気候危機が進むと東京の1/3が水に沈む 50周年を迎えるWWF ジャパンが伝えたいこと

Photo by 左:naturepl.com Steven Kazlowski WWF/右:Steve Morello WWF

地球温暖化でホッキョクグマやサンゴ礁が絶滅⁉ 私たちの暮らしも危機に直面⁉ 地球温暖化が引き起こす気候変動は、もはや気候危機レベルだという。今年9月に50周年を迎える環境保全団体WWF ジャパンの気候変動の専門家に、いま伝えたいことと、1人ひとりができる具体策を教えていただいた。

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2021.05.31
Promotion: WWF ジャパン
ホッキョクグマと氷河

Photo by Steve Morello WWF

地球温暖化により北極圏に生息するホッキョググマは絶滅危機に瀕している。

ホッキョクグマは生涯の多くを海氷の上で過ごす。海氷が狩りや子育てにも欠かせないため、温暖化によって海洋の氷が溶けることは、生きる場所を失うことを意味するのだ。

“人と自然が調和して生きられる未来を目指して”。これは、環境保全活動を世界約100か国で行っているWWFの目指す前途。
国内外で、環境保全や人と自然の共生を目指してきたWWFジャパンは、2021年9月に創設50周年を迎える。

環境保護活動をするWWFスタッフ

Photo by WWF Japan

いまも、私たちの暮らしにかかわる「地球温暖化を防ぐ」「持続可能な社会を創る」「野生生物を守る」「森や海を守る」の4つを柱に、生物多様性の問題や脱炭素に向けた取り組みを、精力的に行っている。そしてホッキョクグマをはじめとした多くの野生生物と向き合い、数え切れないほどの生命を救ってきた。

そんなWWFと、近年たびたび話題にのぼる「地球温暖化」や「気候変動」について、改めて考えてみたい。

今回、ELEMINISTでは、WWFジャパン専門ディレクターで、今年3月に「地球温暖化を解決したい エネルギーをどう選ぶ?」(岩波書店)を刊行したばかりの小西雅子さんに、気候変動がもたらす影響と、それを防ぐために私たちができることを伺った。

WWF 小西雅子氏

Photo by ELEMINIST

世界が直面する3つの危機

気候危機の怖さは、経験のないような災害が起きる可能性があることだ。気候変動が専門の小西さんによると、気温がこのまま上がり続けると世界、なかでもアジア圏で大きな3つの危機に直面するという。

「1万5000年前の氷期の平均気温といまを比べると、4~7℃高いことがわかっています。それまでの緩やかな気温上昇が、18世紀半ば以降に起こった産業革命によって、ここ100年ほどで急激に上昇。

このままの経済活動をおこなってしまうと、さらに加速度的に今世紀末には4℃程度も上昇すると言われ、アジア圏では3つの甚大な影響が出るとみられています。」(以下のコメントは、すべて小西さん)

熱ストレスの問題

1つ目の問題は、熱ストレスだと語る小西さん。平均気温の上昇によって極端な気候が生じることが要因だという。

「近年、熱中症患者が急増しています。30年ほど前まで日本では35℃を超える猛暑日は平均で1日以下でしたし、天気予報に猛暑日の設定もありませんでした。近年では猛暑日は3倍にも増えているのです。『パリ協定』では、今後の気温上昇を2℃未満に留めようとしています。それが達成できたとしても、熱中症にかかる人は今の2倍以上になると言われていますから、平均気温の上昇がいかに怖いかわかるのではないでしょうか」

洪水問題

2つ目は、洪水だ。大雨や台風による災害に見舞われるニュースを見る機会が多いので、肌で感じている人も多いだろう。

「日本は詳細な天気予報によって、台風などに備えることができますよね。ですが、世界の80か国ほどはいまも台風などの災害をもたらす気象の予測ができません。つまり、備えられない人たちがたくさんいるのです」

氷河の問題

3つ目は、氷河。世界中の氷河が驚くべきスピードで溶け出していることは周知の事実だが、どこが問題なのだろう。

「ヒマラヤなどのアジア高山帯にある氷河は、国際河川の源になっています。氷河が急速に溶けだすと、短期間では洪水・土砂災害になり、長期的には水不足になっていく。それらの地域では、生活用水すら不足する状況に陥ってしまうのです。これは南米などにも言えることです」

近い将来、アジア圏に暮らす私たちは、この3つの問題への対策を講じる必要が出てくるだろう。しかし、これ以外にも「全く想像していない災害が起きる可能性があるのが、気候危機の怖さだ」と小西さんは語る。

気象変動がもたらす日本への影響

自然の様子

Photo by Michel Roggo WWF

では、台風や豪雨、豪雪、地震など自然災害が多いわが国への影響はどうか。小西さんに尋ねると、驚くべき答えが返ってきた。

東京も水浸しに?

「たとえば、台風。近年は非常に強い台風が日本に接近したり、上陸することが多くなってきました。『令和元年房総半島台風』では甚大な被害の爪痕がいまも残ります。

東京や名古屋などの大都市は、往々にして海に面しており、海抜ゼロメートル地帯が広がっています。東京では、荒川周辺が海抜ゼロメートル地帯に当たり、2019年に江戸川区は『ここにいてはダメです』、すなわち『別の県に2週間避難できるようにしてください』という内容のハザードマップを公開しました。地域内の避難所では住民を守り切れないという判断です。

区の管轄外に避難するよう促すわけですから、自治体として思い切った判断でもあります。それだけ首都の広範囲に浸水のリスクが迫っているのです」

WWF 小西雅子氏

Photo by ELEMINIST

水害以外での影響についてはどうだろうか。

「世界中で最も人類を殺している生きものは蚊です。2014年、東京・代々木公園を中心にデング熱が広がり騒動になりましたが、関東で蚊は越冬できず1年限りで収束しました。

ですが、温暖化が進めば、生息域が広がるので、そうはいかなくなるかもしれません。マラリアやデング熱など蚊を媒介にした熱帯の感染症に苦しむ人が増え、それらの病気に対して慣れない医師は、対応に苦慮するでしょう。いまのコロナ禍に近いと考えると想像しやすいかもしれません」

陸地は蚊の問題。では、海はどんな問題が発生するというのだろう。

「世界各地のサンゴ礁も危機的状況です。『海の森』とも呼ばれ、生きものたちの棲みかとして欠かせない場所ですが、気温上昇が2℃に抑えられたとしても99%以上が消失。1.5℃の上昇に留めても70~90%は減少すると言われています。生態系はそれだけ脆弱なのです」

気候変動を抑制するためにできる、アクションプラン

太陽光発電

Photo by Adam Oswell WWF

小西さんのお話から、毎日の暮らしが危ういバランスのなかで奇跡的に成り立っていることがわかる。
世界各国にネットワークを持つ「WWF気候・エネルギー・プラクティス」では、パリ協定実現に向けて、各国政府と産業界、金融セクター、そして一般市民が、適切な削減行動をとれるよう、世界各地で活動を展開している。

大きな組織や国レベルが動けば、温暖化対策が前進することは間違いない。だが、「抑止力を持つのは、政府や大企業だけではない」と小西さん。

WWFジャパンの作成した、47都道府県の今世紀末の未来が見られる特設サイト「未来47景」のなかにある「気候危機の進む未来をあなたのアクションで変えよう!」で紹介されている12の取り組みのなかで、私たちが日々の延長線上できる、とくにおすすめのアクションは下記の2つだという。

「未来47景」

Photo by WWF

電気を変えよう

未来47景「3.再生可能エネルギーを多く供給している電力会社に切り替える」

「家庭から出るCO2の約半分は、電気の使用によるものです。まずは、家庭で使う電力会社を再生可能エネルギーに替えることからやってみるといいでしょう。手続きも簡単ですし、場合によってはいままでより料金が抑えられるかもしれません」

声を届けよう

未来47景「4.国会や地元の議員、選挙の候補者に、SNSで温暖化政策を尋ねてみる」と「11.地域の自治体に『2050年CO2排出ゼロ宣言』の宣言予定や具体的な対策を聞く」

「なによりも大きな影響があるのは、社会の仕組みを変えること。コロナ禍なので特定の場所に大人数で集まるデモは推奨できませんが、行動する人たちを私は心から応援しています。

多くの議員はSNSなどにおける私たちの反応をとてもよく見ています。今年は衆院選があるので、より一般市民の声に敏感になっているはず。自分の選挙区で気になる議員のアカウントをチェックし、環境対策などを問いかけてみるといいですね。

いまの状況を変えたいと思っているなら、政治家や自治体に『温暖化に対する政策はどうですか?』とひとこと聞くだけでも大変効果があります!その手軽さがSNSのいいところですね」

大切なのは疑問を持ち一歩前に進むこと

携帯画面

Photo by ELEMINIST

小西さんの言葉どおり、生活者である私たちだからできる環境保全活動は決して少なくない。
大切なのは、日常で感じた疑問や違和感をそのままにせず、等身大のアクションをすること。家にいながらにして起こせる行動もあるので、明日からといわず今日から動いてみてはいかがだろうか。

WWFのLINE公式アカウントでは、友だち登録をすると未来47景や絶滅危機の動物についてのスペシャルコンテンツ、最新の活動報告などを気軽に見ることができる。

6月5日にコラボインスタライブを開催

インスタライブ 告知画像

Photo by ELEMINIST

2021年6月5日に、今回お話しいただいたWWFの小西雅子さん、フリーアナウンサーの吉田明世さん、ELEMINISTの3つのInstagramアカウントで、コラボインスタライブを行った。

インスタライブでは、今回紹介できなかった、私たちができる気候変動防止活動についてや、吉田さんが考える子ども世代にも伝えたいこと、また視聴者のコメントにもリアルタイムで答えている。

ELEMINISTのInstagramアカウントのIGTVで視聴が可能だ。気候変動やこれからの地球について少しでも感心のある人に、ぜひ観ていただきたい。


取材・文/キツカワユウコ
編集/ELEMINIST編集部

※掲載している情報は、2021年5月31日時点のものです。

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