日本のごみ焼却処理は世界のスタンダードではない

えんとつ

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ごみゼロの未来に向けて

ごみは場所によってその問題の質が違い、地域性が高い。2013年にはごみの焼却率が77%だった日本が抱えるごみ問題と、平均22%(OECD)だった海外の間には、大きな溝が横たわっている。その背景を、ゼロ・ウェイスト・ジャパンの坂野晶さんに聞いた。

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2021.05.12
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坂野さん

坂野晶 Sakano Akira

一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事。兵庫県西宮市出身。4歳でインコと出会い、絶滅危惧種のオウム「カカポ」(ニュージーランドにのみ生息)への思いが高じて環境問題に興味を持つ。大学で環境政策を学び、卒業後、モンゴルのNGO、フィリピンの物流企業などを経て、2015年、徳島県上勝町NPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーに参画。2019年世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の共同議長を務める。2020年から現職。

OECD諸国では生ごみはコンポストにするのが主流

-------前回は「ごみとは何か」からうかがいました。今回は、ごみ処理の方法の問題をうかがいます。

坂野 OECDのごみの処理方法を比較したグラフを見てみましょう。

グラフ

黄:リサイクルとコンポスト オレンジ:焼却とエネルギー回収 赤:エネルギー回収なしの焼却 茶:埋立 OECD (2015), “Municipal Waste”, OECD Environment Statistics (database).

2013年のデータで少々古いのですが、グラフで左から4番目に示されている日本の焼却率は77%で、ナンバー1です。OECD平均が22%ですから、いかに高いかおわかりでしょう。

他国のごみ処理方法は、基本的に直接埋め立てがメインです。

一方、日本は「可燃ごみ」という言葉でわかるよう、基本的に「燃やす」ことを前提でごみを処理しています。燃えるかどうか、あるいは燃やしていいかどうかでごみを判別しています。リサイクルできるかどうか、資源になるかどうかという視点がもともと薄い。よって、リサイクル率も約19%と、OECD平均34%と比べて低く留まっています。ただし、処理されるごみの前提が違うので、単純に他国と比較できない部分もあります。

-------これほど大きな違いがあるのはなぜでしょうか?

坂野
 例えば、先述のOECDのグラフでリサイクル率が高くなっているヨーロッパ諸国などでは、ごみを「リサイクルできるもの」「コンポストできるもの」「その他」の、おおまかに3分類しています。日本の場合、ごみ処理は自治体単位で行いますが、「コンポストできるもの」の分類をしている自治体はほとんどありません。生ごみも「可燃ごみ」の収集対象です。

OECD諸国の多くでは、生ごみは「コンポストできるもの」です。国や地域によるので一概には言えませんが、家庭でのコンポストが普及していますし、自治体が収集するにしても、まとめてコンポスト場に集積して処理していることが多いです。

海外には「インダストリアル・コンポスティング(Industrial Composting)」という言葉がありますが、これはコンポスト処理自体が大規模に工業的に行われているからです。近年、「生分解できる素材」がプラスチックの代替品として台頭してきました。しかしこの「生分解できる」にも色々なグレードが存在します。

例としては、海水中でも分解できるものから、こうした工業的に温度管理などがされている一定条件を満たした環境下でないと分解できないものまであるのです。一概に「生分解性である」といってもこうした背景の違いにも目を向けたいですね。

日本が焼却炉大国になったわけ

煙突

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-------生ごみ処理はコンポストという潮流のなかで、日本が焼却をメインにしつづけているのはなぜでしょうか?

坂野 そこには日本固有の問題があります。一番の理由は、埋める土地が少ない、国土の問題です。日本も半世紀前までは、燃やさず埋め立てていました。有名なのは東京湾の「夢の島」と呼ばれる最終処分場です。しかし当然、公害の問題、容積の問題があります。そこで、生み出されたのが大型焼却炉による焼却です。ごみの容積を大幅に減らせるので、埋立て地を延命することができると。

ただ、そうは言っても、いつまでも焼却に頼りつづけることも難しい現実があります。日本のごみ焼却炉は、大型焼却炉です。30年、50年と使うことを前提に、多額の費用をかけて建てます。その間ずっと稼動させるには一定量燃やし続けなければいけない。逆に言うと、ごみの量を減らせない。

しかも、ほとんどの自治体が生ごみをいっしょに燃やしますが、生ごみはほとんど水分ですから燃やせば燃やすほど焼却炉の温度が下がります。そこで高温で燃えるごみを必要とします。プラスチックです。溶ければ油ですから。日本の大型焼却炉にはプラごみを減らせない理由があるのです。焼却炉のために燃やし続けなくてはならない。さらに、焼却炉によっては温度を上げるために直接灯油を炉内に撒いている場合もあります。大いなる矛盾です。

ここには大型焼却炉の建設には国から補助金がつくけれど、小規模な設備には補助がつかない、といったお金の出方の問題もあります。ごみの処理方法は、地域それぞれで考えたほうが最適解が出やすいのですが、大きな制度面では国の政策転換が絶対に必要です。

------日本のごみ処理は焼却がつづくのでしょうか?

坂野
 焼却炉が要らないということではないのですが、問題は、焼却炉1基建てるのに莫大なお金がかかるということです。いま使われている大型焼却炉はもって30年〜50年です。実は、そろそろ日本国中、立て替えを考えなければならない時期にさしかかっています。都市部はともかく、人口減にあえぐ地域に、とてもそんなお金はありません。ではどうするか。

私が2015年から取り組んだ徳島県上勝町のゼロ・ウェイスト活動は、まさに「焼却炉を立て替えるお金がない」ことから始まっています。

次回は、ゼロ・ウェイストについてお話しします。



取材・構成・執筆/佐藤恵菜 編集/松本麻美(ELEMINIST編集部)

※掲載している情報は、2021年5月12日時点のものです。

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