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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まり、耳にする機会が増えた「パンデミック」という言葉。これまでに起きたものや現在も続いているパンデミックを振り返りながら、その意味や対策について解説する。
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パンデミックとは、世界的流行および非常に多くの数の感染者や患者を発生する流行のこと。ギリシャ語の「パンデミア」を語源とし、パンは「すべて」、デミアは「人々」を意味する。WHO(世界保健機関)はパンデミックの警戒フェーズをフェーズ1(前パンデミック期)からフェーズ6(パンデミック期)の6段階に分類しており、フェーズ6になるとパンデミックが発生しているとみなされる。
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パンデミックに似た言葉として、「アウトブレイク」や「エピデック」があげられる。ここでは、その意味の違いについて解説する。
感染症の流行は段階的に広がる傾向がある。まず最初に起こるのが「アウトブレイク」だ。これは、特定の区域や特定の集団において、通常予測される以上に感染症の症例数が増加していることを意味する。医療施設内で起こる院内感染による感染爆発も「アウトブレイク」とみなされる。
感染症が最初に急増したコミュニティよりも広い地域に拡大した状態を「エピデミック」と呼ぶ。エピデミックが国境を越えて広がり、複数の国や大陸に拡散・同時流行した状態が、感染爆発と呼ばれることもある「パンデミック」となる。
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パンデミックは、現在起きているコロナウイルスによるものが初めてではない。人類はこれまでに何度も、さまざまな病原体によって起こされたパンデミックと戦ってきたのである。
古くから世界中で何度も流行し、ヨーロッパでは18世紀末まで年間約40万人が命を落としてきた天然痘。この病気の原因は、大痘瘡(だいとうそう)型と呼ばれるウイルス株。天然痘ウイルスは、1万年ほど前のアフリカに生息していたげっ歯類のウイルスが進化したものだと考えられている。
1796年には、英国の医師エドワード・ジェンナーが牛痘(感染した牛の膿)を人間に接種することによって感染を防ぐ方法を発見。これが感染症の特効薬であるワクチンの元祖だ。長期にわたって人類を苦しめてきた天然痘だが、1975年に確認されたバングラデシュの少女の発症以降、感染者は一人も認められていない。天然痘は、人類が根絶した唯一の感染症である。
スペイン風邪とは、第一次世界大戦中の1918年から翌年にかけて世界的に流行したA型インフルエンザウイルス感染症のこと。感染者は世界に広がり、当時の世界人口の3分の1以上が感染し、数千万人が死亡したと推計されている。日本でも約2300万人の患者と約38万人の死亡者が出たと報告されている。当時は有効なワクチンなどもなく、対策は患者の隔離や公共施設の閉鎖など限られた手段のみ。生き残った人が抗体を獲得し、集団免疫を形成するまで事態は収束しなかった。
2002年から2003年にかけて流行したのが、重症急性呼吸器症候群(SARS)だ。2002年11月16日に、中国南部広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたのをきっかけに、広東省や香港を中心に、カナダのトロントやオタワ、モンゴル、フィリピン、シンガポール、台湾など32の地域や国々へ感染が拡大した。9カ月で患者数は8000人以上、774人が死亡したが、翌年7月には終息宣言が出された。
マラリアは、マラリア原虫によって引き起こされる急性熱性疾患であり、感染したメスのハマダラカに刺されることによって人に感染する。熱帯・亜熱帯に広く分布する感染症で、100カ国余りで流行しており、WHOの推計によると年間2億人以上の罹患者と200万人の死亡者が確認されている。アフリカでは5歳未満児死亡率の主要原因の一つであり、毎日3000人の子どもがマラリアによって命を落としていると言われている。
2020年にはその患者数が2億4,500万人だったのに対し、2021年は2億4,700万人と、感染者数は未だ増加傾向にある。さらに推定される死亡者数は、2020年に62万5,000人、2021年には61万9,000人。ナイジェリア連邦共和国をはじめとするアフリカの4カ国が、世界のマラリアによる死亡者数の半分強を占めており、現在もマラリアによる深刻な問題は続いている。
1981年に米国で初めて見つかり、世界的に急激な感染が広がったエイズ(AIDS)。現在もそのパンデミックは続いている。HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することで起こる病気の総称で、感染すると身体を病気から守る免疫系が破壊され、身体の抵抗力が低下し、さまざまな感染症や悪性の病気などにかかりやすくなる。代表的な23の疾患が決められており、これらのいずれかを発症するとエイズと診断される。感染経路としては、主に性的感染、血液感染、母子感染があげられる。
2016年には日本での新規感染者およびAIDS患者数は累計で2万7000人を突破し、世界の感染者は約3670万人、年間180万人の新規感染者と100万人のAIDSによる死亡者が発生している。近年では治療薬の開発が進み、早期に服薬治療を受ければ免疫力を落とすことなく通常の生活を送ることが可能となってきたが、未だ人類が直面している深刻な感染症の一つである。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を引き起こす病原体SARS-CoV-2は2019年に中国武漢市で発見され、全世界に感染拡大した。2021年9月までに世界で感染が確認された人は2億2000万人、死亡者は455万人。ヒトからヒトへの伝播は咳や飛沫を介して起こり、とくに三密(密閉・密集・密接)空間での感染拡大が頻繁に確認されている。
高齢者や心臓病、糖尿病等の基礎疾患を前もって患っていた人は重症の肺炎を引き起こすことが多く、20歳から50歳代の人でも呼吸器症状、高熱、下痢、味覚障害等、さまざまな症状が見られている。有効性の高いワクチンが次々と開発され始め、人への接種が実現した。これからも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は人類に定着して蔓延することが予想されている。
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これからも起こりうる可能性のあるパンデミックに対して、個人レベルでできる対策には何があるのだろうか。
インフルエンザなど、現在も毎年流行が見られる感染症でワクチンが開発されているものに関しては、事前に予防接種を受けることが大きな対策となる。予防接種には発症を防ぐ効果があるだけでなく、事前に予防をしておくことで、万が一感染した際にも重症化を防ぐことができる。一人ひとりが危機感を持って予防することは、個人だけでなく世界規模でのウイルスの大流行(パンデミック)をできる限り抑えることにもつながる。
パンデミックが起きた際には、店頭の品物がなくなったり、買い物に行けなくなる可能性が高くなる。その場合を想定し、水や食料などの備蓄を約2週間分用意しておくことも大切だ。ティッシュやトイレットペーパーなど必要最低限の衛星用品も忘れずに。また、医薬品を常用している家族がいる場合は、処方薬を確認し、必要な量を備蓄しておくことも忘れてはならない。医師からの処方薬をはじめ、市販の鎮痛剤や解熱剤、胃腸薬、マスクなども常備しておくといいだろう。
発生した感染症に臨機応変に対応できるよう、常にタイムリーな情報を手に入れてその動向を確認しておくことも需要だ。万が一感染してしまった場合でも、少しでも情報があれば1秒でも早い行動につなげることができるだろう。
公的な情報の入手先として、国内の機関としては、厚生労働省や検疫所、国立感染症研究所などがあげられる。とくに厚生労働省検疫情報管理室が運営するホームページ「FORTH」には、海外の感染症の最新流行状況や予防方法などの情報が掲載されている。WHOや米国CDCからの報告などの和訳が迅速に掲載されているため、有益な情報を得ることができるだろう。
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人類はこれまでに多くの犠牲を出しながらパンデミックと戦ってきた。先述した感染症をはじめ、現在流行している新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のようにこれからも新たな感染症によるパンデミックが発生する恐れは大いにある。
パンデミックによる人類へのリスクは計り知れないほど大きい。万が一感染した場合や、新たなパンデミックが起こった場合の対策を考え、早い段階から備えておくことがとても重要だ。
※参考
・過去のパンデミックレビュー スペインインフルエンザ(前半)
・NIID 国立感染症研究所 SARS(重症急性呼吸器症候群)とは
・NIID 国立感染症研究所 マラリアとは
・内閣府 マラリアについて
・厚生労働省 FORCE マラリア(ファクトシート)
・グローバルファンド日本委員会 エイズとは?
・NIID 国立感染症研究所 AIDS(後天性免疫不全症候群)とは
・NIID 国立感染症研究所 コロナウイルスとは
・感染症:診断と治療の進歩 5.感染症パンデミック時の対応(P.2768)
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