノをはじめ、SNSに起因する子どもの被害件数は、2013年は1293件だったが、2017年には2082件に倍増。2022年も1732件が報告されている。(※2)
警察が認知している被害件数がこれだけあるため、実際にはもっと多くの子どもが被害にあっている可能性が高い。では、このようなグルーミングが起きる背景には、どのようなことが考えられるだろう。
子どもたちの被害のきっかけとなるのが、SNSなどのオンラインでの出会いだ。幼いうちからスマホをもち、SNSを利用することが一般化しており、保護者の目の届かないところで、悪意のある者から接触がある可能性がある。
実際、上記の報告書によると、SNSによって子どもが巻き込まれた被害では、アクセス手段としてスマホが圧倒的多数。2022年の場合、95%以上の事件で、スマホのアクセスから始まったことがわかっている。
相手に性的な画像を送ってしまうと、それをネット上に拡散すると脅され、さらに要求がエスカレートすることもある。
グルーミングの背景にあるのは、子どもの孤独感もある。それは、友だちとの関係がうまくいっていなかったり、家庭で虐待などのつらい状況にあったりすると、そのようなネットでの甘い誘いにのってしまいやすいためだ。グルーミングでは、そんな子どもの孤独感につけこんで、最初はいい大人のふりをして近づいてくるため、非常に悪質だ。
グルーミングを子どもだけで防ぐことは難しい。では、どのようなことで子どもをグルーミングから守れるだろう。
グルーミングとはどんなことなのか、ふだんから親子でよく話しあうことが大切だ。またSNSにはメリットもある反面、子どもがそのような被害にあうリスクもあることを、きちんと子どもに説明しておくことも必要だろう。
例えば、自撮り画像や性的な画像をだれかに送ってしまったら、それがインターネット上にばらまかれたり、事件に悪用されたりする可能性がある。おさない子どもは、そこまで被害が大きくなることを理解していないことがあるだろう。そこで、どんなリスクがあるのか十分に伝えておくことも大切だ。
近年は、子どもが気軽に相談しやすいようにと、SNS上で相談できる窓口ができたりしている。ふだんから、そのような相談窓口にどんなところがあるのか知り、いざ「自分が被害にあったかもしれない……」と思ったときは、気軽に相談することも覚えておきたい。24時間体制で相談を受けているところもある。
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法務省では2022年秋より、「グルーミング罪」を新設する方向で動いている。試案では、16歳未満に対しわいせつ目的で面会を要求した場合、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金が課され、実際に面会した場合はより重い2年以下の拘禁刑か100万円以下の罰金が課される。わいせつな画像を撮って送信させるよう要求した場合も、1年以下の拘禁刑か50万円以下の罰金となる。近いうちの法整備が期待されている。
心理的な距離を縮めて、信頼関係を利用して性的な関係を求めるグルーミング。子どもにとっては、信頼していた人からそのような行為を求められることは、大きなショックとなるだろう。
グルーミングは子どもだけでは被害を防ぐことは難しいため、日頃から近くにいる大人が子どもを守り、万が一被害にあったときはすぐに相談できる関係をつくっておくことが欠かせない。
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