NYFWの様子をレポートするとともに、地球に配慮したものづくりで注目される「3.1 Phillip Lim(3.1 フィリップ リム)」へのインタビューを掲載。サステナビリティの本質や、自然への向き合い方、ブランドと消費者の理想の関係について聞いてみた。
田原美穂 (タバルミホ)
サステナビリティコンサルタント / クロスボーダーマーケター
NY在住。Sustainable Journey 代表。 大学卒業後、投資アナリストとしてロンドンで勤務後、日本にて外資系ファッションブランドでマーケティングやEcommerceに15年…
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ニューヨークの街にリアルのランウェイショーが戻ってきた。2020年2月に開催されたニューヨークファッションウィーク(以下、NYFW)以来だ。
すでに知っている人も多いだろうが、9月7日から12日にかけて開催されたNYFWは、2022年春夏コレクションをお披露目するもの。現場ではミニマリズムではなく、その対極にあるマキシマリズムの傾向を感じられ、遊び心を刺激するようなデザインや、「将来は明るい」と希望を持たせるような色づかいが目立っていた。
この記事ではNYFWの様子をレポートするとともに、地球に配慮したものづくりで注目される「3.1 Phillip Lim(3.1 フィリップ リム)」へのインタビューも掲載。サステナビリティの本質や、自然への向き合い方、ブランドと消費者の理想の関係について聞いてみた。
今回のNYFWの色づかいには、時勢を反映した特徴がみられた。カラートレンド予測の権威である「PANTONE(パントン)」が公開したレポートによれば、遊び心のあるビビッドな黄色やホットピンクと、心地よさを感じさせる空色やパステルピンクの組み合わせに今年の特徴を見出している。
この相反するような組み合わせは、生活者の気持ちや、デザイナーの考え、世の中の雰囲気を表されていて、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がある程度落ち着いてホッとした気持ち」と「これからまだ見ぬ未来へ冒険していきたい欲求」が示されているとしている。
さまざまな都市がロックダウンを敢行し、多くの人が家の外にも出られなかった期間には、名の知れたジャーナリストやデザイナーたちは、オンラインセミナーやポッドキャストなどで「今後のファッションウィークのあり方はパンデミックを経て、よりサステナブルを意識するようになる」と話していた。
しかし、コロナ以前と変わらずファッションカレンダーでNYFWが開催され、ランウェイやパーティーではマキシマリズムやビビッドな色づかいが目立っていたのは驚きだ。
そんななか、もちろん新たなサステナブルコレクションを発表したブランドも存在する。マキシマリズムとサステナビリティのメッセージを共存させた「Collina Strada」は注目に値するだろう。今回のNYFWのトップバッターとして、Brooklyn Grange Rooftopでランウェイショーを実施している。
Photo by Collina Strada PR
Photo by Collina Strada PR
「Collina Strada」は、都会に建つビルの屋上での緑化を推進するために、会場選びを実施。リサイクルジュエリーの採用やLevi'sとのコラボレーションなど、サステナブルな素材を使用したコレクションを発表し、何が起こるかわからないカオスな世の中でも、一人ひとりが自由なファッションを楽しみながらサステナビリティを実現できることを伝えている。
そして、今回インタビューを実施した「3.1 フィリップ リム」は招待制の展示会形式で、2022年の春夏コレクションを静かに、そして力強く発表していた。
彼らは業界のなかでもいち早くサステナビリティを意識しはじめた。洋服に使用している素材とそのメリットなどをウェブサイト上でしっかりと公開している。フィリップ・リム自身は、前回のNYFWで招待制にするのではなくフラッグシップストアを一般開放し、自らが店頭に立つことで生活者との関わりも大切にしていた。アメリカでアジア系に対する差別が増えた時期には、メディアやイベントなどで白人至上主義に立ち上がることを訴えたり、Stop AAPI Hateへ寄付をおこなったりしている。それでいて、洗練された親しみやすいデザイン、かつエレガンスと個性的なスタイルを共存させている。
こうしたことから、今回のNYFWでの彼らの動向に注目。フィリップ・リム本人へのインタビューは叶わなかったが、「3.1 フィリップ リム」のコミュニケーション&サステナビリティ シニアディレクターであるJessica Somersさんに話を聞くことができた。
──3.1 フィリップ リムにとって、サステナビリティとは?
「フィリップ・リムが考えるサステナビリティとは、単なる環境負荷を削減する素材を使ったり、商品を販売したりすることだけではなく、ひとりの人間として、そして企業としての考え方やあり方、生き方です。
地球に暮らすグローバル市民のひとりとして、企業として、アパレル産業として、サステナビリティを推進する方法はいくらでもあります。そこには、自分自身や企業の考え方が反映されるはずです。だからこそ、私たちは行動する際に必ず『どうすれば環境負荷や弊害を減らせるのか?』ということを考えています。
たとえば、ほかのブランドとのコラボレーションは、このような考え方に賛同してくれるブランドと実施してきました」
Photo by 3.1 Phillip Lim
3.1 フィリップ リムの店舗のなかに造設された苔の山
──今回のコレクションテーマを教えてください。
「『Women in Bloom(花開く女性たち)』です。
これまでの縛りや価値観などを手放すことを学び、自信と喜びを持って自分らしく進化していく女性たちの旅を表現しています。
世界がコロナ禍にあるいま、絶え間なく成長し、回復し、そして自分自身を深く理解することから生まれる、真の自分を手に入れる強さが必要です。
私たちのブランドは常に未来志向で、すべてのプロセスにおいて地球を考えることから始まります。今回のコレクションでは、地球上に咲き誇る四季折々の花のように女性たちが解放され、美しい進化を遂げる様子を表しています」
Photo by 田原美穂
Photo by 田原美穂
──今回のコレクション内に、サステナブルなアイテムはありますか?
「自然や庭園を表現したグリーンのドレスです。自然のなかに身をおくとハッピーな気持ちになれることと、自然への感謝を表現したいという想いがありました。袖もチューリップの形になったディテールをほどこしているんですよ。
素材選びにも妥協を許しません。3.1 フィリップ リムでは植物由来の素材を多く使っていますが、今シーズンはリサイクルポリエステルにとくにこだわりました。美しいシルエットをつくり出すには、糸のしっかりとした硬さが必要です。
糸をつくるところから試行錯誤を重ね、前シーズンで発表したプラスチックボトルからつくられたリサイクルポリエステルと、新しいポリエステルのちょうどいいバランスを見つけて紡績し、このドレスが生れました。
サステナブルな服といえばリネンのざっくりした服ではなく、美しさとサステナビリティが共存する方法があると考えているので、少しずつですが素材に関しても改良しています」
Photo by 3.1 Phillip Lim
「ほかには、デッドストック(廃棄する予定だった素材)を使用したアイテムがこちらです。
数年前のコレクションで使用したものですが、レイヤー状の部位それぞれが、新しい素材とデッドストックを合わせてつくられています。商品開発の際には『いまある美しい素材や資源のなかから、何を活かせるか?』ということを常に考えています。
私たちが素材開発から関わった新しい素材については、責任を非常に重く受け止めています」
Photo by 3.1 Phillip Lim
デッドストックが使用されているトップス
Photo by 田原美穂
──リサイクルポリエステルを多く使用しているとのことですが、マイクロプラスチックの問題にはどう対応していますか?
「これは非常に難しい問題です。リサイクルポリエステルを使用することで、新たな資源の搾取は抑えられますが、マイクロプラスチック問題の解決には至りません。
自然の素材や革新的なテクノロジーによって、環境に負荷をかけない素材を100%使用すること。それが、私たちが目指す姿です。
たとえば以前コレクションで、革新的なテクノロジーを使って美しいドレスをつくりました。海のなかで光合成をして自然に育った藻からスパンコールのドレスを生み出したのです。この素材はカーボンニュートラルですし、同じような素材を開発し、採用していきたいと考えています」
Photo by designboom
藻からつくられたスパンコールのドレス
──話は少し変わりますが、サステナビリティを謳うブランドが増えてきました。生活者は、どのように本当の意味で環境に取り組んでいるブランドを見極めるべきなのでしょうか?
「生活者はどんどん知識を身につけて、賢くなっています。グリーンウォッシングの多くを見抜けるようになっているのではないでしょうか。
ブランド側の責任は、本当に取り組みを行っているサステナビリティに関するアクションを透明性をもって生活者に伝えることです。そして、ショッピングをするときには商品タグをみてもらえるような、どのような素材が使われているかを確認してもらえるような、さまざまな動機をつくる必要があります。伝え方は難しいですが、購入する側も責任を持つ必要性を感じてもらわなければいけません。
そして、私たちの本当の課題としては、生活者の価値観を理解し、共感することです。現在もファストファッションが存在するのは、生活者はそれらに価値を見出しているとも言い換えられるのですから。
生活者が『購入する前に商品タグをチェックしよう』『よし、このブランドを支持しよう!』と思う伝え方をしなければ、飽和状態にあるファッション業界で選ばれるブランドになることはできませんよね」
今回のNYFWでは、多くのファッション関係者が長い間我慢していた“おしゃれ欲”が前面に出ていた。
ファッションを楽しむことは自分の気分を高揚させるし、自分自身を表現できるもの。周囲にメッセージを発信できることも、その特徴のひとつになりつつある。
ショッピングをする際には「ブランドがどのように社会や環境に対して向き合っているのか」「どのような素材を選んで商品をつくっているのか?」などを気にかけて、そして、それらの行為を楽しんでみてもいいかもしれない。
フィリップ・リムが考えているように、サステナビリティとは「ひとりの人間としての考え方やあり方、生き方」なのだから。
(※追記)どうしてもフィリップ・リムの話を聞きたく問い合わせてみたところ、少しだけお話を聞く時間をもらうことができた。彼の言葉を参考に、自分の行動を見つめなおしてみてもいいかもしれない。
──昨年のNYFWから3.1 フィリップ リムではランウェイでのファッションショーではなく、店舗での展示会形式で新作コレクションを発表されています。これにはどのような理由があるのでしょうか?
「ランウェイショーは、コレクションを発表するためのひとつの方法にすぎません。それが理にかなっている場合もあれば、他の方法がふさわしい場合もあります。
今シーズンはコレクションのストーリーをさまざまな角度から伝え、一人ひとりがブランドとの関りに親近感を持っていただけるアプローチを取りました。展示会では、ほかのブランドをつくっている友人たちと再会し、1対1でプレスインタビューをおこない、今回のコレクションがこの2~3年間の間に進化した私たちの旅とどうつながっているのかを直接話すことができ、とても有意義な時間でした。
近いうちにランウェイショーに復帰したいと思っていますが、いまこの時に、自分たちのやり方で意図を持ってNTFWに戻ってくることができてよかったと思います」
──生活者が環境に配慮した方法でファッションを楽しむためのアドバイスはありますか?
「私たちがおこなうすべての活動には環境への影響があるため、ファッションが100%サステナブルになることはありませんし、私たちブランドもそうなることはありません。
いま、私たちが直面している課題は、いかに意識的にその負の影響を減らし、“自然のサイクルやバランスと共存する美”を創造するかということです。そして、これこそが『ラグジュアリー』の再定義となっていくでしょう。私の目標は、時が移り変わっても支持され続ける、ファッションの進化、ともすればファッションの革命をもたらすような作品をつくることです。
生活者として、共に持続可能な未来をつくっていくには、一人ひとりが環境問題などについてリサーチをおこない、サステナブルな取り組みをおこなっているブランドを吟味し、自分の価値観と合うブランドを選ぶことです。
環境に配慮したブランドや商品を選ぶことと、ファッションを楽しむことの両立は可能です。私たちは、より良い未来をつくるために協力し合わなければならない集団なのですから」
※参考
New York Fashion Week Spring/Summer 2022|PANTONE
https://www.pantone.com/articles/fashion-color-trend-report/new-york-fashion-week-spring-summer-2022
文/田原美穂、編集/小嶋正太郎(ELEMINIST編集部)
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