2000年代にアメリカで活発化したスマートグリッド。日本でも徐々に浸透してきたが、さまざまな課題も見えてきている。日本におけるスマートグリッド導入への取り組みやメリット、日本企業における今後の課題についても解説する。
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スマートグリッドとは、これからの世界が目指していくべき次世代電力供給システムを示す概念だ。その詳細は国や地域の実情によって異なるが、一般的には「専用の機器やソフトウェアを活用することにより、電力供給、需要に関する課題への対応を可能とした次世代電力系統」を表している。
スマートグリッドの必要性が知られるようになったのは、2000年代以降のアメリカでのこと。2009年以降、米国の第44代大統領バラク・オバマ氏によって、世界的にもその重要性が認識されるようになった。
日本でスマートグリッドという言葉が注目され始めたのも、ちょうどこの頃からである。二酸化炭素排出量の減少や震災時の安定的な電力供給のため、一般市民の間にもその必要性が認知されるようになった。
従来の電力供給システムは、発電所から各企業や一般家庭に向けて、一方的に電力を送るための仕組みであった。
一方スマートグリッドでは、各家庭に最新のICT技術を活用したスマートメーターを設置。この機械を介することで、電力・情報ともに、双方向のやりとりができる環境を実現している。消費電力や発電量を見える化するとともに、電力供給が最適化される仕組みだ。
これまでの電力供給システムは、一般市民にとって「受け取るだけのもの」であった。スマートグリッドの新しい仕組みによって、省エネや創エネについても、より意識しやすい環境が整備された。
スマートグリッドの必要性が語られるようになった背景には、2000年代のアメリカが抱えていた、深刻な電力供給問題がある。
世界のIT業界の中心と言われたアメリカ合衆国。しかしその送電網は脆弱で、頻繁な停電トラブルに悩まされていた。このような状況のなかで、誕生したのがスマートグリッドである。
オバマ元大統領は、2009年に発効したAmerican Recovery and Reinvestment Act of 2009(アメリカ復興・再投資法)にて、エネルギー問題を解決するための各種プロジェクトをスタート。グリーンニューディール政策として、注目を浴びた。
その根幹を支える新たな概念となったのが、スマートグリッドである。再生可能エネルギーのより一層の推進やエネルギー利用効率の向上のために、急速に整備が進められたスマートグリッド。日本においても、こうした流れを汲み、さらなる導入が進められてきた。
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スマートグリッド導入のメリットは、以下の3つだ。
アメリカのスマートグリッド導入において、とくに重視されたメリットが「エネルギーの安定的な供給」である。
電力供給システムのなかで、電力が十分な場所と不足している場所を判別できれば、不足している場所に向けて、重点的に電力を供給することができる。過剰な発電を防ぐことにもつながり、継続的に安定したエネルギー供給をしやすくなる。
環境にやさしいエネルギーとして注目される再生可能エネルギー。太陽光発電や風力発電によって生み出されたエネルギーがこれに当たるが、天候や条件によって安定しづらいというデメリットがある。
こうしたデメリット解消のため、役立つのがスマートグリッドである。スマートグリッドによって電力の双方向やりとりができるようになれば、十分に発電できているエリアから、不十分なエリアへの送電が可能に。地域全体で、需要と供給のバランスを取れるようになれば、再生可能エネルギーの活用の場も広がるだろう。
スマートメーターの設置により、省エネ・創エネが目に見える数値で示されるようになった。これにより、各個人がエネルギー消費について意識しやすくなったという点も、意味のあるメリットのひとつである。
さまざまなメリットが期待できるスマートグリッドではあるが、デメリットがゼロというわけではない。以下はその一例である。
IT技術を用いて、エネルギーに関するさまざまな情報をやりとりするスマートグリッド。便利である反面、避けられないのが情報漏洩リスクだ。
エネルギーに関する情報には、さまざまな個人情報も含まれている。外部からのハッキングにより情報が流出すれば、それを悪用される可能性も否定できない。スマートグリッドの普及とともに、セキュリティ対策の充実が急務だと言える。
日本におけるスマートグリッド普及のためには、各家庭にスマートメーターを設置する必要がある。そのために必要となるコストや時間は、決して少なくないだろう。
発電・送電システムの不足を解消することが主目的であるアメリカのスマートグリッドにおいても、例外ではない。システム全体を再構築するためには、莫大な費用が必要となる。
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メリット・デメリットがあるなかで、日本企業においても、スマートグリッド導入事例は増えてきている。
日本企業による導入事例が目立ち始めたのは、2009年ごろのこと。経済産業省内において、スマートグリッドに関する各種研究会が開催されるようになったほか、2010年からは選定された28法人が参加する実証実験がスタートした。(※1)
一方で世界に目を向けてみると、その導入時期や方法はさまざまである。アメリカでは2009年以降、オバマ元大統領のもとでスマートグリッド整備のための大規模事業が多数スタートした。より安定した電力供給に役立っている。
欧州ではより先進的にスマートグリッドの導入が進められてきた。風力発電によって得られたエネルギーをより効率よく供給するための取り組みが、主に行われている。(※2)
以下で紹介するのは、日本企業における具体的な導入事例である。
関東地域に電力の小売り事業を行う東京電力。日本を代表する電力会社の一つとして、スマートグリッドへの取り組みを行っている。
2014年からスマートメーターの各家庭への設置を開始し、2020年度までに全2,700万戸への設置完了を目指した。スマートメーターオペレーションセンターを設置し、ビッグデータを活用。首都圏の「最先端スマートシティ化」に向けて、具体的な取り組みを行っている。(※3)
シンフォニアテクノロジーのナチュエネは、電力の平準化を行い安定した電力供給に役立つとともに、非常時や災害時の独立電源としても活躍する。変動の大きな再生可能エネルギーの、安定的な供給を可能とする。
公民館や学校のほか、農業の現場や離島においても活用可能。2012年から実証施設にて本格稼働を開始し、和歌山大学や豊橋市大清水まなび交流館「ミナクル」などに採用されている。導入コストの負担が、今後の課題と言える。(※4)
トヨタスマートセンターは、家や車、電力会社をつなぎ、統合的にエネルギー消費をコントロールする独自管理システムである。2010年に開発が発表され、それ以降、PHVや一般向け住宅など、トヨタが関わる事業のさまざまなところで活用されている。(※5)
アメリカでスマートグリッドが注目され始めた2000年代、日本ではそれほど注目されていなかった。なぜなら、アメリカと比較して日本の電力供給事情は、非常に安定していたからだ。
アメリカのように「慢性的かつ長時間の停電」といった差し迫った理由がなかったため、普及が遅れたという現実がある。日本でスマートグリッドが普及し始めたのは、太陽光発電を主とする再生可能エネルギーのより一層の活用に関心が寄せられたためだ。今後も、こうした流れのもとに、普及を進めていく必要があるだろう。
スマートグリッドを今後さらに普及させていくために、忘れてはならないのがコスト負担に対するより一層の検討である。
スマートグリッドを普及させるためには、スマートメーターの導入コストが発生する。問題は誰がそれを負担し、具体的な利益をどう得ていくのか?という点にある。こうした課題を解決するためには、スマートグリッド導入への取り組みに関して適切な評価を行い、社会的合意のなかで、議論・導入を進めていくべきだろう。
また電気自動車との連携やスマートハウス・スマートコミュニティのより一層の推進など、目に見える形で消費者の利益を提示することも重要だ。
※1 スマートグリッドの国内動向
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcsj/45/9/45_9_410/_pdf
※2 スマートグリッドの技術の現状とロードマップ
https://www.nedo.go.jp/content/100107277.pdf
※3 東京電力グループのスマートグリッドへの取り組み
https://www.messe-dus.co.jp/fileadmin/essj/uploads/essj_presentations_2016/ESSJ2016_Session3_Kitajima.pdf
※4 小規模スマートグリッドシステム ナチュエネ
https://www.sinfo-t.jp/pdf/Data/eco_gene/N16-906.pdf
※5 トヨタ自動車、先進のエネルギー管理システム「トヨタ スマートセンター」を開発
https://global.toyota/jp/detail/1520924
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