増加と多角化が進む「アグリビジネス」の現状 農業の課題を解決する3つの可能性とは

収穫期の農場とトラクター

農業の世界で注目されている「アグリビジネス」。具体的な事業例や、アグリビジネスがもたらす可能性を知って知識を深めよう。アグリビジネスは農業が抱える問題をどう解決していくのだろうか。言葉の意味や成功事例、アグリビジネスが抱える問題点を解説する。

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2021.04.16
SOCIETY
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エシカルマーケティングとは? メリットや実例をわかりやすく紹介

アグリビジネスとは? 語源と歴史

豊かに実った稲穂

Photo by Alok Shenoy on Unsplash

アグリビジネスとは、農業(アグリカルチャー)と事業(ビジネス)を組み合わせてつくられた言葉である。農業に関連する幅広い事業を指しており、アグリビジネスが拡大・発展すればするほど、後継者や収益に関する問題を解決できると見込まれている。

一言で「農業に関連する事業」と言っても、その内容はさまざまである。農業に使用する機械・肥料に関連するビジネスもあれば、流通や貿易・下降に関わるビジネスもあるだろう。アグリビジネスとは、これらすべてを統括する言葉である。

アグリビジネスという言葉が初めて使われたのは、1950年代アメリカでのことだった。R.ゴールドバーグ氏がハーバード・ビジネス・スクールにて、農業資材の供給から生産・流通・加工までの流れについて、わかりやすく説明するために使ったのが最初と言われている。

これ以降、世界の農業は、アグリビジネスという概念のもとで大きく成長してきたのだ。(※1)

4つの具体的な事業内容例

アグリビジネスというワードには、さまざまな事業内容が含まれている。だからこそうまくイメージできないという方も多いのではないだろうか。より具体的にイメージできるよう、アグリビジネスの事業内容例を挙げよう。

1. 民間企業の農業への参入
2. 農産物の直売・自身で育てた農作物でつくった加工品の販売
3. 農業体験付き宿泊施設の運営
4. 農業ロボットを活用したスマート農業の実現

たとえば我々にとって身近な「いちご狩り」「収穫体験」「道の駅での農産物販売」なども、アグリビジネスの一つである。大規模ビジネスから諸規模ビジネスまで、その内容は多岐にわたる。

アグリビジネス企業の現状は「増加」と「多角化」

株式会社形態での農業生産法人の設立が認められるようになったのは、2000年のこと。その後の条件緩和や法改正に伴って、アグリビジネスに携わる企業数は年々増加している。

2018年12月末の段階で、農地を利用して農業経営を行う一般法人数は3,286であった。2009年の農地法改正後に、その数は急激に増加。現在もまだ、その流れは止まっていない(※2)。

また農業生産に取り組む多くの農業法人が、経営の多角化にも積極的な姿勢を見せている。2009年に農林水産省が発表したデータによると、全体の53.6%の農業法人が多角化に取り組み、そのなかの54.9%が「農産物の加工事業」に、63.8%が「農産物の販売事業」を実施していると回答している(※3)。

アグリビジネスの注目度は非常に高い。しかしその一方で、経営を安定させるまでの道のりは、決して易しくはないという現状がある。業績を上げ、安定した収入を得るための工夫が、経営の多角化だと言えるだろう。

農業の課題を解決する3つの可能性

作物を収穫中の耕運機

Photo by Chris Ensminger on Unsplash

スマート農業の実現で担い手不足の解消へ

日本の産業全体で人材不足が問題化するいま、農業においても「高齢化」や「担い手不足」が指摘されている。農業をサポートするロボットやICT技術がさらに発展することで、「体力的にきつい」「しんどい」というイメージも改善。農業に対して「積極的に取り組んでみたい」と考える人材も増えるのではと期待されている。

農業法人による大規模経営で耕作放棄地削減へ

これまでは、各農家が個々で管理してきた農地。担い手不足によって、放棄される耕作地も増えてきている。ここに注目したのが、昨今増加している農業法人である。法人として大規模経営に乗り出すことで、作業効率や収益性のアップが見込めるだろう。耕作放棄地が減少するだけではなく、「農業」という一つの事業に多人数で取り組むことで、さまざまなメリットを生み出せる。

農作物・加工品のブランド化で収益率アップ

アグリビジネスの発展とともに、「より売れる商品を生み出すためにはどうするべきか?」を積極的に検討する農家も増えている。インターネットの普及により、販路は拡大。これにより、ブランド化された農作物や加工品がヒットするケースも少なくない。ただ単に「つくって売る」よりも、収益アップを見込めるだろう。

農外からの参入で約6割が赤字 収益に関わる問題点

さまざまなメリットが期待できるアグリビジネスではあるが、その裏には問題点も潜んでいる。多くは「収益」に関する問題だ。

2008年に農業参入法人連絡協議会が公表したデータによると、農外から農業に参入した270法人のうち、63%が「赤字」と回答。異業種からの農業参入には多額の初期費用がかかりがちだ。収益が安定しないまま、撤退や規模縮小に追い込まれるケースも少なくない。(※4)

なかでも失敗事例で目立つのは「甘い見通し」と「計画性のなさ」が原因となるケースだ。最初から規模を大きくし過ぎたり、作業負担を甘く考えていたり、自然環境の影響を過小評価していたり。「誰でも成功できるわけではない」という点が、アグリビジネスに潜む問題点と言えるだろう。

3つの成功事例

ワタミグループ「ワタミファーム」

外食事業でその名を知られるワタミグループ。農業をスタートしたのは2002年で、「安心・安全な食材を提供するため」という目的であった。有機農業に力を入れ、その規模を徐々に拡大。2018年には全国11カ所の農場・牧場(提携農場含む)でアグリビジネスに取り組んでいる。農業に「環境」や「リサイクル」を組み合わせてつくった、ワタミ独自の6次産業モデルで注目を集めている。

小田急電鉄「高糖度トマトの生産・販売」

2016年、小田急電鉄は神奈川中央交通が相模原市に保有する未利用地にて、高糖度トマトの生産をスタートした。生産したトマトは、沿線の小田急系スーパーで販売するほか、レストランへも納品される。小田急電鉄にとっては全く別の業界への参入であったが、新たな収益を生み出すだけではなく、沿線価値を高める効果も得られた。(※5)

UR都市機構「ファーマーズガーデン」

UR都市機構は2014年、埼玉県三郷市にあるみさと団地にてシェア畑をオープンした。市民農園とは違い、菜園アドバイザーが常時農作業をサポート。農作物の世話や収穫を通じて、地域のコミュニケーションを活性化した。シェア畑の人気に伴い、団地の知名度も上昇している。(※6)

アグリビジネスの今後の可能性

開墾された広大な畑地

Photo by Mladen Borisov on Unsplash

現在の農業は、まださまざまな問題を抱えている。今後、アグリビジネスがどう発展していくのかによって、可能性は大きく変わってくるだろう。とはいえ「スマート農業」や「もうかる農業」が実現すれば、これまで以上に「農作物」に興味を抱く人は増えていくだろう。ビジネスとしての可能性は十分にある。

「食の安全」や「地産地消」というキーワードに注目が集まるいま、アグリビジネスに対する需要も強まっている。今後は、アグリビジネスの問題点をどう解決していくかが、さらなる発展のカギとなっていくだろう。

※1 アグリビジネス vs アグリカルチャー
http://www.zenpi.jp/gyokai/pdf/20141106_01.pdf
※2 一般法人の農業参入の動向
https://www.maff.go.jp/j/keiei/koukai/sannyu/attach/pdf/kigyou_sannyu-18.pdf
※3 農業の持続的発展に関する施策の整理(P14)
https://www.affrc.maff.go.jp/docs/aratana_keikaku/pdf/090721-sankou-06.pdf    
※4 農外から農業に参入した法人に対するアンケート調査結果概要(P2)
https://www.nca.or.jp/hojinsien/kyougikai/doc/questionnaire_08aug.pdf
※5 小田急グループによるアグリビジネスへの参入について
http://www.odakyu.jp/program/info/data.info/8381_6650413_.pdf
※6 豊かな団地空間を活用した交流の場の整備
https://www.ur-net.go.jp/chintai_portal/welfare/torikumi/community_j1.html

※掲載している情報は、2021年4月16日時点のものです。

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