ショッピングモールやブティックが定休日となる日曜日。ドイツ・ベルリン市民の楽しみの一つは、街の至る所で開催される「サンデーマーケット」と呼ばれる蚤の市だ。安価な古着からアンティーク家具など、お宝が眠っている。ものを大切にする文化が根付くベルリンから、蚤の市の特徴と魅力を伝える。
宮沢香奈(Kana Miyazawa)
フリーランスライター/コラムニスト/PR
長野県生まれ。文化服装学院卒業。 セレクトショップのプレス、ブランドディレクターを経たのち、フリーランスでPR事業をスタートし、ファッションと音楽の二本を柱に独自のスタイルで実績を積…
ヨーロッパの蚤の市と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、最大規模を誇るパリの「クリニャンクール」かもしれない。パリ以外にも、ブリュッセルの「ジュ・ド・バル広場」やミラノの「ナヴィリオ」など、世界各地からプロのバイヤーが買い付けに訪れるほど有名な蚤の市がいくつも存在する。
古着好きの筆者も実際に訪れ、その豊富な品揃え、クオリティーの高さ、ハイブランドの多さに大興奮したのを覚えている。
同じヨーロッパでもベルリンの蚤の市はそれらとは少し異なり、もっと生活に密着している。
パリやミラノのようなハイブランドは少なく、H&MやZARAといったファストブランドが目立ち、ブリュッセルのような美しい陶磁器より、不要となった家庭用品や電化製品が所狭しと並ぶ。道端やごみ捨て場に捨ててあったものを回収して売ることによって、生計を立てている人もいるほどだ。
とはいえ、ベルリンの蚤の市においても、センスのいい古着や、DDR(旧東ドイツ時代)デザインの家具や雑貨など“お宝”を発見できる。
そしてベルリンの蚤の市は、多種多様な街の雰囲気と相まって、雑多でユニークな蚤の市が多数点在。観光地としても人気の大規模なマーケットから、地域住民が集う地域密着型の小物市まで、売られている品のテイストや客層がまるで違う。
そんなベルリンの蚤の市から、筆者がとくにおすすめしたい3つを紹介する。
人だかりができるほど人気のデニム専門店は、ヴィンテージのリーバイスの宝庫。
ベルリン最大級の規模と人気を誇るのが、プレンツラウアーベルク地区のマウアーパークで開催されている「Mauerpark Flohmarkt(マウアーパーク・フローマルクト)」だ。「マウアー」とはドイツ語で「壁」を意味し、ベルリンの壁が当時のまま残されている場所もある。
2004年からスタートした同マーケットには、衣類や家庭用品を販売する個人出店のほか、多数の専門店が出店。実店舗、オンラインショップも運営する本格的なヴィンテージショップ、インテリアショップ、レコード、ポスター、アクセサリーなどが、軒を連ねている。
店舗数の多さから大勢の人々が訪れ、天気のいい日には通りの行き来にも一苦労するほど混み合う。じっくり見てまわるには丸1日掛かる覚悟が必要だ。
80年代テイストのカラフルなシャツやドレスなどが豊富に揃っており、価格帯は10ユーロ(約1200円)前後からと格安。個人出店のほうがディスカウント交渉はしやすいが、当然ながら古着専門店のほうが品揃えやセンスがいい。
ダンボールに雑に詰められた大量の“ガラクタ”同然の食器や陶磁器、雑貨。これもベルリンの蚤の市ではお馴染みの光景となっている。まとめ買いや交渉術しだいでは、破格の1ユーロ(約130円)から手に入れられる。
マウアーパークでは、クリエイターズマーケットが融合されていることも特徴の一つだ。ベルリンを拠点とするインディーズのデザイナーやイラストレーター、アーティストなどが、自身の作品を販売している。
「顧客をつかみたい」「将来自分の店を持ちたい」といった夢を持っている人が多く、実際に蚤の市からビッグチャンスをつかんだ話を聞いたことがある。
また「ストリートフードマーケット」と連携しており、世界各地のソウルフードを楽しめるのも、この蚤の市の醍醐味だ。
2021年6月から新しくスタートし、早くも話題を集めているのが、シェーネベルク地区で開催されている「Schoeneboerg flowmarkt(シェーネベルク・フローマルクト)」だ。
毎月第2日曜日に開催され、衣類はもちろん、アクセサリー、アート、クラフト、ストリートフードなどの店が出店している。広々した敷地は舗装されたコンクリートで歩きやすい。家族連れが多く、落ち着いた雰囲気のなかでゆっくりとショッピングを楽しめる。
2~3人でシェアして衣類や雑貨を売っている個人出店のブースが多く、低い値段設定が特徴。中心となるのは、H&M、MONKI、アメリカンアパレル、ユニクロ、SELECTEDなど、ファストブランドやカジュアルブランドで、カットソーが2ユーロ(約260円)から、ジャケットでも10ユーロ(約1,300円)前後で購入できる。
ここでもディスカウント交渉は可能だが、終了間際の夕方を狙えば「全部5ユーロ(約660円)!」「ディスカウントします!」などと、売り手からオファーが舞い込んでくる。
モノクロフィルムで写真撮影のサービスを行なっているブースも。
ダンボールやクリアケースに入っているものは、基本的にすべて1ユーロ(約130円)で売られており、「1ユーロボックス」とも呼ばれている。こういった光景もベルリンの蚤の市ならではだ。
最後は、筆者が個人的にもっともおすすめしたい「Kunst&Trödelmarkt(クンスト&トローデルマルクト」を紹介する。
毎週土曜日と日曜日に開催されているこの蚤の市の会場は、地下鉄のFehrbelliner Platz(フェーベリナープラッツ)駅に直結。ビアガーデンの「Parkcafé」が隣接されており、ロケーションがいい。規模こそ大きくないが、他の蚤の市と同様に、衣類、アクセサリー、家庭用品、骨董品、本などが売られている。
おすすめしたい理由は、ベルリンの蚤の市の中でもっともハイブランドに出合える可能性が高いという点だ。
実際に、筆者はフランスのファッションブランド「アライア(ALAÏA)」のサンダルを40ユーロ(約5,200円)、ストックホルムのブランド「Eytys(エイティーズ)」のジーンズを25ユーロ(約3,300円)で購入している。
このジーンズ、持ち主には「サイズが小さかった」そうだ。どちらもほとんど着用されておらず、ほぼ新品の状態で購入できた。ちなみに、正規の値段は260ユーロ(約34,000円)。まさに“お宝”と出合った瞬間だ。
他にも、シャネル、サンローラン、プラダ、ラルフローレン、シャルル・ジョルダン、JOSEPHなど、訪れる度にハイブランドと出合える。
50代のオシャレなマダムから購入した「Eytys(エイティーズ)」のジーンズ。状態もとてもいい。
アンティーク雑貨や食器、陶磁器のブースはきちんと整頓されており、蚤の市でありながらエレガントな雰囲気が漂っている。
その理由は、この蚤の市が開催されているヴィルマースドルフ地区にある。ここは中産階級が多く住む治安のいい住宅地区として知られ、近隣に住む裕福なマダムが不要となった私物を趣味感覚で出品している。そのため、どことなく余裕や気品が感じられるのだ。
蚤の市に人気がある理由の一つは、ものを大切にするドイツ人の気質があると考えられる。
例えば、廃墟同然の古い建物はリノベーションされ、クラブやイベントホールへと生まれ変わる。不要となった家具や家庭用品は、アパートメントのエントランス付近に、「zu verschenken(ご自由にどうぞ)」と書かれた張り紙とともに置かれ、誰でもほしい人が無償でもらえる。このような習慣が根付いているのだ。
洋服に関しては、道路沿いにリサイクル専用のボックスが設置されており、いつでもそのなかに入れられるのだ。
「ものを捨てる」という行為の前にできることが、これだけある。筆者の友人には、新品の洋服を一切買わずに、古着のみを好んで着るヴィンテージ主義の人がいるほどだ。
幼少期から当たり前のように習慣になっているリサイクル精神は、捨てることへの抵抗感を生み出し、生活に密着した庶民的な蚤の市へと発展したのではないだろうか。
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