食糧を輸送する際の環境負荷を数字で表す「フードマイレージ」。島国で食糧自給率の低い日本は先進国のなかでもこの数字が極めて大きい。日本の現状と諸外国との比較、そしてフードマイレージを減らすために私たちができることをみていこう。
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フードマイレージとは、食べ物を意味する「Food(フード)」と車や飛行機などの走行・飛行した距離を指す「Milage(マイレージ)」をかけ合わせた造語。
私たちが口にする食べ物は、世界や日本国内の産地のどこかから運ばれてくるが、その輸送時の距離と輸送量をかけ合わせることで、二酸化炭素の排出量を想定し、環境負荷の大きさを計る目的で生み出された指標のひとつ。
20年以上前に農林水産政策研究所が提唱したもので、イギリスで1990年代に起こった「Food Miles(フードマイルズ)運動」が元になっている。フードマイルズ運動とは、"食料の量×輸送距離を意識し、なるべく地域内で生産された食料を消費することにより環境負荷を低減させていこう"という市民運動だ。
フードマイレージは、私たちが環境に配慮した生活をおくるためにどのような食べ物を選ぶべきかを教えてくれる指標となる。
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フードマイレージは、食料の「輸送量(t)」×「輸送距離(km)」で導き出され、単位は「t.km(トン・キロメートル)」で表される。「10トン」の食糧を「800km」運んだ場合のフードマイレージは、「8,000t.km」となる。
例えば、埼玉県産の大豆とアメリカ産の大豆、1トンを使って埼玉県で豆腐を生産した場合のそれぞれのフードマイレージとCO2排出量を比較すると以下のような数字になる(※1)。
アメリカ・アイオワ州産の大豆を使った場合
輸送量 1t × 輸送距離 19,968km =19,968t.km
CO2排出量は245.9kg
埼玉県小川町産の大豆を使った場合
輸送量 1t × 輸送距離 3.4km =3.4t.km
CO2排出量は0.6kg
小川町産の大豆を使い、小川町で豆腐に加工した場合、アメリカ産の大豆を使用した場合と比較してフードマイレージは約6000分の1、CO2排出量は約400分の1に抑えることができる。
※CO2排出量はフードマイレージt.kmにCO2排出係数をかけ合わせたもの。輸送手段ごとに係数は異なる。
フードマイレージは計算式がわかりやすく、地球環境への負荷を可視化できること、さらに産地間や代替可能な食べ物同士で容易に比較検討できる点が魅力だ。"輸送距離の少ないものを食べよう"と、具体的な行動にうつしやすい点もメリットといえる。一方、フードマイレージを用いる場合に留意しておきたい点もある。
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ひとつ目は、輸送方法によってCO2排出量といった環境負荷が大きく異なってくる点。フードマイレージでは、輸送量と輸送距離しか考慮されず、どのような機関を使用して運ぶかが計算に含まれていない。
その物が運ばれる手段がトラックなのか、飛行機なのか、鉄道なのか、船舶なのかによって、移動距離は同様でもCO2排出量が大きく異なってくるのだ。少し古いデータになるが、国土交通省の「交通関係エネルギー要覧」平13・14年版によると、二酸化炭素排出係数は以下のようになる。
営業用普通トラック | 180(g-CO2 / t・km) |
---|---|
鉄道 | 22 |
内航船舶 | 40 |
外航船舶(バルカー) | 10 |
外航船舶(コンテナ) | 21 |
航空 | 1461 |
フードマイレージ(t.km)に対してこの二酸化炭素排出係数をかけ合わせることによって、CO2排出量を算出できるというもの。
先述した、埼玉県産の大豆とアメリカ産の大豆を使って豆腐つくった場合の比較では、この二酸化炭素排出係数を使い算出している。
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フードマイレージを用いる際の2つ目の留意点は、食糧の輸送に限定した指標であるため、生産方法や消費の状況、破棄時の環境負荷は考慮されていないこと。
例えば、自然に近い環境で人工的な手をあまり加えずに生産された食品を船で輸入する場合と、国内で労働力と資本を大量投下して生産しトラックで輸送する場合を比べると、トータルでは前者の方が環境負荷が小さくなる可能性があるということ。フードマイレージで算出された数字だけをみていると把握できない部分があるのだ。
製品全体の環境負荷をみるためには、カーボンフットプリントが適している。カーボンフットプリントとは、商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体で排出された温室効果ガスの量をCO2量に換算して表示する仕組みのこと。
では、日本のフードマイレージは他国と比べるとどのようなものなのか。グラフをみながら、現状と改善のための方法をみていこう。
2001年から2016年にかけて緩やかに減少しているものの、他国と比較すると日本のフードマイレージの大きさが際立つ。韓国とアメリカに比べ日本は約3倍、イギリスとドイツの約5倍、フランスに比べると約9倍だ。
品目別にみると穀物 51 %、油糧種子21 %であり、この2品目で全体の7割強を占めている。その理由は、これらの品目は比較的にかさばること、また、輸入先がアメリカやカナダ、オーストラリアなど遠隔地が多いためとされる(※2)。
国民1人あたりに換算すると、次のようなグラフになる。
2016年では約 6,600t・km/人であり、日本は諸外国に比べて多いことがわかる。
2001年当時、人口が日本の4割弱である韓国は、1人あたりに換算すると日本と同程度になる。一方、日本の約 2.2 倍の人口を擁するアメリカは1割強程度におさまっている。
グラフから見て取れるように、日本は諸外国に比べてフードマイレージが驚くほど大きい。それはなぜなのか。その要因としては、次のことが考えられる。
まずひとつ目の理由として、自国内での食糧自給率の低さがあげられる。令和4年度の日本の自給率(カロリーベース)をみると38%。主要国のなかでもっとも低い水準だ。
自給率が低いということは、その分輸入に頼るところが大きいということであり、諸外国から日本に運ばれてくる食糧が多いということ。例えば日本のフードマイレージの約半分を占める穀物では、小麦、大豆、トウモロコシの合計2,570万トンの需要量のうち、そのほとんどの約2,430万トンが輸入である(※3)。
フードマイレージが小さいフランスやアメリカを見ると自給率が100%を超えている。このように、食糧自給率が低く輸入に頼っている現状が、日本のフードマイレージを大きくしている要因のひとつだ。
島国という地理的な要因も深く関係している。上のグラフでイギリスの自給率(カロリーベース)が54%にとどまっているにも関わらず、フードマイレージの数字は日本ほど大きくなっていない。
その要因として、欧米各国の平均輸送距離が日本の2~4割の水準にとどまっていることがあげられる。日本の輸入食料の平均輸送距離は約1万 5,000km。これは直線距離で東京からアフリカ大陸南端のケープタウンまでの距離にほぼ等しい(※2)。日本は島国であるために、輸入の距離が必然的に長くなり、その分フードマイレージも大きくなってしまうのだ。
また、日本の輸入先国も影響している。日本はアメリカ、カナダ、オーストラリアからの輸入にかかるフードマイレージが全体の約8割を占めている(※2)。一方、韓国は同様にアメリカの割合が高いものの、輸入量ベースでは中国が上位に、アメリカはカナダやメキシコなど陸続きの隣国が、欧米各国も近隣国が輸入相手国となっている。
これまでみてきたように、日本は先進国のなかでフードマイレージが飛び抜けて大きい。
要因に挙げた2つのうち、食糧自給率の低さは国をあげて改善に取り組んでいる(※4)。地理的要因は変えることができないため、日本国内での生産と消費を活発化させて輸入量を減らすことが必要だ。そのために私たちひとりひとりが日常でできることは次の3つ。
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地産地消とは、地元で生産されたものを地元で消費すること。フードマイレージは、食糧の移動距離が長ければ長いほど、数値があがる。自分の生活圏から近い産地のものを意識的に選ぶこと、買える場所を知っておくことも、フードマイレージを減らすための解決策のひとつだ。
フードマイレージの元となったイギリスの「Food Miles(フードマイルズ)運動」も、"なるべく地域内で生産された食料を消費することにより環境負荷を低減させていこう"という目的で生まれた市民運動だった。
近年は農産物に対する安全・安心志向の高まりから、直販所やファーマーズマーケットが再注目されていたり、農家と消費者を直接つなげるサービスなども登場している。スーパーマーケットで地元の食材を扱うコーナーを設けているところも少なくない。
地産地消のメリットは、鮮度が高いものを口にすることができ、生産者の顔がみえる安心感と食の安全を手にいれることができること。そして、地産地消の取り組みによって地域の活性化やコミュニティの強化、消費と流通が活発になることによる生産率の向上が期待できるという点にある。さらにその先に、日本の食糧自給率の向上への寄与も期待できる。
住んでいる地域によって地産地消が難しい場合は、できる限り国産のものを選ぶのも方法のひとつ。
ある算出によると、日本の食料輸入に伴うCO2排出量は年間16.9百万t。1人あたり約130kgであり、夏の間の冷房時間を1時間短縮した場合の19年分、毎日1時間テレビを見る時間を短縮した場合の11年分に相当するという(※1)。
農産物や海産物などの食材そのものを買うときのみならず、加工品を購入するときにも、原材料が国産なのか外国産なのかを確認し、国産の原材料を使用しているものを選ぶ。それだけでもささやかなながらフードマイレージの減少に意味のある消費活動になる。
さらに、"購買は投票"という言葉があるように、国産のものを選んで買うことで生産者や製造者を応援することになり、日本国内の生産がより活発になるというメリットも期待できる。
日本の四季に合わせた、季節折々の旬な食材を食べるだけでも、意味のある取り組みだ。
季節外に売られているものは、どこか遠くの国からやってきた可能性が高い。自国栽培だとしても、生産時に多くのエネルギーを使用し、CO2を排出している可能性が高い。
旬な食材は栄養価が高く、新鮮で、その季節にあった栄養素を摂取できるという点で、身体にもいい。安価に手に入れられるというメリットもある。
旬な食材を知り、積極的に食べることで、環境にも身体にもいい選択ができる。
フードマイレージは、自分が日常で口にするものの環境負荷を知ることができる、シンプルでわかりやすい指標だ。輸送機関が考慮されない点や、輸送以外の部分の環境負荷が含まれていないというデメリットがあるものの、私たちが日常的に環境負荷を意識した食事を取るための便利な指標のひとつになってくれる。
食糧自給率が低く、地理的要因からもフードマイレージが大きい日本は、まだまだ減らすことが難しい状況と言える。そのようななかで、購入時に産地を確認する、なるべく国産のものを選ぶ、自分の生活圏に近いものを選ぶといった工夫をするだけで、環境負荷の軽減につなげることができる。
フードマイレージを知り、私たちが日常のささやかな取り組みで努力することが、地球環境の持続につながっていく。
※1 農林水産省|「フード・マイレージ」について
※2 農林水産政策研究所|食料の総輸入量・距離(フード・マイレージ)とその環境に及ぼす負荷に関する考察 中田哲也
※3 三菱総合研究所|日本の食料国内生産と輸入量の実態
※4 農林水産省|日本の食料自給率
参考
・農林水産省|世界の食料自給率
・環境省|運輸部門における二酸化炭素排出量
・フードマイレージ資料室|フード・マイレージとは
・フードマイレージ資料室|図2-1 食料の輸送に伴う二酸化炭素排出量(試算)
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