深刻化する気候変動問題に脱炭素化の流れが加速している。そんな中の取り組みのひとつが、クライメイト・ニュートラル認証だ。認証制度の目的と基準、認証取得の3つのステップについて解説する。また認証を取得しているブランドの事例を取り上げる。
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「クライメイト・ニュートラル(CLIMATE NEUTRAL)」は、アメリカのアウトドアブランド「BioLite」とプロダクトデザイン会社「Peak Design」のCEOが2019年に共同で立ち上げた非営利団体だ。(※1)
クライメイト・ニュートラルは低炭素社会の実現を目指し、企業の二酸化炭素排出量の測定や削減、オフセットについて、ガイドラインを策定し認証している。
世界の平均地上気温はこの100年間で0.75℃、日本にいたっては1.26℃も上昇している。(※2) この気温上昇が、すでに起きている記録的猛暑や豪雨、豪雪といった異常気象に影響している。
2015年に採択されたパリ協定で、世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える目標が掲げられている。また、2021年11月に開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)でも、平均気温の上昇を1.5℃に抑える目標達成が強く求められている。
そのためには、2050年までに世界の二酸化炭素排出量をネットゼロ=実質ゼロにしなければならない。
深刻な気候変動問題に対し、クライメイト・ニュートラルは企業に二酸化炭素排出量ネットゼロに向けたソリューションを提供。既存のエネルギーや産業を改革し、健全なエコシステムの構築を目指している。
クライメイト・ニュートラル認証ラベルを取得するためには、企業やブランドは「クライメイト・ニュートラル認証スタンダード(CNCS、Climate Neutral Certification Standards)」を満たさなければならない。CNCSでは、主に以下の3つの要件を示している。
認証を受けるまでには通常1~3ヶ月が必要である。
前年における、製品やサービスの製造から納品までに発生した二酸化炭素排出量を測定する。測定は、下記の3つのカテゴリーにもとづいて行われる。
施設で使用されている化石燃料や、社用車の燃料。
施設で使用する電気。
購入した商品とサービス、資本財、従業員の通勤、上流および下流の輸送や流通など。
前年に排出した二酸化炭素量を測定したら、それと同等のカーボンクレジットを購入する。カーボンクレジットとは、温室効果ガスを削減・吸収するプロジェクトを価値化したもの。カーボンクレジットを購入することで、企業活動で排出した二酸化炭素をオフセット(相殺)する。
なお、購入にかかる費用は、企業の年間収益のおよそ0.4%程度だ。
今後1~2年以内に二酸化炭素排出量を減らすため、クライメイト・ニュートラルが作成したガイドにもとづき、削減行動計画を作成し、これを実行する。年に一度、進捗状況を報告する必要があり、その内容はクライメイト・ニュートラルのWebサイトに掲載される。
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待ったなしの気候変動問題に直面し、脱炭素の商品やサービスを求める消費マインドが徐々に高まってきている。消費者は、クライメイト・ニュートラル認証ラベルを目印に、どの商品・サービスが気候変動対策にコミットしているか判断。購買を通じて、気候変動対策にアクションを起こすことができる。
一方、企業はクライメイト・ニュートラル認証の取得を通して、より持続可能なビジネスを展開することができる。これは消費者や取引先へのイメージアップだけでなく、ESG投資対策としてビジネスの資金調達に有利となる点も見過ごせない。
世界持続可能投資連合(GSIA)が2021年7月に発表したレポートによると、2020年の世界のESG投資総額は35兆3千億ドル(約4,000兆円)で、これは全運用資産の36%を占める。日本のESG投資額は2018年から34%も増加し、2兆8,740億ドル(約320兆円)にのぼる。(※3)
つまり、脱炭素など環境に配慮したビジネスは、長期的に成長する可能性があるとして、世界の投資家から注目を集めているということだ。
2021年11月現在、312のブランドがクライメイト・ニュートラルの認証を受けている。ファッション、ビューティ、日用品、インテリアなどそのジャンルは多岐にわたる。ここでは、いくつかのブランドをピックアップして紹介したい。
2016年に元ニュージーランド代表のサッカー選手とバイオテクノロジーの専門家が立ち上げたシューズブランド。インソールにはヒマシ油、靴底にはサトウキビを使用するなど、カーボンフットプリントを抑えたプロダクトを展開。アメリカの著名人が愛用していると話題で、2020年に日本初上陸。
保温保冷対応のインスレートボトルやフードキャニスターなどを展開するアメリカ・カリフォルニアのブランド。ステンレス製でBPAフリー(ビスフェノールAと呼ばれる化学物質不使用)のボトルは、リユース可能だ。
フランス植物学の父と呼ばれるルイ・マリーの情熱を現代的に蘇らせたフレグランスメゾン。人体や環境に有害な成分を含まない自然由来の製品を提供する。
世界中から厳選したエシカル商品を展開する「ELLEMINIST SHOP」では、クライメイト・ニュートラルの認証を受けたファッショナブルなスマホケースやカトラリーなど日用雑貨を取り扱う。まずは身近なアイテムから、環境に負荷をかけない生活を実現してみてはどうだろう。
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世界的にエシカル消費の機運が徐々に高まってきているが、日本はどうか。
農林水産省の消費者調査によると、持続可能な消費について「関心がない」と答えた割合は、アメリカ23%、イギリス18%に対して、日本は34%(※4)だった。欧米に比べ持続可能性に無関心な人の割合が非常に高い結果となっている。
我々の生活が多くの二酸化炭素排出や環境負荷と引き換えに成りたっている現状を改めて周知し、未来につながる消費マインドを育てていくことが急務ではないだろうか。
参考
※1 Climate Neutral
※2 地球温暖化とその予測|気象庁気象研究所 応用気象研究部 2021年4月
※3 GSIA Global Sustainable Investment Review 2020
※4 消費行動関係資料|農林水産省大臣官房 環境政策室 2018年11月
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