フィンランド発の「ネウボラ」に学ぶ日本の子育て支援 取り組み事例と普及の課題とは

赤ちゃんと夫婦

ネウボラとは、フィンランド発の子育て支援制度・施設のこと。一家族ごとに一人の保健師が継続して担当し、妊娠から出産・子育てに関するあらゆる相談にワンストップで対応するため、利用者は早期に適切なサポートを受けられる。ここでは、そんなネウボラから学ぶ日本の子育て支援の現状を紹介する。

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2021.05.24
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フィンランド発の子育て支援制度「ネウボラ」とは

赤ちゃんと母親

Photo by Ana Tablas on Unsplash

ネウボラとは、フィンランド語で「助言の場」を意味する言葉で、フィンランド発の出産・育児支援制度またはその施設のこと。母親の妊娠期から子どもの就学前までの間、子育てに関するあらゆる相談に対応する。

フィンランドの子育て支援

フィンランドでは、母親に妊娠の兆候があらわれたときはネウボラに行き、無料の検査を受けるのが一般的。ネウボラはどの自治体にも設置されており、妊娠中に約10回、出産後は約15回、子どもが小学校に入学するまで定期的に通い、妊婦健診や乳児健診、予防接種、子育てに関するあらゆる相談を無料で受けることができる。

母子の健康のみならず、パートナーやきょうだいを含む家族も参加できる総合健診もあり、家族全体のサポートを目的としている。

基本的には、一家族を同じ保健師が継続的に担当するが、必要に応じて助産師、心理士、ソーシャルワーカーといった専門家からのサポートや両親学級などを受けられ、まさにワンストップ型の子育て支援拠点となっている。また、医療機関の窓口としての役割もあり、病院や専門家の紹介もおこなっている。

ネウボラは、国民皆保険のサービスとして全家庭に無料で提供されており、その利用率はほぼ100%。フィンランドでは、ネウボラを通して誰もが安心して子育てができる環境づくりを目指している。

ネウボラのメリット

ネウボラでは、一家族を同じ保健師が継続的に担当するため、お互いの信頼関係を築きやすいのが特徴だ。そのため家族は、健康に関すること以外にも子どもの成長や子育て、家庭間の問題など、そのときどきの不安や悩みなどを何でも気軽に相談することができる。

また健診や家族との対話などを通して、母子や家族の健康面だけでなく、生活状況や経済状況なども把握するため、保健師が窓口となって必要な他機関、専門職へつなぐことができる。

このことは健康上の異変のみならず、貧困や虐待、産後うつなどの問題の早期発見、予防、早期支援にもつながっている。また、母子だけでなくパートナーやきょうだいを含めた総合健診も受けられるため、家族全体で子育てをする意識が芽生え、母親の負担が減ることもメリットの一つだ。

このように、子育てに関する手厚いサポートを無料で受けられることは、少子化の予防にもつながると考えられる。また、乳幼児に安定的な発達ができた子どもは、生後も健康を維持できる可能性が高いことがわかっており、ネウボラによって乳幼児やその家族に対して健全な指導をおこなうことは、医療費のコスト削減にもつながるとされている。

日本の子育て支援の課題

日本では、行政による保健センターがネウボラのような子育て相談の役割を担っているが、妊娠・出産期の妊婦健診は医療機関で受けるのが一般的。

また、産後1ヶ月以降の乳児健診は地域の保健センターで受け、子どもの不調は小児科、母親の不調は内科または婦人科に相談する、というように子育て支援を担う機関が分断されている。

ワンストップで切れ目のない子育て支援が確立していないため、利用者にとって負担がかかるほか、それぞれの機関が連携していないことで、早期から適切なサポートを受けられない事態が発生してしまう。

日本版ネウボラ「子育て世代包括支援センター」とは

日本でも現在、妊娠から出産、子育てを切れ目なくサポートする仕組みとして、2017年に「子育て世代包括支援センター(日本版ネウボラ)」が法定化。2020年時点で1288の自治体(2052か所)に設置されている。

日本版ネウボラでは、保健師、助産師、看護師、ソーシャルワーカーを配置し、妊婦やその家族から、妊娠、出産、子育てに関するあらゆる相談に応じる。

また妊婦健診、乳幼児健診、予防接種などの「母子保健サービス」 や自宅訪問や子どもの一時預かりなどの「子育て支援サービス」を一体的に提供できるよう、地域の関係機関と連携して切れ目のない支援に取り組む。

ただし日本の保健師には異動があり、フィンランドのネウボラのように担当する保健師は毎回同じであるとは限らない。そのため制度の工夫や、母子やその家族が安心して相談できる環境づくりが課題となりそうだ。

日本版ネウボラの取り組み事例

赤ちゃんと父親

Photo by Kelli McClintock on Unsplash

文京区版ネウボラ事業(東京都文京区)

文京区には、3つのネウボラ拠点が設置されている。妊娠がわかると、妊婦は保健師とネウボラ面接をおこない、その際に、妊娠を祝福して育児に必要な用品を詰めた「育児パッケージ」が贈られる。

妊娠期には保健師への相談以外にも、夫婦で子育てに関する相談を受けられる講座やデモンストレーションも実施される。産後には、助産師や保健師による訪問型のサポートや、定期的な乳幼児健診、沐浴指導、パパママ同士の交流会などが実施される。

大阪市版ネウボラ(大阪府大阪市)

大阪市のネウボラでは、保健師との顔の見える関係づくりと家族ぐるみの支援を目標としている。出生届出時には母親だけでなく、父親にも保健師名を記入した父子手帳「パパと子手帳」を交付し、両親教室を開催することで、父親の育児参加やパートナーのサポートを促している。

妊婦相談の際には会場を個室にするなどして、気軽に相談しやすい環境づくりを心がけている。また保健師が窓口になり、必要時には子育てサークルや関係機関へのコーディネートもおこなう。

子育てステーション(広島県府中市)

広島県府中市には、2つの子育てステーションと呼ばれるネウボラが設置されており、保健師、助産師、保育士、管理栄養士などが、妊娠から子育てまであらゆる相談にワンストップで対応する。

定期的な乳幼児健康診査を受けられるほか、妊娠中から産後4か月までの間、生活保護世帯または市民税非課税世帯は無料で訪問ヘルパーによるサポートが受けられる。その他に保健師や助産師による妊婦・乳幼児の訪問や、子育て講座、離乳食教室、産後ヨガなども実施している。

自分の住む街のネウボラを調べてみよう

妊娠、出産、子育てに悩みや不安は尽きないが、「誰に・どこに相談したらいいのかわからない」という家族は多いのではないだろうか。そんなとき、気軽に足を運べる場所としてネウボラがあれば、妊婦やその家族は安心して楽しく子育てができるはず。

日本でも広がりつつあるネウボラだが、受けられるサービスは自治体によって異なる。まずは自分の住む地域ではどのようなサポートが受けられるのか、この機会に調べてみてはいかがだろうか。

※ 参考サイト
フィンランド大使館 フィンランドの子育て支援
https://finlandabroad.fi/web/jpn/ja-finnish-childcare-system
文部科学省 子育て世代包括支援センターの全国展開
https://www.mext.go.jp/sports/content/20210219-spt_kensport02-000012895_3.pdf
フィンランドの出産・子どもネウボラ(子ども家族のための切れ目ない支援)
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/taskforce_2nd/k_6/pdf/s3-1.pdf
厚生労働省「子育て世代包括支援センター」と利用者支援事業等の関係等について
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shinseido/administer/office/pdf/s41-2.pdf

※掲載している情報は、2021年5月24日時点のものです。

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