ディーセントワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」を意味する言葉。SDGsの8番目の目標は労働に関するもので、目標達成の鍵を握るとも言われる重要な指針だ。働き方改革関連法やコロナ禍でのリモートワーク推進など、日本の取り組みについても紹介する。
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ディーセントワークとは、直訳すると、「社会的に許容される仕事(decent work)」という意味。
1999年の第87回ILO(国際労働機関)総会での、ファン・ソマビア事務局長の報告で初めて用いられ、「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」という意味で使われた(※1)。
労働者の人権が尊重されるだけでなく、働くことで生活が安定し、また人間としての尊厳を保つことのできる仕事、を示す言葉である。
日本では2019年の4月に、労働環境見直しのための働き方改革法案が施行された。このことにより、日本において「働きがいがある人間らしい仕事」と定義されたディーセントワークに近年注目が集まり、ディーセントワークの実現に向けて取り組む企業が増えている。
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周知のとおり、SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年9月の国連サミットで採択された国際目標のこと。2030年までに国際社会が協力し、環境、貧困、紛争などの諸問題を解決し、持続可能でよりよい世界を目指すことが目標とされている。
SDGsは、全部で17のゴール・169のターゲットから構成されており、8番目の目標のテーマは労働だ。
その目標を示す条文には、「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセントワークを推進する」とあり、ディーセントワークは、SDGsのゴールの1つに含まれていることがわかる。
ディーセントワークは、「誰一人とりのこさない世界」を目指す、SDGs達成の鍵を握っているとされる。なぜなら、まっとうな賃金を得られず、劣悪な環境や不平等に苦しみながら働く人々が、世界中にいるからだ。
ディーセントワークが推進されることで、こうした労働者の人権が尊重され、安定した収入を得られるようなる。また同時に、労働者のサポート環境や、男女平等の働きやすい環境が整い、地域に経済成長ももたらされるため、社会全体が健全な方向に向かっていくのだ。
働きがいのある安定的な仕事は、人々の暮らしに希望を与える。希望をもてることが、貧困から抜け出す糸口になり、犯罪や紛争を防ぎ、平和な世界を構築することへとつながっていくと考えられている(※2)。
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日本では、2012年7月の閣議決定「日本再生戦略」のなかで、ディーセントワークの実現が目標として盛り込まれた。しかし、その決定から多くの月日が流れたいまでも、日本の労働環境はさまざまな課題を抱えている。
なかでも深刻な課題としてしばしばテレビや新聞、雑誌などで取り上げられるのが、長時間労働の問題である。
厚生労働省の資料(※3)によると、パートタイム労働者を含んだ年間総実労働時間のデータでは、実労働時間は減少傾向にあるものの、一般労働者のみにしぼると、1995年から20年以上の間、実労働時間は約2000時間と横ばい状態が続いているのだ。
この状況を重く見た政府は、2019年4月より働き方改革関連法を施行した。この法律には時間外労働の上限規制や、年間5日の有給休暇取得の義務化などが盛り込まれ、ワークライフバランスを尊重した働き方への取り組みがスタートしたのだ。
これに対し企業は、ITを活用して業務の効率化を進める、フレックスタイム制を導入し、働き方の多様化を認めるなどの取り組みを進めてきた。また、新型コロナ感染症の影響により、2020年にはリモートワークの導入が大きく進んだ。
このような取り組みがあったためか、2020年の厚生労働省の資料(※4)によると、一般労働者の月間総実労働時間の平均値は160.4時間で、前年比でー2.6%となった。
平均月間出勤日数は19.4日なので、1日あたり8時間以上の労働時間という計算になる。これは、労働基準法で定められた「1日8時間、1週40時間」とほぼ同じであることがわかる。
こうした労働環境の改善はワークライフバランスの向上につながり、働きがいのある人間らしい仕事、ディーセントワークの実現にもつながっていくと考えられる。
このほか、ディーセントワークを導入することで、女性の労働環境が改善することでの人材不足の解消、社員のモチベーションアップと生産性の向上による業績アップ、透明性が高く働きやすい職場として企業イメージの向上などの効果も期待されている。
いまあなたが就いている仕事がディーセントワークであるかどうかは、以下のチェックポイント(※5)で確認することができる。
ディーセントワークを実現するためには、8つすべての項目を満たす必要がある。まずはチェックしてみてほしい。
Check1:安定して働く機会がある。
Check2:生活し、今後に備えて貯金できる十分な収入がある。
Check3:私生活と仕事とのバランスがとれる程度の労働時間である。
Check4:雇用保険、年金制度、医療制度に加入している。
Check5:仕事上で、性別、性自認、性的指向などによる不当な扱いがない。
Check6:精神的、身体的攻撃を与えられるなど、危険を感じることはない。
Check7:労働者の権利が保障されていて、職場に悩み、不安等の相談場所がある。
Check8:自己成長、働きがいを感じることができる。
チェックの結果はどうだっただろうか。
もし1つでも「No」がつくものがあれば、あなたの仕事はディーセントワークではないといえるのかもしれない。労働そのものだけではなく、労働環境、仕事以外の私生活までを包括的に充足させなければ、ディーセントワークは実現できないのだ。
※1 国際労働機関ホームページ
https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang--ja/index.htm
※2 SDGs達成のカギ、ディーセント・ワーク(ILO)資料
https://www.ilo.org/wcmsp5/groups/public/---asia/---ro-bangkok/---ilo-tokyo/documents/publication/wcms_645367.pdf
※3 労働時間の状況(厚生労働省)資料
https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/content/contents/202103041133.pdf
※4 毎月勤労統計調査 令和2年分結果確報(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r02/20cr/dl/pdf20cr.pdf
※5 日本労働組合総連合会ホームページ
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/kokusai/decentwork/
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