シチズンシップ教育とは? 日本&海外の導入事例とメリット・課題は

シチズンシップ教育, シティズンシップ教育

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若者の投票率が低く、社会へ積極的に参加する意識が低いと言われている。その改善につながると議論されているのが、「シチズンシップ教育」だ。日本の教育現場での取り組みと、イギリスやアメリカなどの海外の導入事例、シチズンシップ教育のメリットや課題について解説する。

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2021.08.30
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シチズンシップ教育(シティズンシップ教育)とは

シチズンシップ教育, シティズンシップ教育

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「シチズンシップ(シティズンシップ)教育」とは、他人を尊重しながら、市民として社会に参加し、その役割を果たせるように、人々を教育すること。英語の「シチズンシップ(citizenship)」は、「市民権」を意味する。

シチズンシップ教育の世界的な先駆けと言われるのが、イギリスだ。1998年に発表された、「シチズンシップ(市民科)」の導入に向けた諮問委員会の最終報告書、通称「クリック・レポート」に、シチズンシップの導入の背景や目的、重要性などが述べられている。(※1)

その後イギリスでは、2002年から全国共通カリキュラムに「シチズンシップ(市民科)」の教科が追加され、中等教育で必修科目として導入されている。(※2)

日本での動きでは、2006年に経済産業省が三菱総研の協力を得て「シチズンシップ教育宣言」を刊行。いくつかの学校で市民科設置の動きが進んでいる。

このように、シチズンシップ教育は世界各国で取り入れられるようになってきている。

シチズンシップ教育の概念・ねらい

理想的な社会を形成するためには、市民一人ひとりの権利や個性が尊重され、 自立・自律した個人が、自分たちの意思で社会に参画することが必要だ。そして、多様な能力を発揮することで社会が成り立ち、社会の発展につながっていく。

つまり、市民自身が地域や社会の課題を見つけ、それを解決するために自発的に社会に関わろうとする意識が大切だ。

そのためシチズンシップ教育では、社会の中で他者と自発的に関わりあう意識や、それに必要な知識、スキルを身につけることを狙いとしている。

シチズンシップ教育を導入した具体例

シチズンシップ教育, シティズンシップ教育

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日本のシチズンシップ教育は2000年代から、国立大学附属の学校や、文部科学省の指定教育開発を受けた学校で実施されていることが多い。先進校の取り組みを見てみよう。

お茶ノ水女子大学附属小学校

お茶ノ水女子大学附属小学校では、2005年度から2007年度までの3年間、文部科学省の研究開発学校の指定を受け、市民科の授業を実施。(※3)

小学校3年生から、通常の「社会」の授業の代わりに、「市民科」がスタート。中学校までのカリキュラムが組まれた。価値判断がわかれたり、多様な価値観が対立したりする論争問題を主題に、調査・コミュニケーションのスキルを重視しながら、価値判断力と意思決定力を育むような工夫がされた。

品川区立小中一貫校

東京都品川区の小中一貫教育校で、2004年度から「市民科」が導入された。市民科は、道徳・総合・特別活動を統合して編成し、学年別に次のような狙いを設定している。(※3)

・小学1〜2年:基本的生活習慣と規範意識
・小学3〜4年:よりよい生活への態度育成
・小学5〜中学1年:社会的行動力の基礎
・中学2〜3年:市民意識の醸成と将来の生き方

神奈川県の県立高等学校

神奈川県教育委員会ではシチズンシップ教育の取り組みについて議論し、2007年度から県立高等学校8校で実践的な取り組みを開始している。さらに高等学校に限らず、小学校 や中学校、特別支援学校での調査研究も行っている。(※4)

シチズンシップ教育のメリットと問題点

シチズンシップ教育, シティズンシップ教育

Photo by Arnaud Jaegers on Unsplash

急速に変化する社会に対応するためには、自立・自律した個人が地域や社会と協力していくことが期待されている。シチズンシップ教育では、「道徳」「社会」など既存の教科ごとの枠組みではとらえるのが難しかった部分に、アプローチできるのがメリットだ。

しかし、階層の高い人の方が、社会に主体的に関わることに親和的であることから、経済的・社会的に余裕がない人を市民性が不十分な存在として際立たせてしまう危険性があると、指摘する意見もある。(※5)

実際シチズンシップ教育の先進校として注目されているのは、国立大学附属や中高一貫校など選抜性の学校が多く、その傾向は海外でも同様だという。

また、シチズンシップ教育を掲げる経済産業省と文部科学省の間で、シチズンシップ教育に対する認識の違いがあるという指摘の声がある。国としてどのようなシチズンシップ教育を打ち出すか、慎重な検討が必要だ。

海外におけるシチズンシップ教育の事例

シチズンシップ教育を取り入れている海外の国を見てみよう。(※6)

イギリス

シチズンシップを世界で先駆けて導入した国が、イギリスだ。シチズンシップを必修科目として、週3~4時間程度で設置。討論や協働学習などのアクティブ・ラーニングを重視し、社会への主体的参加を促すカリキュラムが推奨されている。

フランス

伝統的に哲学教育を重視したカルチャーがあり、これを背景に、哲学思想や推論を学習し、論理的思考力の育成を目指す。哲学概念のほか、道徳、宗教、政治を含む。「哲学」は週3~8時間程度、「市民・法律・社会」は週0.5時間程度を設定。

ドイツ

実施状況は州によって異なる。「政治的判断能力」「政治的行為能力」「方法的能力」の3つを、民主主義社会の市民として必要な能力として挙げている。

アメリカ

実施状況は州によって異なるが、州ごとにスタンダートを示している。単に事象を知るだけでなく、それを説明したり評価したりする知的技能、政府や政治の監視・影響力の行使について学ぶ参加技能を重視しながら、民主主義とは何か、市民としての行動は何かを考え行動することを求める。

日本におけるシチズンシップ教育の必要性

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Photo by John Schnobrich on Unsplash

シチズンシップ教育について論じられる際、選挙の投票率についてよく取り上げられる。日本の投票率はとくに若年層で低く、20歳代の投票率はおよそ30%だ。(※5)

また「他人には迷惑をかけてはならない」という意識は高いが、困っている人に積極的に手を差し伸べたり、ボランティア活動へ参加したりすることへの興味は低いというデータがある。さらに、就業意欲の低下や社会的無力感なども問題視されている。

そのため、将来を担う世代に社会的責任や、地域・社会との関わりの大切さを認識してもらおうというシチズンシップ教育の必要性が求められている。

現代の社会が抱える問題の基本的な理念を理解し、それを手掛かりに自身の体験と結び付けて、自己の問題として考える意識や力が必要だ。

文部科学省の動きとこれから

文部科学省は、シチズンシップ教育のこれからのあり方を検討する材料として、海外や国内の事例を分析し、資料を公開している。

すでに自治体や学校単位で導入を進めているところはあるが、まだその教育カリキュラムやシステムは確立されていない。シチズンシップ教育について議論を進めている経済産業省と文部科学省で共通認識を持ち、体系的なカリキュラムを構築していくことが今後の課題だろう。

参考
※1 イギリスの国際教育|国際協力機構
https://www.jica.go.jp/hiroba/teacher/report/prmiv10000002siq-att/comparative_survey01_10.pdf
※2 シティズンシップ教育と 経済社会での人々の活躍についての研究会|経済産業省
http://www.akaruisenkyo.or.jp/wp/wp-content/uploads/2012/10/hokokusho.pdf
※3 日本におけるシティズンシップ教育の可能性|同志社女子大学 学術研究年報 2008年 第59巻
https://core.ac.uk/download/pdf/298610205.pdf
※4 シチズンシップ教育推進のためのガイドブック|神奈川県立総合教育センター
https://kjd.edu-ctr.pref.kanagawa.jp/kankoubutu/h20/pdf/citizen.pdf
※5 日本におけるシティズンシップ教育のゆくえ|早稲田政治公法研究 第101号
https://core.ac.uk/download/pdf/144437016.pdf
※6 高等学校における教科・科目の現状・課題と 今後の在り方について|文部科学省
https://www.mext.go.jp/content/20201030-mxt_kyoiku02-000010790_9.pdf

※掲載している情報は、2021年8月30日時点のものです。

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