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農作物や建物などに、多大な被害を与える塩害。塩害に注意が必要なのは、海岸部のみではない。そこで、日本の被害例ととともに、発生のメカニズムや対策を解説する。正しい知識を身につけて、被害を食い止められる方法を理解しよう。
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「塩害(えんがい)」とは、作物や建物が「塩」によって劣化や腐食、枯死する被害のことを言う。とくに農作物との関連性は深く、塩害によって作物が育たない被害事例は、世界中で報告されている。
海の近くで暮らす人はもちろん、その他の地域においても、条件しだいでは塩による被害に悩まされるだろう。
例えば2021年1月、秋田県で海水の塩分を含んだ雪が電柱上の絶縁体などに付着したことで、大規模な停電が相次いだ。
また2018年には、日本に大きな被害をもたらした台風24号が、暴風によって大量の海水を広範囲にまき散らした。塩害による被害は、海岸沿いだけではなく、東京都や埼玉県の内陸部においても報告されている。
塩は自然界に存在する物質であり、「それほど多くの害をもたらす物質とは思えない」と、感じる人も多いのではないだろうか。
ここでは、塩害が発生する条件やメカニズムをみていこう。塩害が発生するメカニズムは、大きく「気象・地域的要因」と「人為的要因」の2つにわけられる。それぞれの特徴は以下のとおりだ。
日本で塩害が発生する要因のほとんどは、こちらに当たる。海に含まれる塩分が、風や波によって、海沿いを中心とするエリアに到達するというパターンだ。先ほど挙げた台風24号の事例も、これに当てはまる。
海沿いを歩いてみると、海風には塩分が含まれていることを、自分の肌で感じられるだろう。常に海風にさらされる地域の建物や草木は、塩による影響を受けやすい。こうした地域で暮らす人々には、「自分たちの生活を塩害からどう守っていくか」という意識が根付いている。
風以外にも、高波や津波によって、海水が直接侵入するケースもある。地震のあとに発生する津波も、塩害をもたらす要因の一つだ。気象条件的に「塩害被害が起きる」と予想される場合は、事前・事後対策が重要と言えるだろう。
塩害は、人の手によってもたらされるケースがある。人為的要因による塩害は、主に農業地域でみられるトラブルだ。
主に降水量の少ない地域で、農作物を育てるのに十分な水量を確保するために行われるのが「かんがい農業」である。畑や田んぼに水路をつくり、近隣の川や水源から水を引き込む方法で行われている。
かんがい用水はすべて農作物に吸収されるのではなく、一部は吸収されない。この残った水が地下水として貯まる。すると毛細上昇という現象により、地下水位が地表面付近にまで上昇する。このとき地下に塩分が含まれていると、作物が塩分を多く吸収することになるのだ。
もう一つ、人為的要因で多くみられるのは、連作障害による塩害である。連作障害とは、同じ土地で同じ作物を繰り返し育てることで発生する各種障害を指し、塩害もその一つである。連作障害で塩害が発生する理由は、農業で欠かせない「肥料」にある。
肥料に含まれる塩分が土壌に蓄積され続けたり、肥料に塩分が含まれていなくても、土壌中の成分と反応して塩化ナトリウムを生み出すことで、塩害が発生。農作物が育たない土地へと変化してしまうのだ。
また塩害は、寒冷地の寒い時期に発生するケースも多い。この場合に原因となるのは、融雪剤として使われている塩化カルシウムや塩化マグネシウムなどだ。これらは素早く雪を溶かし、雪国の人々の暮らしをサポートしてくれる。しかし地面にしみ込んだ塩分量が増えれば、塩害を発生させる要因になってしまうのだ。
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では実際に塩害が発生した場合、我々の生活にはどのような変化が起きるのだろうか?塩害による被害の具体例を5つ紹介する。
塩害が発生した土地の植物・農作物は、我々の想像以上のスピードで枯れてしまう。塩分が付着した部分からは、どんどん水分が失われてしまうからだ。
台風のあと、海沿いの地域の街路樹が急激に枯れてしまった場合、暴風によって運ばれた海水による、塩害の発生と考えていいだろう。土壌に含まれる塩分が多い場合、植物は根から水を吸収できなくなる。作物の生育は難しくなり、十分に育たないまま枯れてしまうだろう。
非常に強いと思われるコンクリートだが、塩害による被害は決して小さくない。コンクリートで建物を造る場合、内部には鉄筋が用いられる。塩害によって鉄筋がさびると、その体積が膨張し、内部からコンクリートを圧迫。ひび割れや剥落、最悪の場合、建造物の崩落を招きかねないのだ。
コンクリートに塩害が発生する理由としては、風などによって運ばれる海水のほか、コンクリートなかにもともと含まれている塩化物イオンが挙げられる。つまり、コンクリートに使われている原材料によっては、海から遠く離れた場所においても、被害が発生する可能性があるというわけだ。
金属は水に触れると、酸化反応により腐食する。金属のほとんどは、腐食によるトラブルを避けられない。そして塩分には、金属の酸化反応を促進させる働きがある。我々の生活にとって身近な「鉄」は、そのなかでもとくにサビやすい金属として知られている。
コンクリート中の鉄筋以外にも、鉄は多くの場所で使われる素材だ。とくに車は塩害の影響を受けやすく、金属部分がサビやすくなるため、注意したい物の一つである。
電線や配電ケーブルが塩害被害にあえば、電力の供給がストップする。該当地域では電力が使えず、不自由な生活を強いられるだろう。
塩水には電気を通しやすい性質があり、絶縁部に塩分が付着すると、そこから漏電してしまう。またケーブルを守るためのケーブルカバー(被覆)への影響も無視できない。塩害によってカバーが剥がれたケーブルは、非常に危険だ。
海沿いにおいては、塩害対策が施されているケースが一般的だが、内陸部では対策が不十分である可能性も。勢力の強い台風が上陸したあとなど、内陸部の広い範囲で注意したいトラブルである。
主に海沿いの住宅で悩まされがちなのが、塩の付着による外壁や窓の頑固な汚れだ。汚れを放置すれば、景観を損なうだけではなく、素材へのダメージも避けられないだろう。
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我々の生活に、多大な影響を与える塩害。具体的な対策を知って、被害を食い止めよう。予防対策と事後対策、2つの側面からできる対策を紹介する。
塩害発生が予想される地域では、まずはその影響を最小限にするための対策を取り入れよう。もっとも安価で簡易的にできる予防法が水洗いだ。住居や建物の外壁、窓、車にホースで水をかけて、洗い流すことで塩害の予防になる。
また住居の外壁には塩害を受けにくい外壁材を選び、耐塩性能を持つ塗料を利用するのもおすすめだ。窓には雨戸をつけて、窓ガラスに塩が付着しにくくすることもできる。
一方、すでに塩害が発生している農地などで行われているのが、「除塩」だ。除塩とは、石灰系土壌改良資材を投入して、塩分濃度を下げる方法だ。
石灰に含まれるカルシウムイオンが、土粒子表面に付着したナトリウムイオンと置換され、これによって土壌中のナトリウムを排除できる仕組みだ。
東日本大震災の津波で、深刻な塩害を受けた農地でも、このような除塩が行われている。
塩害と言えば、「海沿いの一部地域で発生するもの」という印象を抱いている人が多いのではないだろうか。しかし実際には、内陸部の農作物や、海から遠く離れたコンクリート建造物などでも、塩害被害が発生する恐れはある。
塩害発生のメカニズムや、被害実例を知っていれば、いざという場面でも素早く対処できるだろう。適切な対処法で、塩害被害を食い止めてほしい。
参考
※ 塩害軽減のための浅層暗渠排水 技術マニュアル|国際農林水産業研究センター
https://www.jircas.go.jp/sites/default/files/publication/manual_guideline/manual_guideline-_-_58.pdf
※ 塩害|農林水産省
https://www.maff.go.jp/kanto/nouson/sekkei/kokuei/dogisyo/passfinder/pdf/concrete2113.pdf
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