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コーダとは、耳が聞こえない、または聞こえない親のもとで育つ子どものことだ。コーダをテーマにした映画作品が社会に大きな反響を呼んだことも記憶に新しい。本記事では、コーダについて解説するとともに、理解を深めるための映画作品や団体もあわせて紹介する。
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コーダ(CODA)とはChildren of Deaf Adultsの略称で、耳が聞こえない、または聞こえにくい親のもとで育つ子どものこと。両親ともに、もしくは一方がろう者・難聴者でも、聞こえる子どもはコーダとされる。
聞こえの程度には個人差があり、「ほとんど聞こえない」から「聞こえにくい」というものまで幅がある。補聴器を使用して音を聞き取ることはできても言葉が不明瞭であったり、大人数いる場所では話し声の区別が難しい場合もある。聞こえない親とのコミュニケーション手段は、手話や口話などさまざまだが、一切手話を使わない者もいる。
また、聞こえない・聞こえにくい兄弟を持つ子どものことをソーダ(SODA/Sibling of a Deaf Adult)という。コーダと同様、家庭内では手話を通じてコミュニケーションを行う場合もあればそうでない場合もあり、手段はさまざまだ。
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コーダは聞こえない・聞こえにくい親のもとで育つため、「ろう文化」と「聴文化」の両方を行き来しながら成長する。2つの文化の違いを経験するなかで、コーダが抱えやすい悩みを紹介する。
コーダの大きな悩みの一つが、コミュニケーションの難しさだ。すべてのコーダが手話を得意とするわけではないが、聞こえない親との意思疎通を行うために多くのコーダには手話の学習が必要となる。さらに、家庭生活の中で無意識のうちにろう者と共通する視覚言語や生活習慣を身につけていくところがあるため、聴文化のなかでギャップを感じてしまうことも多い。
コーダは、しばしば親と聴者の間をつなぐ役割を担うことが多い。通訳や電話対応をしたり、親からのお願いを断ることに罪悪感を抱いたりと、精神的に負担になるケースも多い。否定的な経験が続くと、親と聴者をつなぐ立場に戸惑いや恥ずかしさを感じ、親と距離を置くようになってしまうこともある。親子でしっかりとコミュニケーションをとり、判断を行うことが大切だ。
同じ境遇の人が少ないことも、精神的な負担につながる。自身の悩みを打ち明ける機会が少ないことや、機会はあっても理解してもらうことに時間がかかってしまうなど、つながりが少ないために心の拠り所となる場所や機会が少ないことも悩みなのである。
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ここでは、コーダが抱える悩みを解決するための取り組みを紹介する。
先述したように、コーダはつながりの少なさから孤独感を感じてしまう場合がある。自身の悩みを打ち明け、理解を得るためにも、コーダ関連のコミュニティに参加することをおすすめしたい。同じ境遇の人や同じ思いを持った者同士が集まり、共通体験を語り合うことができる体験は、大きな安心感をもたらしてくれるだろう。
J-CODAでは、コーダが集い、コーダ同士で語り合う場として、定期的にイベントを開催している。
先述したように、親と聴者の間をつなぐ役割を担うことは、精神的な負担につながるケースが多い。親としっかりとコミュニケーションをとることも必要だが、行政を通じて手話通訳者にお願いするなど、あらゆるサービスを通じて負担の軽減を図ることもできる。
厚生労働省の「意思疎通支援」では、各地方自治体の支援のもと、手話通訳者や要約筆記者等の派遣を行なってくれる。他にも、ろう者と聴者の会話を、通訳オペレータが手話と文字、音声を通訳して電話で双方向につなぐ「電話リレーサービス」も存在する。これらをはじめとする行政が行うサービスに頼り、個人の負担を軽減することも大切だ。
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以下では、より理解を深めるためのコーダをテーマにした映画やコーダに関する団体を紹介する。
アカデミー賞史上最多4冠に輝いた名作『Coda あいのうた』。主人公であるルビーの家族を演じたのは、全員が実際に聞こえない俳優たち。監督のシアン・ヘダーは、「耳の聞こえない人の役があるのに、耳の聞こえない優秀な役者を起用しないというのは考えられなかった」と語る。
両親と兄の4人家族の中で一人だけ耳が聴こえるルビーは、幼い頃から家族のために通訳となり、家業の漁業も毎日欠かさず手伝っていた。新学期に選んだ合唱クラブで、歌の才能を見出されるも、彼女の歌声が聞こえない両親は娘の才能を信じられず大反対。ルビーは夢よりも家族の助けを続けることを選ぶが、思いがけない方法で娘の才能に気づいた父は意外な決意をするーー。支え合っていた家族が、それぞれの夢に向かって歩き始めることでさらに心の絆を強くする。コーダの苦悩と家族愛が描かれた感動の作品だ。
コーダという言葉が生まれたアメリカで、コーダ・コミュニティを取材した初めての長編ドキュメンタリー映画『私だけ聴こえる』。15歳というアイデンティティ形成期の多感な時期を過ごすコーダの子どもたちの3年間を追った作品だ。聞こえる世界にもろうの世界にも居場所がないと感じる彼らは、年に一度のCODAサマーキャンプの時だけ、ありのままの自分を解放し無邪気な子どもに戻れるという。ナイラ、ジェシカ、エムジェイ、アシュリーそれぞれの苦悩や葛藤が描かれている。
現在は、世界各国で上映を行っている。音のない世界と聴こえる世界のあいだで居場所を失い、揺らぎながらも自らを語り、成長していく子どもたちの姿からコーダの知られざる物語を知ることができる作品だ。
J-CODAは、前述にも触れた通りコーダが集い語り合う場として、関東地区を中心に勉強会を行うなど、定期的にイベントを開催している。中高生に向けたワークショップも開催されており、ここでは同世代のコーダの存在を知り、話を聞いたり情報共有することができる。これらの体験が、多くの参加者にとって大きな気づきや安心感をもたらしてくれるきっかけとなっている。
聞こえない親のための、コーダの育児支援を行っている「WP コーダ子育て支援」。コーダの子育てに関する情報提供や交流イベントなどを開催し、聞こえない親とコーダが社会で安心して暮らすための地域との連携づくりや、理解を深めてもらうための啓発活動も行なっている。また、コーダ子育て中の親と成人コーダが話し合いを重ねながらコーダを周囲の人に理解してもらうためのパンフレットを作成し、当事者をはじめ教育関係者、医療関係者にも知る機会を提供している。
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ろう文化と聴文化の両方を行き来するコーダは、さまざまな悩みを抱えている。その悩みは、人によって異なる。人や社会とのつながりを持ち、悩みを共有することは簡単なことではないかもしれないが、行政やコミュニティの力を借りながら助け合っていくことが必要だ。相手の心境を理解しようとすること、そしてどのようにすればよりよい状況になるのか、その改善策を考えることが大切だ。
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