「フィーカ(Fika)」はスウェーデンのお茶の習慣。コーヒー片手に甘いスイーツをいただきながら、友達や家族たちとおしゃべりを楽しむ時間だ。コミュニケーションの活性化にも役立ち、日本の企業でも取り入れられはじめている。現地ではどのようにこの時間を過ごしているのか紹介しよう。
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「フィーカ(Fika)」とは、スウェーデン式のコーヒーブレイクを意味する。みんなと一緒におしゃべりしながら、温かい飲み物と甘いお菓子を楽しむ伝統的な習慣だ。言葉の由来はスラングで、スウェーデン語でコーヒーを表す「kaffi」をひっくり返したもの。俗語が生まれるほどコーヒーが国民に愛されているのには、同国の歴史も関係している。
スウェーデンでは1756年から1817年の間に、最低でも5回は国からコーヒーが禁止されてきた(※1)。なかでも、当時の王であるキング・グスタフ三世はコーヒーは健康に悪いとし、国民に二度と購入しないように通告したほどだ。
実際のところは、アンチ君主制の人たちを恐れていた王が、市民が集会を開いて共謀するのを阻止することが、禁止令の目的だった。しかし、王の作戦は上手くはいかず、逆に闇市が誕生してしまうハメに。愛飲者たちは王の目を盗み、あの手この手でこっそり売買を続けていたのだ。
個人主義の国の人たちが、チームワークをここぞとばかりに発揮してまで、飲まれ続けてきたコーヒー。御法度とされた過去を乗り越えて、数百年経ったいまでも老若男女の心を魅了してやまないようだ。
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スウェーデン人にとって、フィーカは生活の一部。大体の人は10時と15時の2回、この習慣を楽しむ。フィーカをするのに必要なのは、ほろ苦いコーヒーとスイーツ、それと話し相手だ。
お菓子は伝統的に、シナモンロールやビスケットなどの焼き菓子を持ち寄って食べることが多い。コーヒーが苦手な人は紅茶やハーブティーを飲んでもいいし、甘いものが得意でない人はチーズやサーモンのオープンサンドをよく食べるのだとか。
場所は家やカフェはもちろん、山や湖でのアウトドアフィーカも人気がある。焚き火を囲んでホットドリンクをみんなで飲めば、心も体もぽかぽかになりそうだ。
どうしてこんなにもフィーカは浸透しているのだろうか。その理由の一つに、スウェーデンの気候がある。冬が長いこの国では、一人でいると気分がブルーになりがちだ。
家にこもってばかりいると、太陽光を十分に浴びられないから、精神面だけでなく健康面に良くない。だからみんな、人と会う口実としてフィーカを利用するのだ。
こういった習慣がしっかり根付いていることもあって、スウェーデンのコーヒー消費量はなんと世界6位。一人当たりの年間消費量はおよそ8kgで、日本の約3.6kgと比べて2倍以上も飲んでいることになる(※2)。
実は北欧は、どこの国もコーヒーの摂取量が世界トップクラス。人と交流する機会をできるだけ持つようにし、心豊かに過ごせるように極力努めていることがこの数字から伺える。
それは職場においても同様で、同僚とフィーカするのはよくある光景だ。社員がリラックスできるように、オフィスに専用のスペースを設けている企業も珍しくないという。日本だと、非喫煙者がデスクを離れて休憩するのは勇気がいるのに、なんとも羨ましい限りだ。
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スウェーデンの会社では1日に2回、15分ほどフィーカの時間を設けていることが多い。作業の手を止めて息抜きする時間なので、休憩室にパソコンを持ち込んで「忙しいアピール」をしても、誰にも尊敬されない。休むときはしっかり休んで、働くときは集中して働く。メリハリをつけて取り組んだ方が、生産性があがるからだ。
ヨーロッパの働き方は、日本のそれとはかなり違う。愛する家族や自分の生活を大切にしているため、定時ダッシュするのが基本中の基本だ。兎にも角にも効率重視で、限られた時間のなかでクオリティの高い仕事をすることが求められる。だから、残業しようものなら「能力がない」と見なされてしまう。
スウェーデンでは、日本のように夜遅くまで会社に残ることは美徳とされていない。男性でも17時ごろには帰宅するのが当たり前で、家事や育児はパートナーと分担するのが常識だ。だから、イクメンや家族サービスといった言葉は存在すらしない。父親業を積極的にするだけで世間から褒められるのは、日本くらいだろう。
一方で女性の社会進出もとても進んでおり、結婚後もフルタイムで働き続けるのがごくごく一般的だ。そのため、性別に関わらず誰もが能率的な働き方を心がけている。
以前この国では、働く時間を1日6時間に短縮するといった社会実験を約2年間にわたって行っていた。結果はなかなかのもので、心にゆとりが生まれたため社員のストレスが減ったばかりか、幸福感が増して仕事をもっと楽しめるようになったそうだ。
より健康的になれたおかげで生産効率までアップし、いかに残業が無意味かということが証明されることとなった。
会社に身を捧げて身を粉にするような日本のスタイルでは、ワークライフバランスの取れた充実した日々なんて夢のまた夢。スウェーデンのように、忙しい合間を縫ってフィーカの時間を取り、少しでもストレスフリーな働き方をしたいものだ。
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日々の生活にフィーカを取り入れると、いい意味でいろんな変化が期待できる。例えば会社では、行きたくもない飲み会に参加する必要がなくなる。
日本の会社は「社員同士の交流はお酒の席で」という考え方があるが、正直言ってそれは時代遅れ。業務時間内に周りとちゃんとコミュニケーションを取れていれば、わざわざお酒の力を借りなくても良好な人間関係は構築できるはずだ。
かたや休憩室でのお茶会なら、家庭やお財布の事情で飲みに行けない人も、気兼ねなく加わることができる。チームや世代の垣根を超えた交流だって可能だ。
それに、従業員の休憩のために用意するスナックやドリンクは、みんなが自由に食べたり飲んだりできるのであれば、福利厚生費として経費で落とせる。社員に金銭的な負担をかけずに済むから、不満の種を一つ解消することにもつながる。フィーカはつくづく理にかなっているのだ。
仕事をするときはとことん打ち込んで、ちょっと疲れたころに甘い物で元気をチャージ。リラックスしながらおしゃべりすることによって社内の空気もよくなり、コミュニケーションの活性化も望めるだろう。
勤め先でのイライラが少しでも減れば、アフターファイブは快適に過ごせるようになる。そうなると、家庭関係や友人関係が円満になること間違いなしだ。
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日本ではフィーカをしている会社はまだまだ少ないが、「イケア・ジャパン」のようなスウェーデン企業では、本国のステキな習慣を日本でも導入している。イケアでは毎週金曜日をフィーカの日とし、職域の違う人たちと気軽に談笑できる環境を用意しているそうだ。
話のトピックは人によって実にさまざま。天気の話題にとどまらず、趣味やペットのことなどを、アットホームな環境でのんびり語り合う。そうすることにより、オフィス全体の連帯感も自然に強まっていくらしい。
同じくスウェーデン出身のCEO率いる、香川県のITスタートアップ企業「Dreamy」も、積極的にフィーカを開催している。上司も部下も関係なく、ざっくばらんに会話できるとあって、新しいアイディアが降ってくることもあるのだとか。
飲み会よりも敷居が低いうえ、オンラインでもできるようなので、リモートワークのメンバーとの絆を深めるツールとしても是非マネしてみたい限りだ。
「今日から雑談タイムを設けます」と言われても、シャイな日本人には受け入れられづらいかもしれない。まずは会社側が、コミュニケーションを促すゲームを用意するなどして、会話の機会をつくってあげよう。
うまくフィーカを取り入れれば、メンタルヘルスのケアにもなるし、オフィスの風通しもよくなるから、やってみない手はなさそうだ。
文・構成/Misa
※1 Once upon a time, when coffee was illegal in Sweden... say what now?
https://www.thelocal.se/20180702/why-coffee-was-banned-in-sweden-five-times
※2
統計資料|全日本コーヒー協会
http://coffee.ajca.or.jp/data
世界の一人当たりコーヒー消費量
http://coffee.ajca.or.jp/wp-content/uploads/2020/11/data09_20201110.pdf
The Top Coffee-Consuming Countries
https://www.worldatlas.com/articles/top-10-coffee-consuming-nations.html
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