経済活性化につながる「地域通貨」の現状 2つの事例にみる成功のカギ

Photo by スマートフォンを掲げる手

2000年代初頭に流行した地域通貨が、いま再注目されている。地域通貨とはどのようなもので、導入によってどのようなメリットが生まれるのだろうか。これまでの歴史と再注目の理由、地域通貨が抱える問題点までわかりやすく解説する。

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2021.04.21
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地域通貨とは 法定通貨との違い

スマートフォンを操作する男性

Photo by Jonas Leupe on Unsplash

地域通貨とは、特定の地域やコミュニティ内で、モノやサービスとの交換のために使用できる通貨である。日本で注目され始めたのは、1990年代後半のこと。ここから2000年代前半にかけて、多くの自治体が、地域活性化のために独自の通貨を導入した。海外でも多く見られる地域通貨。英訳すると「community currency(コミュニティ カレンシー)」である。

地域通貨には「通貨」という名前が付けられているものの、厳密には通貨ではない。我々の手元にある「お金」は日本銀行が発行しており、「法定通貨」と呼ばれている。ふだん意識する機会はないが、法定通貨の価値は国によって保証されている。

一方で地域通貨の発行元は、地域の企業や団体、行政などだ。法定通貨が「支払い」「価値を測るもの差しとしての機能」、「さらに価値の保存・蓄積」の3つの機能を持っているのに対し、地域通貨には、保存・蓄積機能はほぼ備わっていない。あくまでも、地域活性化のために「使われる」ことを前提とした通貨である。

地域通貨の定義と使用ルール、形状の種類

地域通貨には、その価値の根拠となる法律が存在していない。つまり発行元の企業や団体、行政などによってのみ、その価値が保証されている。このため、使用できるエリアや対象店舗、期間が事前に定められているのが一般的だ。このルールに則って使用するよう求められ、ルール外で使用しようとしても、その価値は認められない。

一言で地域通貨と言っても、「紙幣型」「通帳型」「小切手型」「電子カード型」など、その形状はさまざまだ。地域によってタイプは異なるものの、どれも団体・地域・コミュニティ内の「信頼」によって成り立つ通貨だ。

地域通貨の目的とメリット

地域通貨が目的としているのは、以下の2つである。

・地域経済の活性化
・社会的交流の促進

地域内のみで使える通貨の流通量が増えれば、その地域の経済は活性化するだろう。使用期限が設定されていればなおのことだ。たとえば旅行先で地域通貨を得る機会があれば、「旅行中に使い切ってしまおう」と考えるのが自然な流れである。法定通貨のように、「持ち帰って自宅周辺で使う」とはならない。

また社会的交流が生まれ、地域内の関わりが増える点も、地域通貨導入のメリットである。ちょっとした頼みごと・頼まれごとをした際に、地域通貨で「お礼」をする仕組みがあれば、コミュニケーションの多様化や相互補助の仕組みの推進にもつながっていくだろう。

こうした役割を、全国どこでも使え、その価値が国によって保証されている法定通貨が担うのは難しい。地域通貨ならではのメリットである。

問題点・デメリットは「コスト」と「法律」

パソコンに表示された株価チャート

Photo by Tech Daily on Unsplash

一方で、地域通貨にも問題点は存在している。地域通貨の発展を阻害する原因にもなっているのが、経営母体が抱える負担だ。地域通貨を発行し、適切に管理・運用するためには、それなりの手間やコストがかかるものだ。

しかし最初のブームが過ぎると、「使う人が減ったことで通貨の価値が下がり、負担だけが残る」という事例も少なくなかった。

また日本で地域通貨を発行するためには、さまざまな法的ハードルをクリアする必要がある。とくに金銭を受け取って地域通貨を発行する場合、前払式支払手段発行業者として、資金決済に関する法律をクリアする必要がある。これも日本の地域通貨が抱える問題点と言えるだろう。

地域通貨の歴史と日本社会における現状

地域通貨の始まりは、19世紀の英国だと言われている。社会主義者のロバート・オーエンは、労働時間を価値基準とした労働通貨を発行。発行された労働通貨は、商品とのやり取りに使用できた。

その後、1980年代に入ると、カナダでLocal Exchange Trading System(LETS)がスタート。不足した法定通貨を地域通貨で自給自足しようとつくられたシステムで、現在の地域通貨のなかにも、LETSの考えを取り入れているものがある。

日本でも過去、さまざまな地域通貨が発行されてきた。江戸時代の「藩札」も、地域通貨の一種と言えるだろう。我々の記憶に新しいのは、2000年前後の地域通貨ブームである。身近な場所で発行され、身近な場所で利用できる地域通貨によって、地域経済は活性化してきた。

いったんそのブームは落ち着いたが、デジタル化が進んだいま、新たな形で再注目を集めている。スマートフォンやインターネット、キャッシュレス決済の広がりによって、維持・管理に関わる手間とコストが減少したのだ。地域活性化や社会的交流の促進に向けて、さまざまな団体・自治体が地域通貨を発行している。

地域通貨の成功事例2つ 独自性が成功のカギ

使い勝手の良さが魅力「さるぼぼコイン」

さるぼぼコインは、岐阜県高山市・飛騨市・白川村で利用できる電子通貨だ。2017年にスタートした、金融機関発行の地域通貨である。2次元コードで簡単に決済できるのはもちろん、チャージでプレミアムポイントが付与されたり、公共料金の支払いに使えたりと、便利でお得な点が高く評価されている。

インターネット上の「さるぼぼコインタウン」では、さるぼぼコインでのみショッピングが可能。ユニークな「裏メニュー」で人気を集めている。2019年12月時点で、加盟店舗数は約1,200。約1万人がさるぼぼコインアプリを利用しており、現代の地域通貨の、成功事例の一つである(※1)。

感謝の気持ちを伝えられる「アトム通貨」

早稲田・高田馬場で、2004年からスタートしたのがアトム通貨だ。NPOや地域の団体、ボランティアなどで、「環境」「地域」「国際」「教育」に貢献するイベントに参加すると入手できる。また、感謝の気持ちを込めて、人から人へ手渡すことも可能だ。

鉄腕アトムをモチーフにした親しみやすさと、地域一体となって積極的に取り組んだことで成功につながった。2021年現在、日本全国9つの支部で展開している(※2)。

地域通貨の今後と可能性

キャッシュレス決済中のスマートフォトン

Photo by naipo.de on Unsplash

キャッシュレス決済が広がるにつれて、地域通貨もより手軽に導入できる環境が整ってきている。地域活性化は今後の日本が抱える重要課題の一つであり、地域通貨はその解決策になり得るだろう。今後どのような地域通貨が登場するのか、注目してみてはどうだろうか。

※1 さるボボコイン
https://sarubobocoin.com/
※2 アトム通貨
http://atom-community.jp/about/use.html

※掲載している情報は、2021年4月21日時点のものです。

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