ヘドニスティックサステナビリティとは その意味と必要性、具体例を解説

摩天楼が立ち並ぶ大都市の空撮

Photo by Abigail Keenan

近年注目されている新しい考え方である「ヘドニスティックサステナビリティ」についてわかりやすく解説する。従来のサステナビリティに向けた取り組みとは、いったいどこが違うのか、いまここで学んでおこう。世界で注目されている具体例についても、併せて紹介する。

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2021.12.21

ヘドニスティックサステナビリティとは

「ヘドニスティックサステナビリティ(hedonistic sustainability)」は、「ヘドニスティック」と「サステナビリティ」という、2つの単語を組み合わせてできた言葉である。直訳すると「快楽主義的な持続可能性」となる。

サステナビリティは、ここ数年、人々の関心が高まっているキーワードである。地球環境を守り、我々人間がよりいい暮らしを維持していくため、欠かせない視点と言っていいだろう。これに、新たに「楽しみ」や「快適性」というキーワードを加えたのが、ヘドニスティックサステナビリティだ。主に都市計画や建築の世界で使われている。

デンマーク発祥の概念

ヘドニスティックサステナビリティという新しい考えを提唱したのは、ビャルケ・インゲルスという人物である。デンマーク出身の建築家で、世界的にも注目される優れた建築物を、非常に多く手がけている。

彼は2005年に、彼自身が率いる建築設計事務所BIG(ビャルケ・インゲルス・グループ)を設立。その後、彼が優れた作品を生み出すたびに、ヘドニスティックサステナビリティという考え方は世界中に浸透してきた。

2009年には、BIGのスローガンでもある『Yes is More』というタイトルの著書を出版。この書がヘドニスティックサステナビリティの意味と重要性を、世により広く知らしめるきっかけとなった。

従来の取り組みとの違い、その必要性

サステナビリティに対する取り組みは、さまざまな場面や、さまざまな人々によって行われている。とはいえ、そこには「我慢」や「辛抱」といったキーワードがつきものだった。

持続可能な社会の実現のためには、多少不便でも一人ひとりが努力しなければならない。そんな考えを持っている人は多いのではないだろうか。ごみ削減のためにマイバッグを持ち歩いたり、温室効果ガス削減のためにエアコンの温度を調整したりするのも、広義で捉えれば「我慢」や「辛抱」の一種と言えるだろう。

しかし、ヘドニスティックサステナビリティが提唱しているのは、こうした我慢や辛抱から解放されたサステナビリティである。ビャルケ・インゲルス率いるBIGが手がける建築物は、持続可能性を追求しながらも、人々が心の底からワクワクして楽しめる環境となるデザインや造りを実現している。諦めや我慢ではなく、楽しみやワクワク感が盛り込まれているが点が、ヘドニスティックサステナビリティの最大の特徴なのだ。

人々が快適さや楽しさを追求するのは、ある意味で当たり前のことだと言えるだろう。ヘドニスティックサステナビリティが多く実現すれば、持続可能性に対する認識も、よりポジティブなものへと変化していくはずだ。

「持続可能性のために仕方なく行動する」というのと、「快適かつ楽しい生活の中で持続可能性を実現できる」というのでは、その結果は大きく異なるだろう。ヘドニスティックサステナビリティに対する関心はさらに高まり、それが実現した場所では自発的な行動を促せるだろう。

ヘドニスティックサステナビリティの具体例

ヘドニスティックサステナビリティは、すでに世界中のさまざまな場所で実現されている。4つの具体例を紹介しよう。

CopenHill(デンマーク)

CopenHillのゲレンデでスキーをする男性

Photo by CopenHill

デンマークのコペンハーゲンに造られた「CopenHill」。廃棄物処理場でありながら、2019年にはスキーゲレンデをオープンした。その建築設計を手がけたのはビャルケ・インゲルスが率いるBIGであり、同建築設計事務所の代表作の一つとして知られている。

人々ができれば遠ざけたいと思う廃棄物処理場に、あえて人が集まりたくなるしかけを搭載。そこに集う近隣住民や観光客が、ごみ処理問題をより身近に感じられるようにしている。ゲレンデ部分には天然芝と人工芝がミックスで張られ、一年中滑走が可能。常に多くの人々でにぎわっている。

Woven City(日本)

トヨタとBIGが協力して造り上げようとしているのが、静岡県裾野市の実証都市「Woven City(ウーブン・シティ)」である。自動運転やMaaS(マース)、ロボットやAI技術など、さまざまな先端技術を活用した未来都市だ。

Woven Cityの理念は、テクノロジーによって人々の生活の質を高めるとともに、環境との調和を図ること。燃料電池の発電によるエネルギー供給を導入し、インフラはすべて地下に埋設されてる。具体的な計画は2021年よりスタートし、実際にそこで人が生活しながら新たな価値やビジネスモデルの構築を目指す。(※1)

BIG U(アメリカ合衆国)

2012年、ハリケーンによって甚大な被害を受けたアメリカ・ニューヨーク。災害に強い街づくりを目的に進められたのが、「BIG U」というプロジェクトだ。手がけたのは、やはりビャルケ・インゲルスが率いるBIGである。

コンペを勝ち抜き、彼らが手にしたのは3億3,500万ドルという予算。マンハッタンの海岸線13kmを、防潮機能を持つ公園として再開発することで、街全体の防災力を高めた。水を遮断する壁を造るのではなく、水がやってくるのを見越した街づくりを行うことで、機能性と快適性を両立させた。

BQP(アメリカ合衆国)

ニューヨークの交通網として長らく愛され続けてきた「Brooklyn Queens Expressway(BQE)」。その老朽化に伴い、BIGが新たに公園として生まれ変わらせることが決まっている。計画が発表されたのは2019年のことで、近隣地区の再開発にもつながる。新しい交通とライフスタイルが実現され、自然を身近に感じられる空間へと変貌する予定だ。(※2)

継続のためには、“楽しみながら”を忘れずに

持続可能な社会を実現するために、我々人間に求められる行動変容は、非常に多い。しかし我慢や諦めを強いられるばかりでは、その行動の継続は難しいだろう。

ヘドニスティックサステナビリティという新たな考えを取り入れることで、より自発的に持続可能性を追求した行動を実践していけるはずだ。ビャルケ・インゲルスの活躍とともに、ヘドニスティックサステナビリティに対する注目度は上昇している。

※掲載している情報は、2021年12月21日時点のものです。

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