世界規模で深刻化が叫ばれて久しい「プラスチック問題」。プラスチックオフセットとは、最大限にプラスチックごみを削減するための努力に加え、「間接的」にも問題の解決に取り組むための仕組みだ。本コラムでは、プラスチックを取り巻く国内外の状況を概説する。
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「プラスチックオフセット」を理解するために、まずは「カーボンオフセット」という言葉を確認しよう。カーボンオフセットとは、日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、できるだけ「排出量が減るよう削減努力」を行うことである。
また、どうしても排出されてしまう温室効果ガス(=削減が困難な部分の排出量)については、「削減活動に投資する」こと等により、その排出量の全部、もしくは一部を「埋め合わせる」考え方だ。(※1)
投資先は、他の場所で実現した「温室効果ガスの排出削減・吸収量等の購入」、もしくは「排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動への資金提供」など。これらの仕組みによって、オフセットを行う主体自らの削減努力が促進され、温室効果ガスの排出を抑制することが期待される。
そして、本日解説する「プラスチックオフセット」とは、カーボンオフセットの「プラスチック」版と捉えると理解しやすい。
カーボンオフセットと同様に、プラスチッククレジットを購入するか、プラスチック廃棄物を扱う団体や環境プロジェクトに直接資金を提供することによって、「企業や消費者のプラスチック消費量を埋め合わせる」システムだ。
プラスチックオフセットの目的は、いうまでもなく、喫緊の課題として世界が直面している「ブラスチック問題の解決」。以下に、詳しくみていこう。
プラスチックが抱える問題点は以下の3点に集約される。1点目に、「プラスチックを分解する微生物が自然界に存在しない」こと。2点目に「燃やすと有毒ガスを発生するものがある」こと。そして、3点目に「燃えた後に生じる二酸化炭素が大気中に増加すること」である。加えて、有限の資源である石油を原料とすることも、資源問題につながっている。
プラスチックのこれらの特性によって、廃棄量に対する焼却やごみの再利用、再資源化のスピードが追いつかず、多くのプラスチックが最終処分場に埋め立てられることになる。また、消却したとしても、環境に有害な影響を及ばす。
とりわけ、海洋に甚大な被害が出ており、海洋に流出しているプラスチックごみによって、「生態系を含めた海洋環境への影響」、「船舶航行への障害」、「観光・漁業への影響」、「沿岸域居住環境への影響」が深刻化している。(※2)
なかでも、海に流れ込み、砕けて5ミリ以下になった「マイクロプラスチック」が海洋汚染を広げており、人体からも発見されていることが問題になっている。
「持続可能な消費と生産パターンの確保」と「海洋・海洋資源の保全」は国連の持続可能な開発目標(SDGs)にも掲げられ、とくに欧州(EU)が率先して取り組んでいることが推察される。
平成30年の環境省が発表している「プラスチックを取り巻く国内外の状況」(※2)によると、EUでは、「EUサーキュラーエコノミー(経済循環)パッケージ」や「EUプラスチック戦略」が実施されており、2030年までにすべてのプラスチック容器包装を効果的にリユース・リサイクル可能にする等のビジョンや目標、計画が明示されている。
2021年には、食器、カトラリー(ナイフやフォーク等)、ストロー、風船の柄、綿棒など、以下のシングルユース・プラスチック製品・容器包装のEU市場への上市が禁止され、プラスチック製品の環境負荷低減に関する国内法の整備が進められている(※3)。また、中国でも類似した動きが報告されている。
上述したように、深刻化するプラスチック問題に対して、現在各国において施策が進められている。しかしながら、年間約500~1300万トンの海洋流出が推計される量のプラスチックに対応するためには、可能な限り「プラスチック廃棄量の削減努力」に着手するだけでなく、どうしても発生してしまう分については、プラスチックオフセットによって、間接的に削減へ取り組む対応が求められている。(※4)
ここまでの話をまとめると、プラスチックオフセットには少なくとも以下のような利点があるといえる。
・プラスチック製造量、消費量の削減
・プラスチック製品が引き起こす深刻な環境問題の解決
・プラスチックに係る環境問題に取り組む団体やプロジェクトの活動資金の確保
・プラスチックに係る環境問題に取り組まない企業の淘汰
・上記に対する企業、および消費者の意識と取り組みの促進
現在、国内外において、プラスチックごみの削減を目指し、プラスチック製品の使用を控えたり、リサイクル品の使用率を高めるなど、環境問題への対策が加速している。まさに、環境問題への配慮や対応が、ブランドイメージに直結する時代の到来であり、その企業の生命線を握っているともいえる。
とはいえ、WWF(※5)によれば、環境中に流出したプラスチックのほとんどが最終的に行きつく「海」への流出量は1億5,000万トン。そこへ、少なくとも年間800万トン(重さにして、ジェット機5万機相当)が、新たに流入していると推定されている。
これらの問題を解決するためには、日本を含め、各国のプラスチックオフセットに係る法整備や、プラスチックオフセットを進めるための体制づくりが必須である。
この記事では、プラスチックオフセットについて概説した。深刻化の一途をたどるプラスチック問題。それがいかに根深いかは、身の回りを見渡せば一目瞭然であり、プラスチック製品であふれる日常が何よりもそれを証明している。
その商品や製品はいったいどのようにつくられたのか?どのような環境への配慮がなされているのか?企業全体でどのような努力や取り組みがなされているのか?地球市民の一員として、消費者側の意識を高めることが強く求められている。
※1 カーボン・オフセット|環境省
※2 プラスチックを取り巻く国内外の状況|環境省
※3 プラスチックを取り巻く国内外の状況 <参考資料集>|経済産業省
※4 環境省における 海洋プラスチックごみ問題への取組み|経済産業省
※5 海洋プラスチック問題について|WWFジャパン
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