世界的な問題である「児童労働」の現状を解説。世界の途上国では5歳から17歳までの子どもの「4人に1人」が労働を強いられている。世界で1億6000万人いる児童労働者は過去20年で初めて増加し、これまでの減少傾向が逆転している。
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国際的に児童労働の禁止・撤廃を定める国際労働機関の国際基準では、1973年採択の「就業が認められるための最低年齢に関する条約」(第138号)と1999年採択の「最悪の形態の児童労働の禁止および撤廃のための即時の行動に関する条約」(第182号)がある。(ILO:※1)
これらの条約を集約すれば、
1)就業の最低年齢は義務教育終了年齢後、原則15歳(ただし、軽労働については、一定の条件の下に13歳以上15歳未満)。
2)危険有害業務(たとえば劇薬を扱う業務や、著しく粉塵が発生する業務、運転中の機械のメンテナンスを行う業務など)は18歳未満禁止。
3)開発途上国のための例外として、就業最低年齢は当面14歳、軽労働は12歳以上14歳未満。
この3点が明記されている。
児童労働は、「教育を受けることを妨げる労働」、「健康的な発達を妨げる労働」、「有害で危険な労働」、「子どもを搾取する労働」の観点から、法律で禁止されており、このいずれかひとつにでも該当すれば、それは「児童労働」にあたる。(※2)
ILOの条約は国際的なルールであり、条約を批准した国は上記の国際基準に則って各国内法や制度を整備する必要がある。
たとえば日本では、日本の法律で児童労働が禁止されていること、児童を酷使してはならないことが明記されている。また、教育基本法では、「義務教育は9年間で無償」とすることが定められている。
ILOは4年に一度、世界の児童労働者数の推計を発表している。2021年の報告によると、全世界の児童労働者(5~17歳)は1億6000万人(男子:9700万人、女子:6300万人)。2016年の推計と比べ840万人が増加している結果だ。いったいどの地域、どの国で行われているのか。(※3)
児童労働者に従事している子どもの割合は、サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠より南のアフリカ地域)で23.9%ともっとも高く、およそ4人に1人が働いており、その数は8660万人にのぼる。
同資料によれば、アジア・太平洋地域は5.6%、ラテンアメリカ(メキシコ以南のアメリカ大陸、中南米地域)は6.0%と2008年はそれぞれ13.3%、10.0%であった段階から、調査ごとに状況が改善。
しかしながら、サブサハラ・アフリカは2012年、2016年と比較して2020年の「児童労働者の絶対数」および「その割合」ともに増加している。
7歳でお父さんを亡くし、家族を支えるため9歳からカカオ農園で働き始める。 朝5時に農園へ行き、カカオを収穫し、集め、重量の重いカカオを頭に乗せて運ぶ作業に従事。頭から首、背中、腰、脚まで全身が痛みに襲われるだけでなく、学校へ通うことができなかった。(※2)
シャンティさん(仮名)は、インド南部のアンドラ・プラデシュ州の綿花畑で5歳から働いていた。学校へは一度も行ったことがなく、朝6時に起きて、水くみ、掃除をしてから綿花畑で農作業に従事。
6~9月は授粉の最盛期で、2ヶ月間一日も休みがなく、強い日差しの中、腰をかがめて朝から晩まで作業を行う。シャンティさんは農薬を吸って頭痛や腹痛があったり、農薬が肌に触れて皮膚病になったり、病院へ何度も通った。
大人は日給100ルピー(約270円)のところ、シャンティさんは1日働いても70ルピー(約189円)しかもらうことはできず、16歳の時、彼女は血液の癌によって他界した。
上記の例のように、朝から晩まで働くだけの毎日を強いられる子どもたち。子どもを親元から引き離し、無理やり働かせるようなことを“人身売買”と呼び、大人によって暴力をふるわれているケースも少なくない。
いうまでもなく「貧困」は、児童労働のその大きな要因である。児童労働によって、過酷な環境で働き、教育を受けられないまま成長した大人は、低収入の仕事しか得られず、健康な体を失ってしまう。継続的に働くことができないと、家計を支える労働の担い手として子どもが働かざるを得なくなる。
また、以下のような現実によって、児童労働と貧困の悪循環が続く。
・子どもがいる家庭・地域・国の貧困、児童労働や教育への意識不足
・女子の教育を妨げる児童婚の慣習
・教育や弱者への保護に関する政府政策の不備
・子どもを安い労働力とみなし雇用するビジネス
・商品の生産過程での人権侵害に関する情報や意識の不足
・より安い商品を求める消費行動
消費者が少しでも安い商品を求めれば、企業は売上や利益のためさまざまなコストを削減。その削減されるコストは、原材料の調達費や労働者の給与や仕事であり、大きなしわ寄せがいく先は、途上国の生産者たちであり子どもたちになる。
国境を越えたビジネスや私たちの消費のああり方が、児童労働を生み出す負のサイクルを促進している。
児童労働者は低所得国と低・中所得国に多く、全体の84.3%を占めるが、日本を含む高所得国にも160万人(1.9%)の児童労働者が存在する。(※2)
厚生労働省の2015年の統計によれば、日本における子どもの労働基準法関係法令違反は297 件。(※4)
これらの違反状況として、
1)年少者(子ども)に関する違反事業場数は増加傾向にあり、年間約 9万件の全違反事業場に占める割合は低いものの「増加傾向」にある。
2)労働時間と深夜業に関する違反が多く、どちらも小売業と飲食店で多く起こっている。
3)危険有害な労働への従事に関しては、建設業における違反が全体の約 7 割を占めており、次いで製造業、商業、接客娯楽業などである、等が記されている。
児童労働は、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」のターゲット7に位置づけられている。2025年までにすべての形態の児童労働を撤廃する目標が掲げられ、強制労働、人身売買、現代的奴隷制度についても、撤廃を目指す。(※5)
児童労働を解決するための対策としては、以下のような取り組みが挙げられる。
・子どもたちの支援事業
・政府に対する政策提言や国際会議
・海外NGOとの連携を通した提言や発信
・啓発、市民の参画事業
・支援地域の原料を使った商品の開発や人権のコンサルティング
いくつかその事例をみてみよう。
Kailash Satyarthi Children’s Foundation (カイラシュ・サティヤルティ子ども財団)は、子どもにやさしい村をつくることを目指し、子どもたちの権利、幸福を保障するとともに、人身売買、児童労働、児童婚から子どもを保護するための、子どもにやさしい村づくりに取り組む。
児童労働を予防するモデルとして、長期的な持続可能な未来を確保しながら、政府や自治体、企業と協力。各プログラムを通して、社会問題に根ざした問題に取り組み、村のインフラを構築している。(※6)
Global March Against Child Labour(児童労働に反対するグローバルマーチ)は、世界で2番目に児童労働の率が高いアジア太平洋地域のアドボカシー(政策提言)、政策変更、研究、政治の強化、若者の動員、および地域を通じた啓発介入を支援。(※7)
少年少女の権利が保護され、促進される環境をつくり出すことを目指したプロジェクトを実施している。
我々にできることの第一歩は、いうまでもなく、児童労働について理解を深めること。その知識は必ず、寄付や募金、フェアトレード商品の購入、児童労働を撲滅する運動に参加するなどの行動につながってくるだろう。
無理なく、自分にできることが、世界の子どもたちを救う。そんな我々、市民一人ひとりの意識や小さな一歩が、児童労働の現状を変えていくチカラとなることはまちがいない。
※1 国際労働機関|国際連合広報センター
※2 毎月の寄付で支援|世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE
※3 CHILD LABOUR(12ページ、 21〜24ページ、31ページ)|International Labour Organization
※4 毎月の寄付で支援(7ページ)|世界の子どもを児童労働から守るNGO ACE
※5 8.働きがいも経済成長も|unicef
※6 Resources|SATYARTHI
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