「プレオーガニックコットン」とは、化学肥料などを使用する栽培方法から有機農法へ移行する期間に収穫されたコットンを指す。小規模綿農家にとって、自力で有機農法に移行するのは簡単なことではない。安心して農薬の使用をやめられるよう支援するのが「オーガニックコットンプログラム」だ。
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世界の綿の生産量のうち、オーガニックコットンは全体の約1%に過ぎない。綿花栽培は虫との戦いであるため、本来は手間がかかるものだ。昨今では、安く大量に生産するために化学肥料や殺虫剤を大量に使って栽培するのが一般的になっている。
有機農法に切り替えようにも、生産量の低下と生活への不安から、ほとんどの生産者は慣行農法※を続けざるを得ないのが実状だ。
※ 農薬、肥料の投入量や散布回数等において、相当数の生産者が実施している一般的な農法のこと。
綿花の一大生産地であるインドでは、従来の栽培方法から有機栽培への移行期間中に収穫されたコットンを「プレオーガニックコットン」(以下POC)として認証する制度を設けている。
これにより、オーガニック認証を受ける前のコットンにも付加価値が生まれ、農家が安心して農薬の使用をやめられるようになるのだ。
オーガニックコットンとして販売できるようになるまでには、慣行農法をやめて3年以上、農薬を使わずに栽培する期間を設けなければならない。
POC自体はインド政府の機関が定めているオーガニック認証(NPOP)と同等の方法で栽培されているため、移行期間中に収穫されたコットンであっても安全性はお墨付きである。とはいえ、綿農家は小規模なところが多く、なかなかPOC栽培に乗り換えられないのが現状だ。
2008年から日本を代表する商社である伊藤忠商事と、サステナブルなライフスタイルを推進するkurkku alternative(クルックオルタナティブ/以下「クルック」)は、インドの綿農家が安心して有機農法を始められるよう「プレオーガニックコットンプログラム」を共同で行っている。
現地の農家をサポートするために、慣行農法をやめてからオーガニック認証を得られるまでの移行期間の綿を、同プログラムが適正価格で買い取ったり、技術支援をしたりするプログラムである。農薬を使用しなくても、それまでと同等の収入を得られるようなバックアップを目指している。
小規模農家が自力で有機農法に移行するのは、簡単なことではない。農薬の使用をやめて収穫量が減れば、収入減少に直結する。軽い気持ちでは始められないのだ。
しかし慣行農法にも問題がある。多くの農家は、虫に強い高価な遺伝子組換え種子や大量の農薬を買うために、多額の借金を抱えている。世界中の畑で使われている殺虫剤の2割強は綿花畑に使用されている。綿花の一大産地であるインドに至っては、国内で使われている農薬の約半分がコットンの栽培用に消費されており、人々への健康被害と環境へのダメージはすでに深刻だ。
散布時に農薬を吸い込んでしまったり、農薬が流れ出た地下水を飲んだりして、私たちの知らないところで誰かが健康被害を被っている。化学繊維よりコットン素材のほうが環境にいいと信じたいが、一概にそうとはいえないのだ。
こうした現状を受けて伊藤忠商事とクルックは、生産者の不安要素を取り除き、オーガニック栽培への移行を手助けしている。同プログラムに参加した農家たちは、自分たちの健康にも地球にもやさしい有機栽培を開始させることができ、不安の尽きない無農薬栽培への移行期間を乗り越えることに成功している。
同プログラムは、小規模農家に対してオーガニック栽培に必要な教育や物資の支援をするだけではなく、オーガニック認証を取得した後も安心して栽培を継続できるようにアフターケアもしている。参加1年目の農家にも、同プログラムの効果はしっかり出ているという。
遺伝子組換え種子や農薬の使用を中止することによって、それまでかかっていたコストを最大50%も抑えられるため、多少収穫高が減ったとしても、最終的な利益はトントンになる。
プログラム参加者のなかには、生産コストを確保するために借りていた多額の借金から早々に解放され、家の購入や新規事業を始められるようになった人たちもいる。ほかにも、子どもの教育にお金を使えるようになったり、健康被害が改善されたりと、有機栽培への移行はいいことづくめだ。
インド農業の主要作物である綿花畑は、全農地の約5%を占めている。だが農家のなかには字が読めない人も多く、農薬の使い方がわからない人がたくさんいる。そのため健康面で悩まされている人が非常に多い。みんなが持続可能な生産方法にシフトできれば、多くの人が救われるのだ。
いままでは「綿100%だから環境によさそう」と思って買っていた人も多いだろうが、これからは人にも地球にもやさしい素材を選択する必要がある。需要が増えれば、自ずと生産も増える。あなたの買い物の一つひとつが、好循環をつくる起爆剤になるのだ。食べ物だけでなく、身の回りのものも納得できる製品で揃えて、毎日を心地よく過ごしたいものだ。
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