ソーラーシェアリングが普及しつつあるいま、「導入するべきなのか?」で悩む農家も多いだろう。導入を決定するために必要な基礎知識、流れ、メリット・デメリットまでをわかりやすく伝える。向いている作物や必要となる初期費用など、ぜひ参考にしてほしい。
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ソーラーシェアリングとは、農業生産と太陽光発電の両方で、太陽光をシェアする取り組みを指す。具体的には、稲を育てる田んぼに支柱を立て、屋根のように太陽光発電用パネルを設置。稲に当たる太陽光量を調整しながら、太陽光による電力エネルギー・売電収入の確保を目指す新しいスタイルだ。「営農型太陽光発電」という名称でも知られている。
ソーラーシェアリングがスタートしたのは、2013年のことだ。それまでは「ソーラーパネル用の支柱を立てる部分が農地転用に当たる」点を理由に、農林水産省は農地における太陽光設備などの設置を認めてこなかった。
しかし農業者の収入拡大、農業経営の規模拡大、6次産業化の推進などを目的に、「支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用許可制度上の取扱いについて」を公表。これにより、ソーラーシェアリングが可能になった。
FITとは再生可能エネルギーの固定価格買取制度のことだ。太陽光発電や風力発電などで得られた再生可能エネルギーを、電力会社が一定期間、固定価格(FIT制度)で買い取ってくれるよう国が保証する。設備設置後はFITによって安定した収入を得られるため、農家の負担を少なくし、導入へのハードルを下げるねらいがある。
固定価格は、規模や導入時期によって異なる。以前は導入コストが高かったために、固定価格も1キロワットあたり40円前後に設定されていたが、2020年度は12円~26円程度である。
また発電量区分が「10キロワット以上50キロワット未満」に該当する場合、2020年度より、自家消費型の地域活用要件が設定されている。ソーラーシェアリングの場合、「災害時活用」「荒廃農地の活用」など一定の条件を満たしていれば、自家消費なしでもFIT制度の利用が可能だ。
ソーラーシェアリングの仕組みはいたってシンプルだ。農地に支柱を立て、その上に太陽光発電パネルを設置する。農地に支柱を立てるためには、農地転用の手続きが必要だ。営農と発電、それぞれの計画をもとに「農地一時転用申請」をしよう。太陽光システムの設計や見積もり、業者選定も必要だ。
ある程度計画が進んできたら、「電力会社への接続契約等申込」と「FIT事業計画認定申請」を行う。これらは太陽光発電とFIT制度の利用のために必要なものだ。申請が通れば、太陽光パネルの設置工事をスタート。その際に重要なのは、パネル同士の間隔を計算し、パネル下部での営農を可能にする点だ。
営農に関しては、これまでと同様に作物を育て、収穫し出荷する。太陽光発電によって発生したエネルギーは、以下のように活用できる。
・FIT制度による売電収入の確保
・営農のためのエネルギー源確保
・災害時の電力供給所
固定価格買取による安定した収入を得られれば、より安定した農業経営につながるだろう。また発生したエネルギーを自家消費すれば、これまでかかっていたエネルギーコストを削減できる。
近年注目されているのが、災害時の役割についてだ。地域の電力供給を支える基地として活用できるだろう。事業を開始したあとは、農業委員会への年次報告が必要になる。こちらも忘れずにチェックしておこう。
ソーラーシェアリング設置には、いくつかの条件が設定されている。
・下部の農地における営農の適切な継続を前提として営農型発電設備の支柱を立てるものであること
・簡易な構造で容易に撤去できる支柱であること
・下部の農地における営農の適切な継続が確実であること
・農作物の生育に適した日照量を保つための設計となっていること(パネルの角度・間隔など)
・営農のための空間が確保されていること(支柱の高さ、間隔など)
・周辺の農地の効率的な利用や農業用排水施設の機能などに支障を及ぼさないこと
・営農型発電設備の撤去に必要な資力および信用があること
これらの条件を満たしていない場合、一時転用許可が下りない。また営農の継続を証明するため、下部農地における作物の生育状況や収穫量を報告する必要がある。
2018年の制度変更時には、新たに3つの条件が提示された。以下を満たすソーラーシェアリングでは、従来「3年」であった一時転用の更新期限が「10年」まで延長される。
・担い手が所有している農地または利用権などを設定している農地で、当該担い手が下部農地で営農を行う場合
・農用地区域内を含め荒廃農地を活用する場合
・農用地区域以外の第2種農地または第3種農地を活用する場合
こちらも確認しておこう。
Photo by Arnaldo Aldana on Unsplash
ソーラーシェアリングを成功させるためには、下部農地でどんな作物を育てるのか、慎重に決定する必要がある。農作物の質が悪かったり、収穫量が減ったりすると、ソーラーシェアリングそのものが不可能になるからだ。
向いているのは、太陽光をそれほど必要としない「半陰性植物」と「陰性植物」である。具体的にはキャベツやにんじん、大根、イチゴなどがおすすめだ。一方で向いていないのは、太陽光をたっぷり必要とする植物で、具体的にはナスやトマト、スイカやきゅうりなどが挙げられる。
とはいえ陽性植物であっても、パネルの向きや場所に工夫すれば、導入可能なケースもある。事前の入念なリサーチとシミュレーションが重要だ。
ソーラーシェアリングのメリットは、収入の安定化である。農業で得られる儲けは毎年異なる。不安定な状況のなか、安定収入をもたらしてくれるのがソーラーシェアリングだ。
このほかにも「土地の有効活用」「適度な日陰の創出による農作業の負担軽減」などのメリットが挙げられる。ソーラーパネルのみの設置を目指す場合、農地を宅地へと変更する必要があるが、固定資産税がアップしてしまう。ソーラーシェアリングなら、税金アップすることなく、太陽光発電事業に進出可能だ。
ソーラーシェアリングのデメリットは、諸条件によっては続けられないリスクがあるという点だ。
一時転用は3年ごとに更新する必要があるが、「営農されていない」「農作物が、同じ年の地域の平均的な単収と比較しておおむね2割以上減少している」などの条件に当てはまると、手続きは認められない。初期費用をかけて太陽光発電装置を設置しても、撤去しなければならないのだ。
また、FIT制度は、10年~20年の長期運用を前提とした制度である。ソーラーシェアリングをそれだけ続けていける見込みがあるのか、事前計画は慎重に行う必要があるだろう。また初期費用が高い、融資が下りにくいという課題も報告されている。
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ソーラーシェアリング導入に必要な初期費用の目安は、1キロワットあたり約20~30万円と言われている。50キロワットの発電システム導入を目指す場合、費用目安は約1,000万円だ。
一方収益については、FIT価格21円で計算すると1ヶ月あたり約10万円弱に。1年で120万円、10年で1,200万円、20年で2,400万円の収益が発生し、初期コストを回収したのちに1,400万円の儲けが出る計算だ。
ソーラーシェアリング導入時に気になるのが補助金情報だが、2020年度に利用できる国の補助金はない。ただ、地方自治体によっては太陽光発電に関する補助金制度を用意している可能性があるため、問い合わせてみよう。
今後もさらに、再生可能エネルギーの導入は進んでいくだろう。農業×発電という新しいしくみは、今後もさらに広がっていくと思われる。ただしFIT価格は年々低下傾向にある。今後はさらに入念なシミュレーションのもとで、「初期費用を回収できるのか?」「どれだけの儲けが見込めるのか?」を見極める必要があるだろう。
デメリットや課題もあるが、収益の2段階構造を生み出せるソーラーシェアリングに興味関心を抱く農業従事者は多い。まずはその可能性を知り、導入を検討してみてはどうだろうか。
※ 参考サイト
支柱を立てて営農を継続する太陽光発電設備等についての農地転用 許可制度上の取扱いについて(P2〜P6)
https://einou-pv.org/wp/wp-content/uploads/2018/06/646484edc7d8778fa503c29a3201e212.pdf
営農型太陽光発電取組支援ガイドブック(P5、P14)
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/renewable/energy/attach/pdf/einou-54.pdf
再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック2020年度版(P7)https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/data/kaitori/2020_fit.pdf
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