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いま、新たに注目される「半農半X」というライフスタイルについて、その特徴や注意点を解説する。半農半xという生き方を成功させるためには、自治体による支援も必須である。収入より心の豊かさに重きを置いた生活を実現するため、半農半xに注目してみよう。
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「半農半x」は、いま注目されているライフスタイルの一つである。読み方は「はんのうはんエックス」であり、農業とそれ以外の別の何かである「x」を両立していこうとする考え方だ。
半農半Xが目指す農業とは、半分の労力でできる小さな農業。つまり「自分が食べる分だけを小さく作れればそれでいい」という考え方だ。農業での負担が大きくなり過ぎなければ、当然その分で余力が生まれる。その余力を自分の好きなことである「x」につぎ込むというわけだ。
xに何を選ぶかは、個人の自由である。コロナ禍でテレワークが増えたいま、「半農半サラリーマン」を目指す人も増えている。「半農半制作」や「半農半民宿」など、自身の理想に合わせたライフスタイルを選択する人が多い。
この半農半Xという言葉は、京都出身の塩見直紀氏が1990年代後半ごろから提唱し始めたものだ。コロナ禍の中で自身のライフスタイルを見直す人が増えたことから、あらためて注目されている。その背景には、物やお金ではなく、心の豊かさを求める人々の増加が挙げられるだろう。(※1)
現在、農業をしたいと思っている人には、主に下記の3つの選択肢が用意されている。まずは、それぞれの特徴を知っておこう。
農林水産省によると、専業農家とは「世帯員のなかに兼業従事者(1年間に30日以上他に雇用されて仕事に従事した者または農業以外の自営業に従事した者)が1人もいない農家」である。
主に農業だけを営んで、生計を立てているという特徴がある。専業農家には効率良く農業に取り組めるというメリットがある一方で、収入が安定しにくいというデメリットがある。
同じく農林水産省によると、兼業農家とは「世帯員のなかに兼業従事者が1人以上いる農家」である。つまり、農業以外にも収入の柱となる仕事を有しているということだ。専業農家と比較すると、農業に割ける労力は限られるものの、農業以外の仕事で世帯収入を安定させやすい。(※2)
もうけるための農業ではなく、自身が食べていくための農業を、別の何かと組み合わせたライフスタイル。「収入を得るために仕事をする」という考え方から脱却し、自分に必要な食糧を自給しながら、自身のやりたいことを追求できるというメリットがある。
半農半Xは、都会から地方への移住を望む人々に人気だ。コロナ禍以降、その需要は増してきている。テレワークが主流になる中で、「あえて都会にとどまる必要がない」ということになった点も、半農半Xの需要が伸びた理由と言えるだろう。
半農半Xというライフスタイルを求める人々のバックグラウンドは、実に多彩である。20代で挑戦する人もいれば、50代から移住する人も少なくない。1人で気ままにスタートするケースもあれば、「家族がいるからこそ、半農半Xを」と考える人もいる。
xに当てはまる職業も、また実に多彩だ。介護士や保育士として人のために働こうとする人もいれば、歌手や作家などを目指して自身の夢を追い求める人もいる。「半農」で自身の食糧を確保できていれば、xでの稼ぎは最小限でいいわけだ。実際に、「本当に自分がやりたいことは?」と自身に問いかけた結果、無収入のNGOやボランティア活動をxに選ぶ人もいる。
半農半Xにおける成功というのは、お金では語れない。農業とxを通じ、本当の意味で心の豊かさを実感できた人こそが「成功者」と言えるだろう。
心の豊かさを求める人々にとっては、理想とも言える半農半X。とはいえ、失敗を避けるためには、いくつかの注意点を知っておいてほしい。
・農作業がうまくいくとは限らない
・家族の理解を得られない
・以前と同じ水準の生活を維持するのは難しい
半農半Xを実現するためには、農業で成果を得る必要がある。作物を育てた経験がない場合、農業をサポートしてくれる人を確保する必要があるだろう。
また、半農半Xを実践すれば、以前よりも収入が下がる可能性が高い。移住によるライフスタイルの変化もあり、以前と同じ水準の生活を求めるのは難しいだろう。家族とともに半農半Xに挑戦する場合、家族たちに半農半Xをしっかりと理解してもらう必要がある。
失敗のリスクを低下させるためには、各自治体の支援をフル活用するのがお勧めだ。半農についても半Xについても、独自のサポートシステムを導入している自治体が多い。また、事前体験会に参加すれば、実際の生活をイメージしやすくなり、想像とのギャップが小さくなるだろう。
半農半Xは、地方や農業の活性化のために注目されている取り組みの一つだ。このため、自治体によっては、移住や農業を始めるにあたって、さまざまな支援を提供してくれる。また、半農半Xの求人をしている農家もあるため、探してみるといいだろう。
半農半Xを支援している自治体の例は、以下のとおりだ。
少子高齢化が進む島根県は、農業の担い手不足が深刻化している地域でもある。県の人口は2021年時点で約66万人だ。羽田空港から県内の出雲縁結び空港までは、約85分。豊かな自然が魅力的な土地だ。キャベツやトマト、アスパラガスなど、さまざまな野菜の生産に適している。
島根県では、島根県外からの移住者に向けて、半農半X支援事業を実施。半農半Xを実践する人を対象に、就農前の研修時と定住・就農初期の営農に必要な経費を、それぞれ最長で1年間助成する。両方を合計すれば、期間は最長で2年間となる。
対象は就農時65歳未満の人で、助成金額はそれぞれ月額12万円である。半農半X開始支援事業(ハード事業)については施設整備経費の助成が補助率3分の1以内で上限100万円だ。(※3)
福岡県の東南部、大分県との県境に位置する添田町。厳しい寒さと豊富な雨量、豊かな自然が広がる地域である。九州最大の都市である福岡から車で約1時間半という立地条件で、人口は約1万人。米や大豆、白菜やキャベツなどが多く生産されている。
添田町では、専業農家を目指す人、半農半Xを目指す人、それぞれに向けた支援事業を実施している。添田町内に住民登録している人、もしくは定住の意志がある人が対象で、18歳以上65歳以下。就農に対して意欲があること、健康で体力に自信があることなどが求められる。
希望者には受講費無料で半年間の研修を行い、就農後は福岡県の半農半X実践者支援や定住促進事業の支援を利用できる。(※4)
お金を稼ぐことは大切だが、それだけで豊かな人生が送れるわけではない。こうした考え方は、コロナ禍の影響で徐々に強まってきている。半農半Xで、新たな生きがい、そしてやりがいを見つけようとする人は少なくない。
半農半Xに挑戦するなら、各種支援を最大限に活用したいところだ。新たなライフスタイルを軌道に乗せるため、自分にとってはどのような支援が必要なのかを検討してみてはどうだろうか。
※1 半農半Xという生き方と 「里山ねっと・あやべ」がめざすもの(4ページ目)|龍谷大学
※2 用語の解説|農林水産省
※3 定年帰農者への支援|島根県
※4 就農(専業農家・半農半X)希望者を支援します|福岡県添田町
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