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近年、企業に対する一つの指標にもなりつつあるSDGsに対する考え方や取り組み。実際に企業は、ビジネスを通してSDGs達成に対してどのような取り組みを行なっているのだろうか。企業にSDGsへの考え方や取り組みが問われるようになった背景から覗いてみよう。
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SDGs(Sustainable Development Goals)は、2015年9月に開かれた「国連持続可能な開発サミット」で加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。
地球上の「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を目指し、「17の目標」と「169のターゲット(具体目標)」で構成されている。「17の目標」には、貧困や飢餓をはじめ、働きがいや経済成長、気候変動に至るまで、世界が抱える課題が包括的に挙げられている。発展途上国のみならず、先進国自身が取り組む普遍的なものであり、日本も積極的に取り組んでいる。
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近年では、環境問題や社会的課題に対する世界的な関心が高まっている。SDGs達成に向けた取り組みや考え方は、もはや企業に対する一つの指標になりつつある。その背景には、どのようなものがあるのだろうか。
地球温暖化とは、人間の活動によって排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの増加によって、地球全体の平均気温が上昇する現象のこと。その影響により、海水の膨張や氷河などの融解により海面が上昇するなど、自然生態系や生活環境に大きな被害をもたらすと考えられている。
また、温暖化によって引き起こされる気候変動の影響により、深刻な干ばつや水不足、大規模火災、海面上昇、生物多様性の減少などが引き起こされている。これらに対して、エネルギーシステムを化石燃料から太陽光や風力などの再生可能エネルギーへ移、温室効果ガス排出量の削減、環境保護などの目標を設定している。
貧富の格差は、世界の多くの地域で深刻な社会問題となっている。一部の地域では極度の貧困が広がる一方で、他方では富の集中が進んでいる。社会的・経済的な不平等や貧困は、教育や健康、雇用の機会など、人々の基本的な権利に大きな影響を及ぼしている。SDGsは、経済成長の促進や教育の普及など、貧困と格差の解消に向けて目標を掲げている。
人口の増加や経済成長に伴い、資源の使用量や消費は増大している。資源の乱用や持続可能でない生産や消費パターンは、環境への負荷や資源の枯渇を引き起こす。例えば、発電や自動車に多く使われている化石燃料は、近い未来枯渇するとも言われている。他にも、生産活動で排出される化学薬品や農薬は水質汚染を引き起こすだけでなく、水資源の不足や生態系にまで影響を及ぼす※1。
2022年の開発目標レポートによると、「2020年には世界の食料の推定 13.3% が収穫後小売市場に届くまでに失われ、消費者が入手できる食料の総量(9億 3,100 万トン)の推定 17%が、家庭や食品サービス、小売レベルで廃棄されている」と発表された※1。これらの資源問題を踏まえ、政府や企業の持続可能な消費や生産への取り組みはもちろん、資源の効率的な利用や再生可能エネルギーの推進が広がっている。
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SDGsは国際的な目標として国が主導することが多い一方で、SDGsの経済目標は企業の協力なしには達成できないものが多い。ここでは、企業のSDGsへの取り組みを覗いてみよう。
帝国データバンクが2022年に行った調査※2によると、SDGsに積極的な企業(SDGsの意味や重要性を理解し取り組みを行なっている、または取り組みたいと思っている企業のこと)は52.2%と半数以上。2021年に比べ12.5%増となった。そのうち、大企業ではSDGsに積極的な企業が68.6%となった一方で、中小企業は48.9%と半数を下回る結果に。
SDGsに取り組めていない企業は42.7%。その要因として、「人材、資金面などのハードルが高いこと」が多く挙げられた。「補助金・助成金制度の拡充が必要」という意見もあり、意識はありつつも実行までのハードルが高く取り組めていない企業が多く存在することがわかった。
企業がSDGsビジネスを行うことで得られる効果はさまざまだ。調査によると、SDGsへの取り組みによる効果として「企業イメージの向上(37.2%)」、人材の定着につながる「従業員のモチベーションの向上(31.4%)」が上位となった。取り組みを進める過程で、自社の取り組みに自信が持てるようになったことも従業員のモチベーション向上につながっていると考えられる。総じて、企業の66.5%がSDGsへの取り組みによる効果を実感している結果となった。
SDGs達成に向けた企業の取り組みは、社会課題の解決に向けた貢献だけでなく、企業価値の向上やビジネスチャンスの獲得にもつながる。しっかりと対応していくことで経営リスクの回避にもつながり、持続可能な企業の成長が期待できるだろう。
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SDGsビジネスで成功するためには、どのようなことが必要なのか。
ここでは、そのポイントを7つ紹介する。
市場環境の分析や把握を行い、将来的にビジネスが成長していくために適した市場を選定することが重要だ。しかし、途上国におけるビジネスでは市場に関する整ったデータが不十分な事も多いため、限られたデータのなかでも深い洞察力や判断力を持ち、市場を把握・分析することが鍵となる。さらに、市場への参入や競合優位性の獲得にあたって、ブランドの信用をどのように構築するかは非常に大きな課題だ。
SDGsビジネス成功のためには、他の企業や政府、非営利組織などとのパートナーシップも必要だ。相互の利益を追求し、共同プロジェクトや取り組みを通じて協力関係を築くことで、効率的かつ効果的な販売網を構築できる。
企業やブランドの透明性が問われている近年において、SDGsへの取り組みの進捗状況や成果を透明かつ定期的に報告する必要がある。透明性の確保と責任ある報告により、ステークホルダーの信頼を得ることが重要だ。
成功している企業の多くは、継続的なビジネスモデルの見直しや構築を行い、持続可能な活動のために利益を確保かつ拡大し続けられる工夫を行なっている。例えば別のビジネスで得た利益をもとに、途上国向けの製品を低価格で販売するなど、マネタイズが難しいサービスを提供するために別の収益源をつくるなどの方法がある。最終的にビジネスとして成立させ継続させるためには、必要な資金を確保し、組織を成長させる必要がある。
SDGsへの取り組みをマーケティング戦略の一部として活用し、ブランド価値を向上させることもビジネスの観点から重要なポイントだ。ブランドや製品、サービスの存在・価値を広め、高めていくためには、マス向けの広告のみでなく多様なタッチポイントを増やし、販売促進を行うことが必要だ。
タッチポイントを増やすためにはさまざまな方法が考えられるが、マーケティング支援を行う企業と連携するのもいいだろう。持続可能なビジネスのイメージを構築し、消費者の関心や需要に応えることで、競争力を強化することができる。
3〜5年といった短期的な目線ではなく、10年単位の長期的な視点で戦略を立てる必要がある。SDGsビジネスでは、これまでにない新しいアイディアで新規市場に参入することも少なくない。そのため、多くの企業が長期的な目線を持って取り組み、長い目でビジネスを構築し継続することが成功への鍵となる。
経営者をはじめ、従業員のリーダーシップと協力体制が不可欠だ。リーダーシップは、あらゆるステークホルダーとの円滑なコミュニケーションを促進し、事業を加速させるための重要な役割。SDGsに本格的に取り組むにあたり、これまでの取り組みや価値観などを手放さなければならない場面もあるが、それらを手放して新たな取り組みを行うには、ビジョンを明確にし、従業員の協力体制を整えることが重要だ。
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サントリーでは、「水と生きる」をサントリーグループの約束として制定し、企業理念でも「人と自然が響きあう」と定めている。近年ではSDGsへの取り組みを本格化し、2030年までにグローバルで使用する全ペットボトルの100%サステナブル化を目指している。
2003年から、水源涵養機能の向上と生物多様性の保全を目標とした「天然水の森」をスタート。サントリー水科学研究所を中心に、科学的な根拠に基づいた継続的な活動を行っており、その規模は全国15都府県21ヵ所、約12,000haまで拡大している。2019年には「国内工場で汲み上げる地下水量の2倍以上の水を涵養」という、2020年の目標を1年前倒しで達成した。
住宅のリノベーション事業として展開している「MUJI INFILL 0」。本当に必要なものだけを残し、暮らしの原点をつくり、自由にパーツやアイテム、素材をプラスしていく。例えば、築年数が古い団地を無印良品がもつ高いデザイン性によってリノベーションすることで、おしゃれな住まいへと生まれ変わらせる。価値を高め、ブランドの魅力によって入居者を惹きつけることができる仕組みだ。
リノベーションされた住居は、建物自体の築年数が古くてもすぐに成約してしまうほどの高い人気を誇っている。住宅の再生を通じてサステナブルな社会の実現に貢献している、成功例の一つだ。
1952年に創業し、家庭用の石鹸や洗剤などを手がけるサラヤ株式会社。洗剤商品の原材料である植物性油脂の生産地を訪れ、自然や動物が問題を抱えていると知り、持続可能なパーム油を原料に使用した自社ブランド「ハッピーエレファント」シリーズを立ち上げた。
石油由来原料を一切使用しない100%天然由来原料で、人にも環境にもやさしく、排水後は分解されて地球に還る。すべての製品にRSPO認証(パームの収穫から製品化までを、完全に分別された認証パーム油だけを使っている製品の認証)を取得するなど、透明性のある製品づくりが評価され、第1回ジャパンSDGsアワードのSDGs副本部長賞に選出された。
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大川印刷では、SDGsにある17の目標すべてに貢献できる取り組みを行なっている。環境負荷低減のため、CO₂ゼロ印刷、エコ用紙、ノンVOCインキ、エコ配送など、営業から納品に至るまで一貫して環境負荷低減に取り組んでいる。
さらに、自社工場に太陽光発電設備を設置して再エネを自家消費するほか、契約電力を再エネ100%に切替えることなどにより、ゼロカーボンで印刷できる。現在では、脱炭素型の印刷会社として、業界や地域社会に広く認知されている。脱炭素だけでなく、インキ溶剤や紙、従業員や地域社会など、さまざまな分野に対して取り組みを進めていることが高く評価されている。
2006年から古木を活用した事業を開始し、持続可能な社会づくりに取り組んできた「山翠舎」。2019年には環境に配慮した企業として長野県SDGs推進企業に第1期登録。
空き家となった古民家を職人が丁寧に解体し、再利用できる木材の保管・利用をスタート。古民家の所有者から管理業務を請け負い、古民家をデータベース化し、希望者にとって最適な古民家や古木を見つけ出すというマッチングシステムを用い、円滑な循環を生み出している。2020年には、古木にまつわる一連のシステムを「古民家・古木サーキュラーエコノミー」として、より明確に体系化したことでGOOD DESIGN賞を受賞。古木をただ流通させるのではなく、職人の育成や古民家や古木のデータベース化、自社設計・施工による付加価値のある用途の開発など、更なる広がりを期待できると評された。
引越や片付けなどのサービスを展開している流通株式会社。毎月各部署でSDGsの17項目どれかに当てはまる新ルールや改善点を決定し、取り組みを行なっている。
一つの取り組みとして、“多くの家に使われなくなったランドセルがある”という気づきから、経済的な理由でランドセルを購入できない子どもにランドセルを贈る取り組み「ランドセル FOR ALL」を行なっている。実際には約200個のランドセルが集まり、社員がメンテナンスし譲渡会を実施。子ども自身が好きなランドセルを選べるこの取り組みは、テレビや地方紙などのメディアでも度々紹介され、社外の目を通じて社内にSDGsと自社の関連性を認知させるという目的を達成した。
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ここまで成功事例とともに紹介してきたように、SDGsがビジネスに及ぼす影響は広範囲にわたる。脱炭素やプラスチックごみ削減など環境に対する取り組みから、フードロスの削減、働きがいのある職場づくりなど、企業に求められる責任は多く、組織としてのあり方から見直す必要があるかもしれない。
新たなアイディアやサービス、製品が必要となるSDGsビジネスでは、他社と協力し合いながら取り組むことも成功への鍵となる。先述したように、SDGsビジネスを成功へと導くためにはさまざまな方法があるが、意識はあってもまず何から取り組めばいいのか、どのようなアプローチ方法があるのかなど動き出せていない企業も多いのではないだろうか。そこで、過去の実績や事例を参考に企業に合った解決策を導き出し、価値を提供してくれるエシカル・サステナブルな取り組みを支援するサービスも存在する。取り組みを加速させる手段として、取り入れてみることをおすすめしたい。
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