地域活性化につながる「アグリツーリズム」 日本の成功事例とコロナ禍の現状とは

新たな旅行スタイルとして注目される、「アグリツーリズム」。インバウンドだけではなく日本人観光客も激減したいまだからこそ、アグリツーリズムの基本的な知識と受け入れメリットを知ろう。成功事例やコロナ禍の現状についても解説する。

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2021.03.22
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農家や農村で楽しむアグリツーリズムとは

畑に走る一本の農道

Photo by Mircea X. on Unsplash

アグリツーリズムとは、農場や農村で楽しむ、滞在型の休暇スタイルを指す。人々の意識が「モノ」よりも「コト」に向けられがちないま、「その土地ならではの体験がしたい」と考える観光客が増えてきている。地方に足を向け、農業や自然・生活を体験する観光スタイルこそが、アグリツーリズムである。

アグリツーリズムという言葉は、アグリ(農業)とツーリズム(旅行)という2つの単語を組み合わせたものだ。地方の農村部を訪れた観光客は、「稲刈り体験」「収穫体験」「生物との触れ合い体験」「自然体験」など、さまざまな取り組みを通じて、その土地ならではの魅力を満喫する。

アグリツーリズムは、農林水産省が推奨する旅行スタイルの一種でもある。自然との調和を学んだり、都市部と地方の交流を盛んにしたりする効果が期待される。

また「日本での特別な体験」を提供できる旅行スタイルは、海外からの注目度も高い。今後のインバウンド事業においても、期待される取り組みのひとつだ。

グリーンツーリズムやエコツーリズム 他の言葉との違い

日本でアグリツーリズムというキーワードが使われるようになったのは、ごく最近のことである。もともとはグリーンツーリズムという言葉が使われてきた。

農林水産省によると、グリーンツーリズムとは「農山漁村において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」のこと。アグリツーリズムと、それほど大きな違いはない。ちなみにブルーツーリズムとは、漁村での滞在型の余暇活動を指す言葉だ。「グリーン=木々の自然」「ブルー=海や川」と、色のイメージから名付けられている。

もうひとつ似た言葉に「エコツーリズム」があるが、こちらは旅行の目的がアグリツーリズムとは全く異なる。都市部から地方へ旅行に行くスタイルは同じだが、エコツーリズムの目的は「自然環境保護」である。

どのような目的で旅行したいのかによって、どちらの旅行スタイルを選択するか、決定するのがおすすめだ。

アグリツーリズムの発祥はヨーロッパ

山の斜面に作られた畑

Photo by Maksym Kaharlytskyi on Unsplash

アグリツーリズムと同様の意味で使われるグリーンツーリズム。その発祥地は、ヨーロッパである。ドイツやフランス、イギリスなどでは、長期休暇を利用して農村部へと出かけ、自然や交流を楽しむ習慣があった。

近年こうした習慣を、より積極的に取り入れるようになっている。自然との調和を再度見直そうという動きから、アグリツーリズムの魅力が再認識されているのだ。

日本で注目されるようになったきっかけは、平成6年に制定された「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律」である。

農林水産省が積極的にあと押しし、人々の意識が「その土地ならではの経験」に向かい始めたことから、注目度は上昇。今後もさらに、ニーズは高まると予想されている。(※1)

観光客受け入れによる3つのメリット

地方自治体や農家が外部からの観光客を受け入れるメリットは、以下の通りだ。

・増収
・地域農業の活性化
・地域の魅力の再発見

外部から多くの観光客を招けば、経済的に潤うだけではなく、地域全体を活性化するだろう。農業に対する関心度も高まっていくはずだ。また観光を通じて地域の魅力を発信することで、地元の強みの再認識にもつながる。

アグリツーリズムの課題は「コスト」と「成果」

一方で、アグリツーリズムの歴史が浅い日本では、まだまだ課題も山積している。なかでも多いのが、「サービス提供までのコスト面でのハードルが高い」「コストをかけて整備しても観光客が来ない」などの課題だ。

そもそも日本の農村部においては、住人の高齢化や人口減少が問題になっているケースも多い。提供できるサービスには、現実的に限界がある。しかしそれが原因でツーリズムとしての魅力度が下がれば、残念な結果に終わってしまうだろう。

近年の需要と新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響

アジアの国を旅する外国人観光客

Photo by Steven Lewis on Unsplash

アグリツーリズムが広がる原動力になったのは、外国人観光客の存在である。日本の「モノ」ではなく、日本らしい「コト」に興味を抱いた彼ら。積極的に地方に足を向け、新たなビジネスチャンスの創出につながった。

しかしいま、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、観光客の数は激減している。経済面で非常に大きな打撃を受けた事業者も少なくない。

一方で、「密を避けられる休暇」「身近な場所でできる滞在型の農泊体験」など、日本国内で新たなニーズが誕生している。こうした要望にどれだけ応えられるかが、今後のアグリツーリズムのポイントとなるだろう。

アグリツーリズムの成功事例3つ

北海道長沼町

北海道長沼町はグリーンツーリズム特区に認定されている地域である。都市近郊の立地を生かし、農家民宿・体験交流で数多くの観光客を受け入れている。

半日(2時間程度)の農業体験であれば、費用は1,500円(税別)と手ごろ感も魅力だ。農家民宿では、農家が体験者を家族の一員として迎え入れてくれる。食事の準備やふだんの生活を通じて、交流促進できる点が人気を集めている。(※2)

長野県飯田市

ここにしかない「ほんもの体験」をテーマに、「ワーキングホリデー飯田」や、「体験教育旅行」を実施。160以上の体験メニューで、農業や自然、地域に触れられる。2017年には「南信州農家民泊」が「COOL JAPAN AWARD 2017」を受賞した。

県南部の自治体と地元企業が出資し、株式会社南信州観光公社を設立。積極的に情報発信しつつ、独自の取り組みを行ったことが成功につながった。(※3)

大分県宇佐市安心院町

大分県北部に位置し、米やブドウづくりが盛んな安心院町。都市住民を農村家庭でもてなし、家族とともにありのままの農家ライフを満喫できる「安心院方式」の農村民泊が人気だ。

各農家が受け入れる観光客は、「1日1組のみ」と徹底している。距離の近さが他にはない魅力となり、小さな町には年間約1万人もの観光客が訪れた。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、2020年度は受け入れを制限していたが、2021年度からの再開を目指している。

モノからコトへ アグリツーリズムは新たな観光の形

アグリツーリズムは、これから先の日本の観光業を支える柱のひとつとして、成長し続けていくだろう。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響、設備とシステムを構築するための費用負担など、課題も多いが積極的に取り入れるメリットは大きい。

海外旅行が難しいいま、日本の農村部に注目する日本人観光客が増えてきている。コロナ禍のいまだからこそ、アグリツーリズムが新たな観光業の形を示してくれるのかもしれない。

※1 グリーン・ツーリズムの現状と展望(P2)
https://www.maff.go.jp/j/nousin/kouryu/kyose_tairyu/k_gt/pdf/1siryou2.pdf
※2
長沼町グリーン・ツーリズム受入予約開始について
https://www.maoi-net.jp/osirase/20200710_1.htm
農家民宿の紹介
https://www.maoi-net.jp/nougyou/gtmember.htm
※3 感動体験南信州とは
https://www.mstb.jp/about/

※掲載している情報は、2021年3月22日時点のものです。

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