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公的機関で多く行われてきた「デジタルアーカイブ」。近年、一般企業への導入例も増えてきている。デジタルアーカイブの基本知識とともに、仕組みや特徴、導入までの流れを紹介する。導入事例から、一般企業が導入する場合のメリット・デメリットを知ろう。
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デジタルアーカイブとは、デジタル技術を用いた記録方式を指す。保存対象は、文書や文化資源など。たとえば博物館や図書館の所蔵資料や各種文化資源、自治体が保有する公文書や記録文書などが含まれている。デジタル化してデータを保管することで、世界中のあらゆる場所から保管資料の共有が可能に。さまざまなメリットが生まれている。
デジタルアーカイブという言葉は「デジタル」と「アーカイブ(公文書やその保管場所)」を組み合わせてつくられた、和製英語である。1994年頃に、東京大学名誉教授・月尾嘉男氏によって提起された。インターネットの発展とともに、日本でも徐々に浸透していったが、転機となったのは東日本大震災である。貴重な資料や文書を災害から守るため、デジタルアーカイブは一気に進められていった。
近年では、デジタルアーカイブは一般企業にも広がりを見せている。以前よりも、低コストで利用できるサービスが増えてきているからだ。企業単位で行われるデジタルアーカイブは、「企業アーカイブ」とも呼ばれている。
デジタルアーカイブは、「ただ単純に資料をデータ化したもの」ではない。単純なデジタル化だけであれば、文書を次々とスキャンしていけばいいだろう。しかしそれでは、使えないデータがどんどん蓄積されていくだけで、何の意味も持たないのだ。
デジタルアーカイブの特徴は、生きたデータが整理された状態で整っている点である。各種データのデジタル化はもちろん、それらの整理が重要なポイントだ。ジャンル別に情報がまとまり、検索しやすい状態になっていれば、それらのデータを別の場面でも活用しやすくなるだろう。
これまで以上に、作業もしやすくなるはずだ。たった1つしかない原本も、デジタルアーカイブによって、世界中からネットを通じて閲覧できるようになる。多くのユーザーに情報提供でき、編集や加工も思いのままだ。
これまで、デジタルアーカイブの多くはサーバー型のデータベースシステムによって構築されていた。一般企業がデジタルアーカイブ化を進めようとした場合、専用のサーバーとソフトウェアを購入し、そこにデータを蓄積していく必要があった。
一方で近年人気が高まっているのが、クラウド型のデータベースシステムである。サーバーにかかるコストが削減できるため、これまで以上に多くの企業がデジタルアーカイブ化に取り組み始めている。
デジタルアーカイブの導入を検討するなら、専用サービスの利用を検討するのがおすすめだ。民間企業にもデジタルアーカイブが浸透するにつれて、リーズナブルな価格でパッケージプランを提供する会社も増えてきている。
知識が十分ではない場合におすすめなのが、フルサポートをお願いできるプランだ。多少コストは上昇するが、アーカイブ企画のプランニングから資料整理、データ化やシステム構築はもちろん、システムインストラクターの派遣にも対応してもらえる。
近年主流のクラウド型を選択する場合、初期費用とその後の月額料金が発生する仕組みである。ある会社のデジタルアーカイブ「コンプリートプラン」を選択した場合、初期費用の目安は250万円から。月額料金は10万円からだ。システム構築に必要な時間は、デジタルアーカイブするデータの量によって違ってくる。依頼先企業と、十分に打ち合わせする必要があるだろう(※1)。
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デジタルアーカイブにはメリットもあればデメリットもある。導入を検討する場合は、両方に目を向けよう。
公的機関がデジタルアーカイブを導入する場合のメリットは、有形・無形を問わず、さまざまな文化・産業資源をデジタル方式で残せる点にある。デジタルアーカイブ化しておけば、未来に残したい貴重な資料が、失われることもない。歴史的に貴重な資料を、後世にどうつないでいくかは、我々が抱える課題である。デジタルアーカイブは、その解決策の一つになるだろう。
また、貴重な作品や文化はもちろん、それらが生み出されるまでの過程までを、貴重な資料として保存できる点も非常に大きなメリットだ。デジタルアーカイブ化が進めば、世界中の図書館・美術館・博物館の所蔵資料を、どこからでも閲覧できるようになる。
一般企業が導入する場合のメリットは、保存したデータに、容易に手を加えられる点にあるだろう。さまざまなデータを多角的に見て、新たなアイデアを生み出せるかもしれない。
また、企業に蓄積された実績やアイデアを、デジタルアーカイブ化して積極的に発信することには、計り知れないメリットがある。企業価値を高められるほか、自社に関する情報をデジタル化し、わかりやすく発信することで業務効率の改善にもつなげていける。
デジタルアーカイブにも、いくつかのデメリットが存在する。公共機関と一般企業の両方に共通するのは、「データ保管量の増加」と「データ消失」である。
必要なデータをどんどんデジタルアーカイブしていけば、その量は増える一方である。データ量が増えれば増えるほど、その管理は難しくなる。目当ての情報にたどり着くまでの工程が多くなると、使い勝手は悪くなってしまうだろう。
また、デジタル化のリスクとして忘れてはいけないのが、データ消失の可能性だ。実在する文書や資料のように、経年劣化の心配がない反面、何らかの理由で資産全体が失われてしまうかもしれない。こしたデメリットも考慮した上で、あらかじめ対策を練っておく必要がある(※2)。
元は公的機関で積極的に行われていたデジタルアーカイブ。近年では、一般企業での導入も進んできている。公的機関と一般企業、それぞれの導入事例を紹介する。
国会に属する、唯一の国立の図書館が国立国会図書館である。デジタル化への歩みは1998年「国立国会図書館電子図書館構想」の策定からスタートした。資料の劣化予防のため、また資料閲覧の利便性向上のため、2021年もデジタル化は着実に進められている。
保存されているデータは、明治期刊行図書や児童書、博士論文に地図と非常に幅広い。国立国会図書館デジタルコレクションから閲覧可能だ。また国立図書館サーチ(NDLサーチ)からは、国立国会図書館だけではなく、大学・専門図書館・学術研究機関などが提供する資料やデジタルコンテンツを検索可能だ(※3)。
1918年にスタートしたパナソニック株式会社。創立100周年を機に、歴史資産の整理・分類・デジタル化に取り組んだ。
パナソニックが保有する資料には、創業者の音声や記録映像(約7,000本)、文書資料や写真アルバム(約20,000冊)、エポックメーキングな商品(約3,000点)で、これらを適宜管理・保管するための仕組みづくりが目的とされた。デジタル化されたデータは社内で共有されるほか、社内外の各種展示会にも使用。テレビ、映画撮影などへの貸し出し対応も行われている(※4)。
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デジタルアーカイブは、今後もさらに広まっていくだろう。一般企業の導入事例も増えている今、決して特別なことではない。
デジタル化の波は、今後もさらに強まるはずだ。デジタルアーカイブがさらに広がれば、「情報の閲覧」だけではなく、「企業理念のアピール」や「ブランディング」、「社員教育」など、さまざまな効果が期待できる。また「お客様用Q&Aへの活用」など、業務効率アップのためにも役立てていけるだろう。
導入が広がれば広がるほど、データ保管の手間やコスト、著作権問題など、新たな問題も表面化する。しかしこうしたデメリットを考慮しても、デジタルアーカイブがもたらすメリットは非常に大きい。大企業だけではなく中小企業も、積極的に検討してみてはどうだろうか。
※1
料金・機能|ARCHIVE
https://da.sei-syou.com/price
プランニングについて|ARCHIVE
https://da.sei-syou.com/faq
※2
保存期間が長いデータの最適な管理方法 デジタルアーカイブとは?https://www.wanbishi.co.jp/blog/digital-archive.html
※3
資料デジタル化について
https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/index.html
国立国会図書館デジタルコレクションの歩み
https://dl.ndl.go.jp/ja/history.html
国立国会図書館サーチ
https://iss.ndl.go.jp/
※4
世界/日本のビジネス・アーカイブズ
https://www.shibusawa.or.jp/center/ba/bunken/doc018_panasonic.html
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